ビラを配る女
岡倉女子短大前と書かれた駅で女は電車を降りた。
「今日はこの駅前で配って見よう、あの娘が学生時代に通っていた駅前で・・・。」
女は駅長室に行き事情を説明して許可を取った。
女の名は坂巻綾子(48)一人暮らしの娘が行方不明になり、毎週日曜日に娘の目撃情報を求めビラを配っている。
「すいません・・お願いします。この女性を見ませんでしたか・・?」
約一時間で用意したビラは配り終えた、ビラには娘の写真と情報をくれた方への謝礼、連絡先などが描かれている。
心ない人はビラを受け取りすぐ道端に捨てて行く・・・。
「坂巻さんどうでした?」
道に捨てられたビラを拾っていると、駅長が声をかけて来た。
「・・・(笑)・・・」
坂巻綾子は力無い笑顔を向け首を左右に振った。
「あきらめてはいけませんよ・・・娘さんはきっと見つかりますよ。」
そう言って、駅長は拾ったビラ2〜3枚を綾子に渡し、駅長室に帰って行った。
娘の行方不明は会社からの連絡で綾子は知った。
携帯にかけても通じづ・・・アパートへ足を運んだのだが、部屋の中は生活感があり亜由美だけが忽然と消えた感じだった。
それから時間が許す限り綾子は、主要な駅前で娘を探すためにビラを配っているのであった。
「あのう・・謝礼はほんとに貰えるのですか?。」
まだ高校生くらいだろうか、一人の女性が声をかけて来た。
「はい、確かな情報であればそれなりに出しますけど・・・お嬢さん、娘を知っているのですか?」
綾子は半信半疑だった。今まで報酬欲しさの嘘の情報に、何度も踊らされて居る綾子であった。
話は変わりここは岡倉女子短大の裏庭である。
見事な築山の一角に、鯉を飼っている10メートルにも及ぶヒョウタン池がある。その池の真ん中に架かっている石橋の上から、初老の紳士が鯉に餌を与えている。
「大変です理事長!。」秘書である田中が、ずり落ちそうになったメガネを人差し指で押し上げながら走って来た。
「どうした田中?お前の眼鏡に鯉がびっくりして逃げたじゃないか・・。」
理事長の河口は、秘書の田中がかけている牛乳瓶の底みたいなメガネをどうしても好きになれなかった。
「神崎真理が水死体で発見されて、今、岡倉警察病院で司法解剖されて居るそうです。」
「なにぃ・・・。」 河口は目を剥いて田中を睨みながら続けた。
「クランパールや、私達との関係は分からないとは思うが・・・用心に越したことはない、監禁している佐伯校長と寮長を手はず道理に殺れ、私はクランパールにアロマ香と覚醒剤を使った人体実験の中止を伝えておく。」
「はい、遺書を添えてぬかりなく二人を覚悟の自殺として処分します。実験材料の大下和美と村田 愛も一緒に始末しましょうか・・?」
田中はその牛乳瓶の奥底に残忍な光を宿した。
河口は二・三度首を振りながら、唇に残忍な笑みを浮かべて、
「いや、あの二人は警察の目を欺くために別な方法を考えてある。お前は校長と寮長を抜かり無く殺れ・・・!」河口はそう言うと池の中に餌を投げ込んだ。
「分かりました。また御子神から連絡が入ればお伝えします。」
そう言って、牛乳瓶・・いや、秘書の田中は去って行った。
「高価な餌もあまり食わぬか・・・この前の御馳走が余程良かったのだな・・?!」
河口は自分の投げ込んだ餌にあまり興味を示さない、丸々と太った錦鯉に向かって獰猛な笑みを浮かべるのであった。
二人は駅前にある喫茶サンライトで向かい合って座った。
「私はコーヒー・・・あなたは?」
「・・・・・・・。」
「遠慮しなくていいのよ。」 綾子は優しく微笑んだ。
「・・・サンドイッチとバナナジュース・・・。」
綾子は注文を取りに来ているウェイトレスを見た。
「コーヒーとサンドイッチとバナナジュースですね!?かしこまりました。」
