第二十二話・激突!魔王と勇者!天王山の斗い
【第二十二話・激突!魔王と勇者!天王山の斗い】
その時、山の上に、何千…何万頭の羊が現れました。
その山だけではありません。
城を囲む、四方の山々に数えきれないほどの羊の群れがいたのです。
「あれは…。」
羊たちは興奮し、前足でカツカツと地面を蹴り上げました。
やがて、羊たちは一斉に山を駆け下りました。
メロスはドドンゴの背に聖王のマントに包んだサロメの遺骸を抱いたまま跨り共に山を下ったのです。
その何千何万頭の羊たちが魔物目掛けての大突進です!
「なんだ!なんだこれは!」
ルキフェゴールはうろたえました。
「防ぎきれん!数が…多すぎる…!!」
ドラゴンも…
巨人たちも…
魔王ルキフェゴールも…
羊の群れに体当たりされ…踏まれ…
城壁さえも粉々にてしまいました。
まもののむれはぜんめつした!!
メロスは激しい体当たり攻撃で満身創痍の素っ裸の姿になっていました。
サロメの遺体に覆いかぶさってを守ったのです。
「サロメ…。」
メロスはつぶやきました。
「サロメ…やったよ…。」
最後の力を振り絞って、サロメに声をかけました。
しかし、サロメから「おめでとうございます。勇者様」の言葉はなかったのです。
「やった…!」
町人の一人が声を上げました。
「やったぞーーー!!」
人々は生きていました。
誰一人かけることなく。
累々と転がる魔物の群れをみながらメロスに向かって歓声をあげました。
「キミは…あの…メロスなのか?」
ディオニス王が声をかけます。
「言ったっしょ?必ず来るって!」
セリヌンティウスもはりつけ台の上から言います。
「王様…来ました。私です。殺されるのは私です。メロスです。彼を人質にした私はここにいます…。」
メロスはうつむきながらそう言いました。
その瞬間、またもやフィールド音が消え…曲調が変わりました。
今度はもっと恐ろしい音です。
激しい、激しい絶望的な音楽でした!
(もう、それでいいや)
「やはり…情けをかけるべきではなかった…。貴様もやはり…」
ルキフェゴールの亡骸がみるみる立ち上がってゆきます。
「その女の死が貴様を変えたのか?」
ルキフェゴールの体が徐々に膨らんで手やら足やらがモコモコと生えてゆきます。
「…余も一族の死の哀しみが…。ひ弱な人間や動物に負けた悔しさが…。」
さらに体が巨大化します。
「余を新たに進化させたぞ…。魔王から大魔王へな…。」
その体が筋骨隆々とし、足は四本、腕は六本、顔は三つ。
腕にはそれぞれ違う武器が握られ、目には生気と怒気が含まれておりました。
「認めよう。貴様が勇者であることを。甦れ!わが一族よ!」
変貌を遂げた大魔王がそう叫ぶと、魔物の死骸がみるみる立ち上がります。
死骸が蘇ったのです!
しかも、城壁はありません。
人々の顔は一気に真っ青になりました。
絶望…。
今度は本当に絶望でした。
「べーべーべー」
羊の群れが啼き出し、メロスの方を見ています。
メロスは頷きました。
またもや、大きく息を吸い込み、
ピピ――――――!!!
と、口笛を吹きました!
羊たちは、前足で地面を蹴りだします。
ルキフェゴールはふふふと笑いました。
「ふふふ。芸がない。またもや同じ体当たり攻撃とは。こうすればどうする??」
ルキフェゴールに大きな翼が生え、バッサバッサと羽ばたきました。
そして、念力で魔物たちを浮かび上がらせたのです。
メロスは羊たちを走らせました!
山の上に駆け上がり、やがて山の影に隠れて見えなくなりました。
ルキフェゴールは大笑しました。
「はっはっは!勇者が逃げたぞ!我らの勝利だ!…さぁ…人間ども…丸焼きにしてやる…。」
ルキフェゴールは大きく息を吸い込みました。
その口には炎がゴウゴウと灯っておりました。
しかし…
またもや地響きです。
山の上から、羊の群れが下ってきます。
「はは!また同じではないか!我らは空の上!どーする!勇者!きさまもバーベキューにしてやる!」
といったところで、羊たちは山の中腹辺りで皆一様にピョーーーンと大ジャンプしました。
そのジャンプ力はルキフェゴールの高さを越え、空は一面真っ暗に…。
そして、魔物の群れを目掛けて落下します。
「しまった!」
ルキフェゴールは魔物たちを念力で浮かせることに力を使っていたので、避けることができません。
今、念力を解けば、仲間は落下して死んでしまう。
かと言ってこのままでは羊たちの攻撃を受けてしまう!
「念力を解いて反撃を…。」
判断が少し遅れました。
すでに羊の落下は始まり、中には回転をつけて落下しているものも。
ヒューン!ヒューン!と音を立てて羊の群れが落ちてゆきます。
何千、何万という羊です。
落下スピードと羊たちの重さが相まり、魔物たちを巻き込み地面に衝突!
名付けて「羊流星攻撃」とでも言いましょうか…。
とにかく、もはや地面に激突したルキフェゴールが起き上がることはありませんでした…。




