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第十七話・勇士は怪魔を道連れにせんと欲し、魔王は訃報に落涙す


【第十七話・勇士ゆうし怪魔かいま道連みちづれにせんとほっし、魔王まおう訃報ふほう落涙らくるいす】



キールはジンを止めようとします。


「待て!ジン!二人を斬ったのはたしかにオレの過失だ!しかし、これはディサイドの計略だ!」


「殺されたくないから、必死だなぁ。ジン。やつはまっすぐ先にいるぞ?さぁ、剣を振り下ろせ。」


ジンの肩に手が置かれます。


「ジン…。やめろ…。故郷の村を一緒に出たことを思い出せ。オマエの母さんが最後に最高のスープを作ってくれたよなぁ…。」


ジンの後ろから声がします。


「しかし、ラムが仲間に入ってから変わったよな?キールはずっとをラム見ていたぞ?ラムもキールを…。ジン…お前の恋は決して敵わなかったんだ。ヤツがいる限り…。」


ジンの手がワナワナと震えます…。


「ヤツを殺せ!ジン!お前の方が剣の腕前は優れている!…そうだ…キールを殺したらラムを生き返らせてやろう…。」


ジンは剣を上段に振り上げました。


「わぁーーーー!!」


キールは右に転がりました。


「ジン。右だ!振り下ろせ!」


「うわぁーーーー!!」


ジンの切っ先がキールの近くの地面にカツリと音を立てて振り下ろされます。


「マジか?ジン!正気に戻れ!」


さらに右に転がるキール。

ドンと何かに当たる。


(ラムの体か?)


「右だ。ジン!」


ジャリっと前に進む音がします。

キールは後ろに転がりに立ち上がって剣を構えました。


「前に進めジン。剣を構えろ!」


さらに砂を踏む音。

キールは、ジンの足を刺して止めようと考えました。

そして、後で回復呪文をかけようと…。


「わぁーーーー!」


ジンの声だ!キールはその声の方向にしゃがんで、足に向かって剣を差しました。


ジンが足を進めた先にはラムの遺体が。

その体に当たり、転びます。


そこにキールの剣が突き刺さりました!


「ぐぁ!!」


(この感触…足じゃない!まさか!)


「…キール…。」


ジンの声の方に駆け寄ります。


「ジン…。ジン…。」


キールの剣はジンの腹部に刺さっていました。


「これは…ラムの体か…。」


「そうだ…しっかりしろ…今、回復呪文を…。」


「いいんだ…ディサイドを倒してくれ…。このまま…ラムを抱いて死ねるなら…構わない…。」


「ジン!もう、いいんだ!しゃべるんじゃない…。」


「ラム…お前が…好きだった…よ…。」


トサリと腕が地面に落ちる音。


「くそう…くそう…。」


「キール…一人になってしまったなぁ…。しかもお前は見えない。オレにはお前の姿が丸見えだ。」


ディサイドはキールを弄びます。


「しかも、君は勇者じゃないよ。今まで何人も勇者を倒してきたが…。君にはその光がない。神託を受けたなどと騙されたんだよ。」


「ウソだ!」


「ウソなもんか。あの神官は君の能力を見てそうだと思い込んだだけだ。勇者には近いが勇者ではない。ククク。」


キールは必死に剣を振り回します。


「どこだ!どこだ!クソォ!」


「ここだよ。君の体の中に入った。」


キールの体の中から声がします。


「いま、心臓を握っている。」


「ヤメロ!」


「このまま握りつぶしてやる。」


「やめてくれ!」


「仲間を殺した責任を取れ。キール。オレが裁いてやる。」


キールは、息をのみました。


「最初に、相手にとって不足と言ってすまなかった。」


「ふふふ…私は小者ではなかったろ?」


「キミは、魔王軍の将になれれば砦を任されたほどだったんだろう。」


「…かもね…。」


「そんな、奴と共倒れできるなら喜んで死のう!」


「ぬ!!!」


キールは剣を自分の胸に向けました。


「ヤメロ!」


「オレが死んで…新しい勇者が生まれたら…世界を救ってくれ!人間に栄光あれ!!」


キールは自分の胸に剣を突き立てました。




物音…静寂…。




しだいに闇が晴れてゆきます。


黒いマントを自分に巻いてゆく黒づくめの長身の魔物…。

頭にはフードを被り、顔には黒い布…。


その周りには動き回った足跡はありません。

最初からその場に留まり声だけでキール一行を倒したのでしょう。


恐ろしい魔物です。

ディサイドはキール達を見ます。


自分の胸に剣を突き立て膝をついて絶命しているキール。


ジンはウォッカを抱いたままキスをして死んでいます。


ラムは一つ離れたところで目を見開いたままキールのほうを向き…腰から下と胴体は別れておりました。


「ふふふ…楽勝…。ジンはウォッカが好きだったのかねぇ?ふふ…。ははは。さて…本物の勇者どのはどこにおられるのかな?ははは…ははははは…。」


ディサイドは黒いマントを少し広げて空に舞い上がりディオニス王のいる城を目掛けて飛んでいきました。



その頃、魔王も城を出て駒を進めていました。


「この辺は…フォラスの砦がある辺りだな。」


「左様でございます。」


「フォラスは砦を出ておるか?」


「はい。すでにフォラスとディサイドの二人は砦をでて、急ピッチで勇者を追っております。」


「ふふ…頼もしい。フォラスは徒党は組まん。たった二人で大群さえものともせんからな。勇者とて王とてひとたまりもあるまい。」


呵呵大笑とする魔王ルキフェゴール。

そこに、訃報の使者が魔王の前で馬を降り、跪いて報告いたします。


「残念でございます。シェイドさま、討ち死に。」


「な、なんと…。」


魔王は顔を抑えました。


「彼のものには父の後を継いで…余の片腕になってもらいたかったのに…。」


魔王ルキフェゴールはそっとマントで目頭を拭きました。


「魔王さま、シェイドは武の者。戦で敗れたのならば本望でございましょう。兵が動揺いたしますので何卒、気を保たれますよう…。」


「そ、そうであったな…。」


そこにまたもや使者が報告を持ってきます。


「魔王様!グランド様が勇者キールというものに一族郎党討ち取られました!」


「な、なんと!またしても勇者とな??」


「は!仲間四人とともにこちらに向かってまいります。」


「グランドほどの豪の者が…。」


魔王ルキフェゴールは、背筋をピンと伸ばし動揺を隠しました。


「勇者など何するものぞ!二人の勇者などいるはずがない!どちらかが偽物なのであろう。この目で見ればわかる。今まで何度も勇者を討ち果たしてきた。フォラスも…ディサイドもだ!このまま、人の世界をつぶしてしまうのだ!行くぞ!」


魔王は軍隊を進めました。



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