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転生グルマン! 異世界食材を食い尽くせ  作者: 茅野平兵朗
第1章 ラーメン王に俺はなる! の巻
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第65話 僕はこっちの世界でトラフグの踊り食いをしたかったんだけどなあ

 こんな事案、絶対に国の機関じゃなきゃ対処できないレベルだろ。

 二百年前、今とおんなじようなことがおきて、どっかの国の首都を五万ものゴブリンが囲んだっていうんだろ。

 今すぐ国家機関が対処すればそんなひどいことにならないんじゃないのか?

 ゴブリンパレードが通った後にはぺんぺん草一本残らないんだろ?

「あのさ、これを国に任せるとして、国が対処を始めるのって……」

「早くて半年後ぐらいだと思うのだけれど」

「で、ございますね。諸侯からの兵の供出、兵站の構築。なによりも、ホーフェン公からこの辺境伯領を掠めたい連中が出兵を遅らせるでしょう」

 なんてこった……。

 国家存亡の危機だろこれって…この後に及んでもまだ私腹を肥やすことしか考えられないのか。

「はあ……」

 思わず溜息が出る。

「幸せが逃げるなんて言わないから、安心して溜息をつくといいと思うのだけれど」

 リュドミラさん! あんたなんて優しいんだ。

 マスターシムナから請け負った、救出クエストをこなすためには、ゴブリンプリンスの討伐が必要になってきた。

 さらに周辺に展開しているゴブリンメジャーの討伐も絡んでくる。

 昨日みたいに、ゴブリンメジャーの拠点にも何人か囚われている可能性があるからだ。

 ゴブリンメジャーの拠点四箇所、一箇所につき五百として二千。

 本隊ともいえるゴブリンプリンスの拠点は、まだ充実していないといっても、おそらく三千から五千はいるんじゃないだろうか。当てずっぽうだけど。

 合計最低で五千。ヘタすると一万近く……。

 僕の視界は再び大きく歪む。

「はあ……。」

 再び溜息がでる。

 なんでこうなった?

 確か僕は、おいしいものをたくさん食べるためにイフェ様の勧誘に乗ったはずなんだけどなあ。

 いや、たしかにおいしいものを食べてはいるけれど……。

 僕がこっちの世界でやりたかったことは、スキル【絶対健康】で誰も出来なかったトラフグの踊り食いとか、スベスベマンジュウガニのがん漬とか、カエンタケのキノコ汁とかを試してみることだったんだけどなあ。

 そんなグルマン(食いしん坊)な生活をしようとしているのに、実際にやっていることはふつうに冒険者だ。

 いや、ふつうじゃないな。ふつうの新米冒険者のやることからは大きく逸脱している。

 大体、きのう、初めてやった冒険者としてのクエストからして、Fランクの冒険者がやることじゃなかった。

「ハジメさん?」

「ハジメ?」

 ヴィオレお嬢様とサラお嬢様が心配そうに僕の顔をのぞき込んでいる。

 ……っ!。そうだった、僕は、このお嬢様方の笑顔を守るという重大な任務をゼーゼマンさんから依頼されていたんだった。

 お嬢様方の笑顔を守るためには、まず、あのお屋敷を買い取らなきゃいけない。

 そのためには無茶なクエストをいくつもこなして、お金を稼がなきゃならない。

 うん、よし、じゃあ、グルマン生活はその後でゆっくりじっくりとだ。


「悪いことばかりじゃないのだけれど、ハジメ。聞く?」

 リュドミラが口角を歪ませる。

「うん、好材料は髪の毛一筋ほどでも欲しいところだね」

 歪ませた口角をそのまま吊り上げ、リュドミラが魔女のように微笑んだ。

「この東の森で今、起きているゴブリンパレードが、まだ本当に始まったばかり、ほんの初期段階だってことなのだけれど」

 いや、でも、かなりの数の群になってるんじゃないですか?

 ずいぶん被害が出ているみたいだし。

「で、ございますね。あくまで、これまでの記録からの推量ではございますが、現在、プリンスの拠点周辺に展開しているメジャーでございますが、これは、最終的に、ジェネラルにまで陞格すると考えられるのでございます」

 リュドミラの言葉を引き継いで、エフィさんが、おそらく教団の学校で学んだ知識からだろう、ゴブリンパレードの現況を分析してくれる。

「プリンスから陞格したばかりの若いゴブリンキングの保有戦力は、俗に遠征軍と呼ばれるジェネラルが率いる群が一~三個と、キングの傍に張り付いているカーネルが指揮する俗に親衛隊と呼ばれる群の合計一万二千から三万になります。現在、まだ、プリンスとして群の拡大に着手し始めたばかりだと思われる本件は、遠征軍の部隊規模がメジャーの群の域を出ておりません。このことからプリンスの本隊……、親衛隊も規模は大きく見積もっても人間の軍隊で言うところの中隊規模。百匹から二百匹と予想されるのでございます」

