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ルルイユ王家の歴史は古い。

脈々と途切れることなく受け継がれてきた王家の血は、その美しい髪と瞳の色に現れるという。

そして、その積み重ねられてきた歴史と同じだけの重みを持つ、格式と品格が、その血筋をさらに確固たるものにしていた。

四季折々に独自の儀礼が存在し、守るべき戒律の如きしきたりは幾多数多。それは、ルルイユ王国が国教と定める宗教、『ルベウム教』に則り、厳粛に定められている。

そして、王家に輿入れする者は、男女問わず、血筋の貴賎が重視され、婚約の儀、婚姻の儀は、それは盛大なものである。

婚儀においては、まず、新郎新婦はルベウム教の主神である大神ルベリウスの御前にて夫婦の誓いを立てる。それから、新婦はさらに、ルルイユ王家の母親と子供の守護神である女神エステアに祈りを捧げなくてはならない。子宝に恵まれるため、エステアの加護を願う儀式である…と、されている。

ルルイユ王国においては、この婚儀の様式がかなり簡略化されたものが、一般的な結婚式とされている。具体的にどこを簡略化しているかといえば、エステアに祈る下りである。一般市民の結婚式ではすっぱり割愛されている。


「……まあ、伝統を重んじることを全て否定するつもりはございませんわよ、私も。寧ろ歴史あるものは大変美しいと思いますわよ、ええ」

「お前は昔から、歴史書や古代遺跡を好んでいたからな。…で、突然どうした」


書斎で物憂げにページを繰る手を止めて、まるでため息をつくように喋り出したエクレイアを、ラヴィエルは面白そうに眺めた。彼の手は完全に止まり、金属の栞を本に挟んで本を閉じてしまう。

エクレイアは開いた本の上に指先を乗せたまま、睫毛を伏せて深々と、今度こそため息をついた。


「ですけれどね、こちらの身に覚えもない物心つく前に大人たちが勝手に決めてしまった婚約を、神前で行ったものだから神前にて解消しなければならない、だなんて、理不尽極まりないと思いません?」

「ほう?」

「だって、いくら格式ある儀式だったとしても、形骸化して久しいのですよ? 先のミザリー元妃の婚姻解消も、随分簡略化されておりましたのに…、どうしてまた凝り固まった儀式に戻す必要がございまして?」


エクレイアの脳裏には、この世界には存在し得ない、印鑑の押された書類が浮かんでいた。婚姻もその解消も、この紙ぺら一枚、である。それに比べれば、この大仰な儀式のなんと非生産的なこと。これは、凄まじく高価なドレスと贅を凝らしたアクセサリーを、とんでもない時間をかけて作るはめになった彼女の、渾身の嫌味では決してない。

ラヴィエルは、普段は儀礼儀式や伝統格式を重んじる彼女らしからぬ、それらを纏めて軽視したとすら捉えられる言葉に少なからず驚いたようだった。


「…まあ、人の上に立つ力ある家なら柵もあるものだろう。受け継いできた儀礼や儀式は、中々やめられないものだ」

「つまりタテマエということね、外部へ向けての。だって先代のお妃様方の中にも、ルベリウス神の神殿に礼拝に行かれるような方、そうそうおいでになりませんでしたもの」

「そう言うな。権威を示すためには、古きを切り捨てることも、そして反対に古きを守り続けることも、どちらも必要なことだ」


面白がるつもりが、あまりにやさぐれたエクレイアを宥める役回りになってしまったラヴィエルは、いつもの余裕ある表情からは珍しく、多少苦笑いを含んではいるものの、穏やかな表情を浮かべていた。

その表情に、ドレスの採寸とアクセサリー選びに翻弄されて疲弊しきったエクレイアは気付かない。

…そう、婚約破棄の儀は、いよいよ目前に迫っているのだ。

波乱の幕開けはすぐそこに。

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