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転生グルマン! 異世界食材を食い尽くせ  作者: 茅野平兵朗
第1章 ラーメン王に俺はなる! の巻
56/232

第53話 パルメジャーノレッジャーノ発見! 瞬時に今夜のメニューが閃いた

お待たせしました。

「ふう……」

「よかったですね、丁度いいサイズのものがあって」

「ハジメ、その服とっても似合ってるわ」

「ありがとうございますヴィオレッタお嬢様、サラお嬢様」

 僕とヴィオレッタお嬢様にサラお嬢様、そしてルーデルは、市場の古着屋に来ていた。

 リュドミラとエフィさんには、別行動でエールとワイン、果汁の購入をお願いして、購入が済んだら帰宅して、保冷食品庫に入れておくように頼んだ。

 なぜこういう組み分けになったというと、ルーデルがお屋敷に帰るまでにエールを飲みきってしまう恐れがあるからだ。

 ルーデルは、僕が言うことはともかく、サラお嬢様とヴィオレッタお嬢様の言うことはちゃんと聞くので、馬ならぬルーデルの手綱は、そちらにお任せすることにしたのだった。

 ちなみに保冷食品庫ってのは、モンスターから採取される魔石を利用した家財設備で、冷気を発生する常駐魔法が設定された魔石に魔力を注入して作動させる。

 コンビニの歩いて入れるドリンク冷蔵庫を想像してもらうとわかりやすいと思う。

 さて、ようやく服を着ることができて、今晩の食事のメニューに思いをいたすことができるようになった僕は、市場を見回す。

 なるほどさっきルーデルが言ったように、近隣の村から農作物を荷車に載せて売りに来ていた農家の人たちは、あらかたが引き上げたようで市場はかなり閑散としていた。

 まだ営業しているのは、街に腰を据えている販売専業のいわゆる商人が経営している肉屋、魚屋、八百屋、雑貨屋に酒類を出す屋台だった。

「ハジメっ! 肉! 肉! 肉! 肉! 肉! 肉! 肉! 肉! 肉! 肉!」

 ルーデルが肉屋の軒先に吊るしてあるさまざまな部位の肉にかぶりつかんばかりに肉薄する。

 確かこの人、ウサギの獣人だったはずだよねぇ。

「兎人にはベジタリアンが多いのですがウォーリアヘア(戦士兎)はもっぱら肉食だだそうです。まあ、ルーを見ていると納得ですね」

 ヴィオレッタお嬢様がルーデルに向けた僕のジト目に気がついて教えてくれる。兎人にもいろいろいるんだな。

「!!」

 そんなことを思っていた僕の鼻を、肉が焼ける香ばしい匂いがくすぐった。

 くんくんとその匂いの元を辿る。

「あ!」

 僕の目に、元いた世界でも見たことがある屋台が飛び込んできた。

 それは、タレで味付けした牛や羊などの薄切り肉を串に刺し積み重ねた巨大な塊を床屋のサインポールのようにぐるぐると回しながら炙り焼き、それを長いナイフで削るようにカットしてパンにはさんで食べる『ドネルケバブ』だった。

「ルー! あれ、あれ!」

「おおッ! 流石ハジメだ! アレに目をつけるとはな!」

「キャルク人の屋台ですね。めずらしい。あの料理はキャラバンで東を旅していたときよく食べました」

「わたし、あれ、大好き! 薄焼きパンでおやさいと一緒に巻いて食べるのがおいしいの!」

「じゃあ、お肉はあれでいいですか? みんな」

「むしろ大歓迎だぜハジメ! エールに合うんだ」

「私も大好きです」

「リューダもあれ、好きだよ!」

 よし、じゃあ、今日の肉料理はあれに決定だ。

 僕は漂ってくる匂いを辿るように屋台へと歩を進める。

「ああ、今日も売れ残ったか……」

 ふと、どこからか聞こえてきた嘆き成分三十パーセント、呆れ成分七十パーセントの男の声を僕の耳が拾った。

 きょろきょろと首を巡らせる。

「だからいったろ、そんなもん仕入れたって誰も買わないって! っとにバカなんだからあんたは」

 呆れ果て成分百パーセントの女の声が、がっかりしているだろう男に追い討ちをかける。

 なんだろう? 何が売れ残っているのだろう。

「もう、三年も売れ残ってるんだ。いい加減あきらめて、さっさと捨てちまいな!」

 なんと、それはもったいない。何かは知らないけれど、捨てるなら、ぜひ譲ってほしい。

「そうだな、明日にでも捨ててこよう」

 どこだ? どこから聞こえてくる?

「ルー! 今の聞こえた?」

「ん? ああ、捨てるとか捨てないとかか? それなら……あっちから聞こえてきたぜ」

 ルーデルが長い耳を揺らしてバター屋の方を指差す。

 そこでは、恰幅のいい中年女性に叱られて、痩せた中年男がしょぼくれていた。

「あのぅ……何が売れ残っているんですか?」

 そおっと尋ねた僕に、男は直径四十センチくらいの分厚い濃い黄色の円盤を指差して答えた。

「はううッ!」

 なんと、この食べ物に出会えるなんて!

