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転生グルマン! 異世界食材を食い尽くせ  作者: 茅野平兵朗
第1章 ラーメン王に俺はなる! の巻
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第87話 それは古いとても古い二つ名

お待たせいたしました

「てめっ! 死神っ!」


 ルーデルが、『黄金を抱くもの』と呼ばれ声を荒げ、自称使徒様の本当の二つ名を口にした。『地獄のサイレン』と呼ばれても喜んでいたのに。

 二人は手を触れたらそこから破裂しそうな風船のような雰囲気でにらみ合う。

 その火花を散らすような雰囲気オーラに当てられて、上空を家路に急いでいた小鳥が気絶してぽとりと落ちてきた。


「まいったな」


「ええ、困りましたね。それにしてもトリプルSの冒険者ってすごいんですね。総主教様並に制限しているとはいえ、女神様の神気に当てられても平気でにらみ合えるなんて」


 ヴィオレッタお嬢様が半ば呆れたように僕に耳打ちした。

 いや、小鳥が当てられて気絶するくらいの気の飛ばし合いの中で、僕に耳打ちできるあなたもどうかと思いますけどね。

 まあ、それが、三女神の祝福の効能であることには疑いはない。


「ハジメ、ああなったあの子を黙らせるには……」


 そうだね、そうだ、とっておきを出すしかないな。

 僕は、はっと気がついて、狼っ娘兎っ娘たちを見る。

 少女たちはこちらの様子に気づくことなく輝かんばかりの笑顔で食事を楽しんでいる。

 視線を少しずらすと、エフィさんがウィンクしていた。

 そうか、幸いにも、ものすごく早く再起動を果たしたエフィさんが結界を作って、食事を楽しんでいる少女たちと僕らの間に障壁を作り、こちらの様子が向こうに漏れ伝わらないようにしてくれていたのか。


「『黄金を抱くもの』……ね」


 自称使徒様方はこないだ降臨していらしたときにもヴェルモンの街一番の古物商会のオドノ社長のことを『さすらうもの』とか、『全てを見通すもの』とかいってたっけ。

 さすがルーデル、神様に二つ名を知られるほどの冒険者だったんだな。


 ………………………………………………………………………………………………っ!


 ふと、僕の記憶の中で何かがカチリとはまる。それは、ある神話特有の登場人物の名を直接呼ぶことはぜずに、称号や、そのものを形容する言葉で呼ぶという固有名詞の迂遠な表現方法だった。


「…………っく!」


 背中を駆け上がる悪寒に僕は身震いして、恐怖に吐き気を催した。体温が氷点下にまで下がった気がする。

 血圧と心拍数が飛び上がり、こめかみや指先に心臓ができたかと思うくらいだ。

 落ち着こうと肺に溜まった古い空気を全部吐き出す。吐き出しつくして大きく吸い込む。

 女神イフェの祝福と、僕固有のスキル【絶対健康】のおかげで、すぐに僕は落ち着きを取り戻した。


「ふう……」


 落ち着いた……よ……な。

 身体的には…ね。でも、精神的にはうろたえっぱなしだ。

 もう一度深呼吸する。

 ちなみにだが、深呼吸するときに「吸って」から入るのは効率的じゃない。元から肺に入っている空気に追加したところで新しい新鮮な酸素補給にはならないからだ。

 深呼吸の意味を考えるなら、吐いてから吸った方が効率的だ。

 さて…と、自称使徒イェフ様とルーデルは、まだにらみ合っている。


「ルー! 『黄金を抱くもの』なんて、景気がいい二つ名も持ってたんだね。ダンジョンに潜ったら大金持ちになれそうだ。しかも、女神イフェの使徒様がご存知の二つ名なんて、なおさらご利益ありそうだ」


 僕は、細心の注意を払って笑顔を作り、ルーデルに話しかける。

 よし、僕は落ち着いている。

 ユニークスキルのおかげで身体的には落ち着きを取り戻しているからね。 

 このまま押し切れ。


「はあっ……。古い古い二つ名さ。ああ、とんでもなく古い……な」


 ルーデルの瞳が虚空を泳ぐ。


「あ! ごめんなさい! ルーデル・クー、私ったら、つい、昔の癖で…」


 我に返った『使徒』イェフ様がルーデルに深く腰を折る。

 それを見たルーデルはふっと肩から力を抜いて微笑む。


「ああ、ああ……、いいよ。ただ、あたいと、リューダを古い二つ名で呼ぶのはやめてくれ」


 その微笑みはどこか寂しそうだった。


「ええ、ええ、そういたします。地獄のサイレン……ちょっとこれ呼びかけにくいですねぇ」


「じゃあ、ハジメたちがあたいを呼んでいるように呼んでくれ。ルーってな」


「まあ、ステキ! お友達になったみたい! ルー!」


 そう言って破顔したイェフ様の周りに花が咲き乱れ、光の粒子になって消えてゆく。

 こないだ、串焼きの屋台を花まみれにしてしまったときとは大違いだ。実にエコだ省エネだ。


「どうだいハジメくん。この……えーっとキミの世界で言うところの…そうだ! エフェクト! さっき、三人で考えたんだ。ほら、屋台で辺りを花まみれにしてしまったろ」


 自称大地母神の使徒エーティル様がフンスと鼻息荒く胸を張る。この世界でも有効なニュートンの法則に従って、その豊かな双丘がたゆんたゆんと揺れた。


「んぎっ!」


 嫌な音が足元から聞こえてきた。ふたつも!


「あらぁ、鼻の下が駱駝のようになっている色ボケのあんよに、正義の鉄槌が下ったようなのだわ」


「ハジメさん!」


 ヴィオレッタ様とリュドミラの声に、天界の眼福から足元の地獄に視線を移す。

 僕の両足が左右から踏みつけられて、半分ほど地面に埋もれていた。

 【絶対健康】のおかげで瞬時に踏みつけられた際のケガ(足の甲の打撲および骨折だ)は治っていたけれど、両側から僕の足を踏みつけている二つの足が、グリグリと僕の足をさらに踏みにじるもんだから、治る片端からケガが重なっていって、痛みが治まらない。

 これ、やばくね? 【絶対健康】でもカバーしきれないんじゃね?


「そうだ、そうだ! ハジメ! 珍しい酒って?」


 僕が、足に危機感を募らせ始めた瞬間、ルーデルが音速で詰めて来た。

 ヴィオレッタお嬢様と、リュドミラの足が高速で引き戻され、僕の足が踏みつけ地獄から解放される。


「そ、そうだよ、これ、こ・れ!」


 地面から埋もれた足をレンコンみたいに引き抜いて、僕は腰の雑嚢マジックバッグから二つの瓶を取り出した。

17/03/19第87話『それは古いとても古い二つ名』の公開を開始しました。

毎度ご愛読、誠にありがとうございます。

最近、アボカドのめんつゆ漬けにハマっています。激ウマです。

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