第十五話・メロス神託を受けられず、尼僧と別れ幽鬼に狂言を聴く
【第十五話・メロス神託を受けられず、尼僧と別れ幽鬼に狂言を聴く】
うっそうとした木々を抜けると、神聖な空気が漂う中、石造りのほこらが見えてきました。
中には高い燭台が飾られ、赤いカーテンに覆われています。
「キミたちは…。」
中央の台には神官らしき男。
「オレは、メロス。こっちはサロメです。勇者かどうかの神託を受けに来ました。」
「…勇者は…すでにこの時代に降り立ちました。名をキールと。」
「はぁ…。」
「よって、君は勇者ではありません。」
「はい…。」
「そ、そんな…。」
「いや…サロメ…分かっていた…。」
「え?」
驚くサロメ。
「オレは勇者じゃない。今から城に戻って死刑を受ける身。罪人なんだ。」
「まさか…。」
「オレが戻らないと、友人が代わりに死刑になる。だから、サロメ…。」
「はい…。」
「キミは、キールの後を追うんだ。あのチームには僧侶がいなかった。きっと暖かく迎えられるはずだ。」
「そんな…いやです…。」
メロスは黙って聖王のマントを脱ぎました。
それをサロメにかけてやります。
「オレが羽織るより君がつけていたほうが役に立つ。どうか世界を救ってくれ。」
そう言って、サロメに背を向けました。
「早く行け…。」
「いやです。」
「早く行ってくれ!正直足手まといなんだよ!」
メロスの強い口調にサロメは
「勇者様…ゆうじゃざまぁ……。」
泣きながら外に出て行ってしまいました。
メロスは天を仰いでため息をつきます。
「…あれで…良かったのですか?」
神官の問いに
「ああ…。オレは勇者じゃない。彼女も最初っから世界を救うのが目的だったんだ。これでいい…これで…思い残すことなく死んでいける…。」
「世界は魔王に脅かされ、人の頂点はあのディオニス王…。まさに内憂外患。ああ…神よ…どうか我らをお救いください…。」
神官は嘆いたものですが…メロスにはもう関係のないことでした。
メロスは神託所を出ました。
周りを見渡します。
サロメの姿は…
ありませんでした。
メロスは何に期待するわけでもありませんでしたが、フゥとため息をつき肩を落としました。
その時でした。
「もし…。」
誰かが呼び止めました。
メロスが振り向くと、そこには物々しい鎧に身を包んだ勇ましい女性が立っていました。
「ん?君も…神託を受けに来た勇者候補かい?」
「いえ…。」
「では…魔王討伐の戦士??」
「いえいえ。」
「じゃぁ…。」
女性はフフフと笑いました。
「なに?」
「メロス、あなたは神託を受けにきたのでしょう?」
「そうだけど…無駄足だったよ。すでに勇者は現れた。」
「いえいえ、まだ勇者は現れてませんよ。」
「はぁ??」
メロスは露骨にいやな顔をしました。
自分自身は現実にここで聞いたのです。
なにを知ったフリをして大言壮語するのか…この女は…と思ったものです。
「勇者はまだ現れていません。今はただの「者」でしかありません。「勇気」がないのですから。」
「はいはい…。」
メロスは、女性に背を向けて走り出そうとした。
「メロスよ。」
「なに??」
メロスは振り向いて女性を見ました。
女性はわずかに輝いて体が半分透けていました。
「人の神官の言に惑わされるな。あなたは牧神パーンの加護もある。立ち向かいなさい。あなたにはその素質がある。」
そう言って、女性は消えてしまいました。
「え…??まさか…。」
メロスはビックリしてしりもちをつきました。
「ゆ、幽霊??」
メロスは呼吸を整えて、立ち上がりました。
「はぁはぁ…驚いてなんていられない…。とにかく…城に戻らないと…。」
とんだ時間を食いました。メロスは走り出します。
城に向かって。
一人で。
その後ろでカサカサと茂みが動きました。
「聖アテナさま…」
サロメでした。幼い頃、自分が育った教会で見た絵とそっくりな女性とメロスの話しを聞いていたのです。
「やはり…勇者様…。」
サロメは聖王の緋のマントを翻してメロスの後をそっと追いました。