「え? そうなんですか?」

 ルーデルもリュドミラも頷く。

 ってことは、単純計算で現在のゴブリンプリンスの軍勢はメジャーの群一個が五百として×四で概ね二千。親衛隊がキャプテンの群として多くて二百。

「合わせて二千くらいか……」

 昨日僕らがやっつけた総数はおそらく千匹弱……。

「ねえ、ルー、リューダ。これって一日や二日で救出と殲滅は可能かな?」

「言ったはずだと思うのだけれど? ハジメ。あなたが成そうとしていることは、無理や無茶をパイのように幾層にも重ねなくては成すことのできないものなのだと」

「できるかできないかって聞かれてもな、やるしかねえって答えるしかねえんだぜ。ハジメ」

 そうだ、これは、やるしかないことなんだ。

「もっと、精度が高い情報が欲しいな……」

 それぞれの拠点の正確な位置、兵力、構造、そして攫われた女の子の数。

「まずは、偵察だね。リューダ、お願いします」

「数が少し多いから時間がかかると思うのだけれど、大丈夫」

 リュドミラは力強く頷いた。

「あのう……ハジメさん」

 エフィさんがオズオズと手を挙げる。

「その、偵察でございますが、非才にもお任せいただけないでしょうか?」

 え?

「エフィさん、偵察関係のスキルお持ちでしたっけ?」

「はい、鑑定していただければ明白でございます。これでも、B級冒険者でございます。モンスターに攫われた人はもとより、盗賊団に攫われた子女の救出、オーガジェネラル討伐に偵察要員兼僧侶として参加したこともございます。コボルトの巣穴でトンネルラットの任もこなしたこともございます」

 慌てて僕はエフィさんを鑑定する。

 あった。エフィさんのステータスのスキルの項目の中に【隠密】が。

「願ってもないことです。リューダと手分けしてやってください!」

 二人は頷いて、テーブルの上の小さな地図を取って踵を返す。

「行って来るわ」

「行ってまいります」

 森の奥へと駆け出した二人の姿がすぐに見えなくなる。

 早くも隠密スキルを発動したに違いない。

「こっちが偵察出すってことは、むこうも偵察出してるって可能性があるよなぁ」

 ルーデルがのんびりと言いながら、背中の大剣を構える。

「もしくは、パトロールでしょうか」

 ヴィオレ様が両手を合わせて手首を回す。

「お姉ちゃんどれくらい?」

 サラ様が杖を構えて宙に魔法陣を描き始める。

「北東から二十匹くらいが急速接近。すぐに見えるわ」

「威力偵察か……。ハジメ!」

 ルーデルが腰のマジックバッグから昨日のでかくて頑丈な盾を取り出して僕によこす。

「手順は昨日と同じだ。お前が奴等をひきつけて、サラが一掃する」

「分かった」

 僕は北東方向に前進して盾を地面に突き立てる。

 そして、腰の雑嚢から、昨日、鍛冶屋で見かけて衝動買いした道具を取り出す。

「へえ…」

「まあ」

「はははっ!」

 みんながそれを見て相好を崩す。

 僕が取り出したものは、ふつうの尺度では武器とは分類されないものだからだ。

「僕は素人だからね」

 それは金属バットくらいの長さの柄の先に、野球のホームベースのような形の金属の板を取り付けた、穴掘りの道具、すなわちシャベルだった。

 柄の一番手元に開けた穴に通してある皮ひもを手に巻きつけて握りこむ。

 うん、しっくりと馴染む。

「これなら、とにかく振り回して当てさえすればいいと思って……さ」

 振り向いて笑いを浮かべる。半ばごまかし笑いみたいな笑い方になってしまった。

 昨日鍛冶屋でこれを見つけたとき、以前、何気なく見た戦争映画で、年とった兵隊が、新兵にシャベルこそが白兵戦最強の武器だと熱弁していたのを思い出して、矢も盾もたまらず買い求めてしまったのだった。

「ぶん殴れば頭がひしゃげるし、刃が当たれば首ぐらい飛ばせる」

 って言ってたっけ。

 やがて、森の奥から、ゲギャゲギャと耳障りなしゃがれ声が近づいてくる。

「あ! しまった……っ!」

 重大なミスを僕は犯していたことに気がついた。致命的といってもいい。


 ああ、なんてことだ。僕は服の予備を用意してなかったのだった。



17/01/29 第65話『僕はこっちの世界でトラフグの踊り食いをしたかったんだけどなあ』の公開を開始しました。

いつもご愛読誠にありがとうございます。

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