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転生グルマン! 異世界食材を食い尽くせ  作者: 茅野平兵朗
第1章 ラーメン王に俺はなる! の巻
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第64話 この事案は僕のような新米冒険者の手には余りすぎだ

「本当にわたしたちって運がいいわ」

 リュドミラは口角をすこし上げ、微笑む。

「まだキングになっていませんからね」

 ヴィオレお嬢様がため息をつく。

 ……っと待て。

 いくら、キングになってない王子様だからって言って、群の規模的にはものすごくでかいんじゃないのか?

「ゴブリンプリンスの発生って、かなり珍しいことだよね」

 知れず、僕の声は震えている。正直、僕はかなりビビッている。

「ええ、プリンスは、群を率いる最上位個体として産まれます。つまり、ゴブリンキングの幼体として産まれるわけです。これは、たいへん珍しい現象でございます。前回のキングの発生は、二百年前にヴルーシャ帝国で起きたパレード(大量発生)で、それ以外ではこの千年間で三回ほどしかありません。前回のゴブリンキングが発生したときには五万を超えるゴブリンがヴルーシャの帝都に迫ったということです」

「あの時は、ヴルーシャの穀倉地帯が本当に全滅した」

「ゴブリンの群れが通過した後には、ぺんぺん草一本残っていなかったのだわ」

 ルーデルとリュドミラが見てきたように言った。

 実際見てきたのかもしれないな。長命種のダークエルフのシムナさんとパーティー組んでたくらいだから。

「まるで蝗だな」

「流石は台下! ゴブリンの大量発生を、もっとも端的に表す言葉はまさにそれでございます」

 せっかく褒めてもらったけど、あまりうれしくないのは、きっと、ゴブリンの大量発生によってもたらされる災禍が簡単に予想できるからなんだろう。

 ん? 二百年前?

「ゴブリンの大量発生って、何百年に一回なんていう、レアなイベントなんですか?」

 もしそうなら、僕らは相当運が悪いときに生きているってことになる。

「いーや、大量発生自体は十年くらいに一回ある感じだな。珍しいことじゃない」

「そうね、最近だと……」

「ルーティエ教団本神殿の公文書館に、十三年前ロムルス王国北方の森でカーネルが討伐された記録がございましたね」

 と、いうことは、ゴブリンキングなんていうイベントボスクラスのゴブリンの発生がレアケースってことか。

「キングの発生がレアなケースってことで理解していいのかな?」

「だな、キングが発生することなんて、何百年に一回だ」

「大概はせいぜいがカーネル止まりなのだわ」

「はあ、なんてこった」

 思わずため息が漏れてしまう。何百年かに一回のレアイベントにぶち当たったよ。

 僕はテーブルの上の地図と、ルーデルとリュドミラが持ってきた小さな地図を見比べた。

 ゴブリンプリンスの発生した拠点と思われる、紅い印を囲むようにゴブリンメジャーの拠点がある、そして、その拠点をさらに囲むように下の階級のゴブリンのコロニーがあった。

「そもそもだけど、なんでこんなことが起きるんだ?」

 僕はふと思った疑問を口にした。

「ハジメ、ある日、森へキノコを採りにやってきた女の子が、運悪くゴブリンに攫われたとしよう」

 ルーデルが口を開いた。

「それが、ゴブリンパレードの始まりなのでございます」

 エフィさんが瞑目した。

 え? どういうこと?

「ゴブリンってヤツは、メスが極端に少なくてな、通常は大発生するなんてことはないんだ」

 え? じゃあ、どうやったら今回みたいなことが起きるんだ?

 ますます不思議に輪がかかる。

 キノコ狩りに来た女の子が、運悪くゴブリンに攫われたのが大量発生の始まりだって?

