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転生グルマン! 異世界食材を食い尽くせ  作者: 茅野平兵朗
第1章 ラーメン王に俺はなる! の巻
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第5話 僕は平和ボケしているので、お金で解決を選ぶ。獣耳さんたちはご不満のようだけど

今回から、獣耳さんたちの番号をそれぞれ444番→44番と445番→45番に変更します。以前に発表のものについても、順次変更して行きます。

 僕たちの努力は実を結ばなかった。

 ヨハン・ゼーゼマンさんは戻ってこなかった。

 十数分、僕はその場に座り込んで放心していた。

 けど、どうにか気を取り直して、二人に声をかける。

「じゃあ、ゼーゼマンさんの遺言を実行しようか」

「どうやって?」

 44番が尋ねてくる。

「奪うのですか? 攫うのですか?」

 ああ、45番この状況ではどちらも同じ行動だよ。それに、力づくを前提にしないで。ぼくは、安全安心コンビニな国で生まれ育ったんだから。

 僕はふたりに尋ねる。

「お嬢様方を買い戻すにはいくらかかるかな?」

 ふたりは、ゼーゼマンさんの骸がそこにあるにもかかわらず、笑い出した。

 うん、解放奴隷がもっている程度のお金じゃ爪の垢さえ買えないのはわかってるつもりだ。

 だけど、これならどうだろうか?

 僕は四次○ポケット化した腰の雑嚢から、金貨が入った麻袋を何個も取り出す。

 その数六十八個。数えてみたら、一袋に三百枚の金貨が入っていた。どの袋も同じ分量が入っているようだった。

 運よく残っていた古い天秤で重さを量ってみると全部同じ重さだった。

 同じ重さということは、三百枚×六十八袋=二万四百枚の金貨があるということになる。

「よ、442……ハジメ様、これは……」

 45番が大きな瞳を更に見開いて、僕を見つめる。

「ハジメなぜこれをさっき出さなかったの?……そうしたら旦那様は……、それに、その雑嚢、いつの間にマジックバッグに……」

「ゼーゼマンさんが、こんなことになってしまうなんて、予想できなかった。後でこっそりとこの金貨をゼーゼマンさんに渡すつもりだったんだ。債権者たちが引き上げた後で」

 それから、さっき、債権者たちの前で、この金貨を出さなかったのは、解放奴隷の僕が肩代わりを申し出たところで、取り合ってもらえなかったろうし、最悪、護衛についてきてるやつらに金貨とマジックバッグを奪われて、殺されることも予想できたからだった。それを言うと、45番が俺の肩をつかんで睨みつけた。

「ずいぶん軽く見られたものですね、わたくしたち」

 45番の髪の毛がざわざわと逆立ち始める。ものすごくプライドを傷つけたみたいだ。

「さ、騒ぎを起こすなって言ったのキミじゃないか、45番」

「あ、そうでした」

 さっと、45番が素に戻る。

「だから、この金でお嬢様方を取り戻そうと思う」

 俺は二人の目を見てそう宣言した。


「さあ、次は、メス猫の獣人だ。まだ生娘!」

 会場がどよめく。

 奴隷は壇上で素っ裸にされ、口腔内陰部足の裏とありとあらゆる場所を晒され、品定めされ、開始値がつけられる。

 それを、購入希望者たちが競って行く。

 平和安全安心コンビニな国で生まれ育った僕には、なんとも、耐え難いインモラルな光景だった。

「ねえ、45番、お嬢様たちの番がきたら呼んでくれますか? 僕、ちょっと外に出ているので」

 さっきの、怒髪天を衝いた45番に、すっかり腰が砕けてる俺は、丁寧な口調でお嬢様たちの競りが始まるのを教えてもらおうとお願いをする。

「ご自分のことを思い出されたんですね。お察しいたします」

 45番が妙な気を遣ってくれる。

 しまった、この娘たちも、こうやって見世物にされた挙句に、買われたんじゃなかったか? そんなつらい経験をした女の子を、こんな所に連れて来るなんて、俺はなんて無神経なヤツなんだ。45番の怒髪が目に浮かぶ。

