第二十話・遂に魔王に遭遇、静かに勇者を刺す
【第二十話・遂に魔王に遭遇、静かに勇者を刺す】
どんどんと近づいてくる地響き。
メロスとサロメは目をつぶったままです。
「はははははは!」
大悪魔フォラスの高笑い!
そうとうに近くなる地響き。止まりません。
そうこうしていると…
「ぐぁ!!」
フォラスになにやら激突した音が聞こえました。
跳ね上がる二人の経験値!
二人のレベルは半端なく上昇しました!
メロスとサロメがゆっくりと目を開けると、土煙の中にいたのは…
「ドドンゴ!」
山のような羊のドドンゴでした。
ドドンゴはメロスとサロメの匂いを嗅ぎ分け、数日かけて二人の元に追い付いたのです。
別にフォラスに激突するとは思ってはいなかったのですが、成り行き上ぶつかってしまったのでした。
見ると、フォラスは巨石に突き刺さりトマトが潰れたようになって死んでいました。
手からカランと霹靂の杖が落ちます。
「ありがとう。ドドンゴ。おかげで助かったよ。サロメも死なずに済んだし…オレはセリヌンティウスとの約束を守れる!」
ドドンゴは言葉が分かったのか、ニヤリと笑ったように見えました。
「ドドンゴ。お役目ご苦労。あとはレダの元に帰ってくれ。」
ドドンゴは鼻を鳴らすと、メロスから少し離れた場所の草を食べ始め、やがて、眠そうな目をしていました。
「ふふ…。」
「サロメ。さぁ…行こうか!」
「はい!」
危機が去った二人は城の方に体を向けます。
その時でした。
「な、なんだ??」
「フィールドの音楽が…変わりましたね…。」
そうなのです。フィールド音が消え、戦闘の音らしき勇ましい曲に変わりました。
しかし聞いたことのない音…これは…最終決戦の曲です!
(なんなの?曲って…)
振り返ると、空が真っ暗に!
巨大な角が何本も生えた頭…。
鎧に固められた肉体。
ドドンゴほどもある大きな馬。
息をするたびに炎やら吹雪がチラチラと口から覗きます。
その者は馬上から降りました。
「数々の余の部下を倒した勇者よ。君には最敬礼が必要だな。馬上では失礼と思い降りさせてもらったよ。」
メロスとサロメの足がガクガクと震えました。
格が違う…。今まで戦ってきたものとは…。
「たしかに…勇者の素質はあるようだが…。」
魔王は言葉を止めました。
「玉磨かざれば其の光なしだ。育った環境が悪いのか…呪文も一つも使えず、剣も握っておらん。少しも脅威ではないな…はは…。」
「魔王…。」
「そうだ。余がルキフェゴールだ。見知ったか??」
魔王が話す言葉一つ一つに重みを感じました。
二人とも、何もされていないのに膝をついてしまうほどの重力でした。
「キミの名を聞いておこうか。」
「メロス…。」
「そうか…。しかし、君は勇者ではない。殺さないでやろう…。」
二人とも、ホッと息がもれました。
「…ん…?」
魔王はもう一度二人の方を見ました。
サロメに顔を近づけます。
「そうか…お前か…。」
「え?わたしが勇者…?」
魔王はニヤと笑います。
「そうではない。オマエ、勇者を宿したな??」
ウサギはオスに出会うと排卵します。
天敵が多いので子孫を残そうとするからです。
雨があまり振らないと、木々は花を咲かせます。
野生の動植物は危機的状況では子孫を残そうと、100%以上の力を出すことがあります。
この一晩で強敵と戦いずくめの二人には子孫を残そうとする力が通常よりあったとしても言い過ぎではありません。
メロスは驚いてサロメの前に出てかばいます。
どんどんと大きくなる戦闘音!しかも曲調が早くなります!
(なんなんだよ。曲って…)
「どうか、サロメはお救いください!オレを…オレを殺してください!」
魔王は困ったような顔をしました。
「ふむ…美しきかな、人間の情愛…。我ら悪魔の中にも仲間を愛する気持ち…子孫を愛する気持ちがある…。種族が違えど当然のことだ。」
「で…では…。」
「…
だ
め
だ
ね。」
ルキフェゴールの爪がメロスを避けてクニャリと曲がりながら伸び、サロメの腹部に突き刺さりました!
「あーーーーー!!!!」
メロスは涙を流しながらサロメに駆け寄ります。
魔王の爪はサロメの体を貫通し、メロスの手にはべっとりと血がついていました。
サロメは苦しそうに血をブブッと吐きました。
「これで後顧の憂いは無くなった。さぁ、我が精強なる兵たちよ!あの城を落とすのだ!ゆくぞ!」
魔王軍は、メロスに目もくれず、山を下ってゆきました。
曲も徐々にフィールド音に変わって行きます。