「ゴブリンに限らず、モンスターの多くは、森の最深部など人里はなれたところか、ダンジョンに生息しています。よほど、森の奥深くに分け入りったり、人が全く住まない荒野、そしてダンジョンにでも行かない限り、モンスターに出会うことなんてことは、まず、ありません」

 ヴィオレ様が俺の目を見つめ、言葉を選びながら訥々と話し始める。

「でも、稀に同族のメスと番えずにあぶれたゴブリンのオスが森の奥から出てくることがあるのです」

 え? そ、それって……。

「ゴブリンのメスの妊娠期間は大体一ヶ月。ネズミ並みね。そして一回に出産する数もネズミ並なのだわ」

「対して人間は十月十日といわれており、エルフは約二年、獣人種は概ね半年ほどといわれているのでございます」

 ヴィオレ様は口を真一文字に引き結んで目を閉じて俯いた。

 その肩がフルフルと小刻みに震えている。

「あ……」

 僕は理解した。ゴブリンの上位指揮個体が発生する仕組みをだ。

 エフィさんが後ろからヴィオレ様を抱きしめる。

 まるで、仲のよい姉が妹を慰めるように。

「ハジメさん……、ゴブリンの上位個体というのはでございますね……」

 僕はエフィさんの口の前で人差し指を立てた。

 ゴブリンの上位指揮個体というやつらは、非モテのオスが憂さ晴らしに他種族の女の子を攫ってきて強姦して孕ませ、ゴブリン同士で番ったのなら一ヶ月で産まれるところを、長く胎内で成長することで突然変異的に発生する特異個体ということだ。

「くっ!」

 瞬間、頭に血が上る。

「今回の大量発生が始まったのが、約一月前くらいだと思われるのでございます」

「そうですね、ギルドのカトリーヌさんの話では、ここ一月の間に急に行方不明になる女の子が増え始め、ゴブリンの集団に襲撃された村が三ヶ村にものぼるとおっしゃってましたから……」

「黒に分けた未解決依頼の中に、二年前くらいに東の森で行方不明になった女の子の捜索依頼があったのだわ。そして、この一年で五件……」

 地図を見る。ゴブリンプリンスの拠点を囲むゴブリンメジャーのものと思われる拠点が五つ。

 そのうちのひとつは、昨日僕らが潰したものだ。

「ゴブリンの群ってのは、どんなに大きくても、ふつうは四~五十匹なんだ」

「ふつうですと、この、東の森クラスの大きさの森でしたら、せいぜい十個、五百匹くらいなんです」

「それが、ゴブリンメジャーより上の指揮個体が発生すると、群が次々に統合されて、大きくなって、大繁殖が始まるのでございます。それに、他種族のメスから生まれるゴブリンは上位指揮個体だけでなく、ゴブリンのメスも含まれます」

「メスが増えるってことは」

「繁殖速度が早くなるってことか……」

「ご名答なのだわ」

「ギルドに依頼に来れた人のぶんだけでも二十件もあるから、全滅した村とかのことも考えると、実際にさらわれてる女の子はもっといっぱいいるはずだわ」

 サラ様までもが、今現実に起こっている理不尽な出来事を冷静に受け止めている。

「つまり、現状はでございますが……」

「プリンスは上位指揮個体とメスを増やそうとしている……、ってところかな?」

 エフィさんの言葉を僕は引き継いだ。

「ああ」

「そうだと思うのだけれど」

 リュドミラとルーデルが僕の答を正解としてくれる。

 つまり、ゴブリンプリンスは、現在、一年かけて増やした配下のメジャーを使って、さらに上位指揮個体や、メスを産み増やすべく、東の森に入ってきた女の子や、森周辺の村を襲撃して女の子を攫って来ている最中ってことのようだ。

「今のうちに潰しておかないと一年後には、指揮個体が最低でも十五体以上発生して、メスも増えて、そこからはもう、爆発的にゴブリンが増殖すると思うのだけれど」

「二年先には押しも圧されぬゴブリンキング爆誕だな」

「二百年前のヴルーシャの災禍の再現ですか」

 正直言って、こんなの、昨日今日冒険者になったばっかりの僕の手には大余りだ。

 僕ら新米冒険者は、この件をギルドに報告して、ギルドから領主様に上げてもらって、そこから、国王様に報告が行って、国に対処してもらうレベルの問題じゃないだろうか?


17/01/28 第64話『この事案は僕のような新米冒険者の手には余りすぎだ』の公開を開始しました。

毎度ご愛読、誠にありがとうございます。

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