ウェイトレスはメニューを抱えてカウンターの奥に消えて行った。
綾子は真正面から女の子を見た。
「まずあなたの事を教えてちょうだい?。」
「私の名前は榊田清香17歳・・岡倉女子高の三年です。」
そう言って榊田清香と名乗った女はお冷を一口飲んだ。
「清香さん、私の娘を知っているの・・?」 綾子もお冷に口をつけた。
「私、春休みに此処でバイトしてたの、家は貧乏で学費とか大変だから学校には内緒にして働いていたんです。・・・あれは先月の雨が降った日曜日だったわ、開店と同時に二人の女性が入って来たの・・・。」
「そのうちの一人が亜由美だったの?!」
思わず綾子は口を挟んだ。
「たぶん・・・でも、亜由美さん21歳なんでしょう?!。」
清香はそこで首を傾げた。
「そうよ今年22歳になるはずだけど、それが何か関係があるの?。」
清香が話そうとした時ウェイトレスがやって来た。
「コーヒーとバナナジュースとサンドウィッチです。」
それぞれの前において、「ごゆっくりどうぞ・・。」と言って、カウンターの端にもたれて何処かとおい眼で外の景色を見はじめた。
「どうぞ遠慮なく食べてね」
ウェイトレスから視線を清香に戻して、綾子はモジモジしている清香に微笑んだ。
「いただきます。」
清香はサンドイッチを一つ口に頬張った。
「セーラー服を着ていたのよ・・。」
「エッ・・?!」 綾子は思わず聞き返した。
清香は口の中に残ったサンドイッチをバナナジュースで飲みこみながら、一息ついて話し出した。
「岡倉女子高のセーラー服を着ていたのよ、私と同じ高校だから入って来た時から出て行くまで、ずっと気にして見ていたんです。」
清香は一度話すのをやめて綾子を見た。明らかに失望の色が綾子の顔に浮かんでいた。
「あっそうだ!。二人は名乗りあっていたわ、もう一人の人は忘れたけど、セーラー服の子は、確か”あ・ゆ・み”と言ったように思うわ・・・。」
綾子はハンドバックから一枚のビラを出して、清香の顔の前にかざした。
「もう一度よく見て、間違いない・・・?!」
清香はビラを食い入るように見つめた後、綾子の顔を見た。
「顔は間違いなくあの時の女性です。でも、年齢が・・・。」 清香は首を傾けた。
「それで、その女の子は何処へ行ったかわかる?」 綾子は半信半疑の顔で悩んでいる清香に聞いた。
「・・確か、もう一人の女性が短大の荷物を取りに行く・・って言ってたから、その女性について短大の寮に行ったのだと思うわ・・・。」
「岡倉女子短大の寮ね。」
綾子は伝票を手に立ち上がった。
慌てて清香も立ち上がろうとしたが、綾子がそれを制した。
「あなたはゆっくり食べていなさい。そうそうこれは謝礼よ・・。」
そう言って綾子はハンドバックから一万円札を取り出し清香の前に置いた。
「こんなに・・・ありがとうございます。」
綾子は清香に笑顔で答えレジに向かった。
支払いをしている綾子の背中に清香の声が聞こえて来た・・・。
「・・娘さん、きっと見つかりますよ・・・!!。」
その声の大きさに他の客とウェイトレスが一斉に清香の方に振り向いた。
清香は立ち上がって、その大きな瞳で綾子の後姿をじっと見ていた。
”カラ〜ン・・カラ〜ン”
綾子は清香の方を振り返らず喫茶店を出て行った。その小刻みに震えていた背中から、痛いほどに綾子の気持が現れているのを清香は感じ取っているのであった・・・。
私の小説を読んでくれてありがとうございます。
もう少し”ビラを配る女”を続けたかったのですが、日にちが開き過ぎたので取り合えずアップしました、中途半端を感じるとは思いますがご了承くださいませ・・・。
尚、ご指摘とか感想を書いていただけましたら、今後の参考にしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。