「そ、その……44番、45番、ごめんなさい君たちもその……」

「ああ、あたしたちは違うよ。こんな風に売られてたわけじゃないから、そこらへんのお気遣いは無用でございますわよ」

 44番がウサ耳を揺らして微笑む。タメ口と従者風の口調が混じって変な感じになっている。

 45番は早々に僕への口のきき方を、ゼーゼマンさんから登記を譲渡された瞬間から主従のそれに切り替えてしまったんだけど、僕としては、なんかむず痒いので、早いところタメ口に直してもらうか、いっそのこと解放してしまおうかとも考えている。

 そうなったときに彼女たち、僕の最高戦力が、僕の知らないところに行ってしまうのかも知れないけど、そのときは、まあ、そのときってことで。

「そ、そうなんだ。いろいろあるんだね、奴隷の入手法って……。知らなかった」

「こうしたオークションや、奴隷商人から直接っていうのが一般的なんだそうです。わたしたちはゼーゼマン様とは、普通の奴隷とは違う形で邂逅したので、つい最近なんです奴隷取引について知ったのは」

 45番が補足説明してくれる。僕こと442番が、自分の経験上から、オークションしか知らないと思ってくれているようだ。

「はい、生娘の猫人、1500でティーチ様、落札!」

 カーン! と小槌が決済の音を打ち鳴らした。

「ハジメ、次みたいよ」

 頭の後ろで手を組んで、壇上を見ていた44番が知らせてくれた。

 カンカン! 壇上の奴隷商人が木槌を打ち鳴らす。

「皆様、お待たせしました。本日のカタログには間に合いませんでしたが、先ほど緊急入荷いたしました逸品をご紹介させていただきます」

 何が出てくるのか、すでに知っている客が囃し立て、場内は騒然とした空気に包まれる。だからこその「お待たせしました」なのだろう

「破産交易商人の娘姉妹! 生娘ッ!」

 ヴィオレッタお嬢様と、サラお嬢様が、薄い生地の丈が長い白いワンピース姿で、壇上に引き出された。

「うおおおおおおおおおおおおおッ!」 

 場内が嵐の海の波の轟きのような、下劣な欲望と好奇心に盛った男たちの嬌声で満ち溢れる。

「父は高名な交易商人。母親はかつて王都の華と謳われた没落伯令嬢。母親もこの会場で父親に競り落とされた今は昔の物語。ぎゃはははははは!」

 お嬢様はふたりとも気丈にもしっかりと目を見開き、口を真一文字に引き結んで、正面を見据えていた。

「早く脱がせろ!」

「商品をよーっく全部見せろ!」

 下卑た笑いが場内を満たす。


 くっそ! 吐き気がする。この下衆どもが。


「では、皆様、深窓にて育まれ、母親と同じこの場所で競りにかけられる、運命の美少女姉妹を、お品さだめください!」

 ステージ袖から小男が数人出てきて、お嬢様方の左右に立ち、ワンピースを掴む。

 左右から強く引っ張れば、服が裂けて、ふたりとも素っ裸になるという演出か。

 さっきの猫人のときは自分で脱ぐようにさせてたくせに、今度は服を引き裂くという、陵辱的演出をしているわけだ。

 くっそ! できるなら、こいつらの首、まとめて刎ね飛ばしてやりたい。

 そう思った俺の耳が、ぐるるるるる……という、低いうなり声を聞いた。

 44番と45番が腰をかがめ、シマウマを狙うメスライオンのように喉を鳴らしていたのだった。


16/09/28 第5話公開開始です。お読みいただき誠にありがとうございます。また、ご感想もいただき、恐悦に存じます。重ねて御礼申し上げます。

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