 そういえば、こっちの世界に来てから、これはまだ食べたことがなかった。

「ああ、これだよ。三年前に乳を仕入れている村の村長がうまそうに食べてたのを、試しに仕入れてみたんだけれど、これが、売れなくてね。その村でもバターを作っていて、ウチでも、ウチで作ってるバターと一緒に売ってるんだけど……。その村では昔から作ってるそうなんだ」

「その、それを試食とか……されたんですか?」

「したとも! 実にうまかったよ。さわやかな酸味とコク。ねっとりとまとわりつくような食感は官能的ですらある。僕は、この食べ物に新しい可能性を感じたんだ」

「わかります! わかりますとも!」

 思わず大声で店主と思しき中年男に同意していた。

「これ、ぜひ買わせてください!」

「え? あんたこれを買うってのかい!?」

 店主婦人と思しき恰幅のいい中年女性が叫んだ。

「この街の連中はいくら試食を勧めても食べてくれないばかりか、ウチの店じゃ干からびて酸っぱく硬くなったバターを売りつけようとしているなんて言うのに?」

 店主もゾンビの盆踊りを見たような顔をして僕を見ている。

 どうやら、この世界では、チーズは、まだ、一般的な食べ物ではないらしい。

「ご主人! あなたの目は確かです。ぼくは、この食べ物、チーズの価値を知っています! この、チーズには無限の可能性が秘められているのです!」

「あ、あんた、この食べ物……チーズを知ってるのか?」

「ええ、知ってますとも!」

 なんか、喋り方が詐欺師みたいになってきてぞ僕。

 それはさておき、何を隠そう僕は大のチーズ好きだ。

 アマ○ンの通販でラクレットオーブンを買うくらい、フォンデュの鍋を買うくらい、冷蔵庫には常に何かしらのチーズが入っていたし、チーズ受けがいいワインも常備していた。

 そして、農家が直販している生乳を原料に自作もしていた。

 僕は目の前に鎮座するウィスキー樽を上下方向に圧縮したような見かけの、濃い黄色の塊を見つめる。

「ふふふふ……」

 自然と口元が綻びているのが自覚できる。

 三年も熟成したチーズ……。この、ベイクドチーズケーキのような色合いと表面の小さな白い斑点……これは、かなり熟成が進んだ証拠だ。

 きっとこれは、僕がもといた世界でパルメジャーノレッジャーノと呼ばれる超硬チーズに極めて近いものに違いない。

 僕は、瞬時にきょうの夕食の一品を閃いた。

「ご、ご主人、バターを作る前のクリームってあります?」

「ああ、ああ、もちろんだ、そっちも売り物だからね」

「ちょ、ちょっと待っててください、今、壺を取ってきますから!」

「ああ、なら、この壺をサービスするよ。この壺一杯で銀貨三枚。チーズは金貨五枚でどうだい?」

 ふむ、直径四十センチのパルメジャーノレッジャーノが金貨五枚とは破格だ。

 元いた世界だったら、この大きさで三年ものだと、十五万円以上はしていたはずだ。

「もう一声! 三年も売れ残ってたんだろ?」

 ルーデルが厚いクレープ見たいなパンで包んだケバブをほおばりながら口を挟んできた。

「お姉ちゃん、そりゃ殺生だ! これ一個に乳三十樽使うんだ金貨五枚でギリなんだよ!」

 店主は半泣きで抗議する。

 うん、確かにこれ以上は値切らないほうがいいと思う。

「いや、そのねだ……」

 僕は、金貨を入れた財布を取り出そうとして気がついた。

(お金、ほとんどヴィオレッタお嬢様に預けたんだった)

 冒険者ギルドから出るときに、僕は一人頭金貨二枚を今日の日当として渡し、残りをそれまで僕が管理していたお金と一緒にヴィオレッタお嬢様に預けた。

 僕なんかより金庫番としてはヴィオレッタ様の方が適任だ。

 なんと言っても、元、ゼーゼマン商会の番頭さんだから。

「じゃあ、さ、ハジメ、その村に行って買ってこようよ」

「バターを作ってる村ならいくつか心当たりがありますから、クエストがてら買い付けというのも悪くないですね」

 なんと、お嬢様方も値引き交渉に参戦してきた。手にはしっかりとケバブロールが握られている。

「あ、あんた、ゼーゼマンさんとこの……。はあ、しょうがないな。ゼーゼマンさんにはウチも世話になったからな」

 店主が大きくため息をついた。

「あら、あら、ヴィオレちゃんに、サラちゃんじゃない! あんたゼーゼマンさんとこのお嬢ちゃんから儲けようっての?」

「わかってるよ。チーズは金貨三枚銀貨四枚、クリームは銀貨二枚だ」

「まあ、ありがとうヴスマンさん。では、全部で金貨三枚銀貨八枚で買います」

 ヴィオレッタお嬢様が、財布から金貨を取り出し、店主に渡す。

「ありがとう、ヴィオレちゃん。大変だったね、そのかっこ…そうかい、冒険者になったのかい。がんばんな。バターをおまけするよ」

「ありがとうハンナさん」

「ありがとうハンナおばさん」

 つくづく生前のゼーゼマンさんの人徳を思い知らされる。情けは人のためならずとはよく言ったもんだ。

 ゼーゼマンさんが積んできた徳は、こうしてお嬢様方に帰ってきている。

「よっこらしょ」

 この重量、間違いなく僕が元いた世界のパルメジャーノレッジャーノに類似したチーズに間違いない。

 さっき、バター屋の店主もこれ一個に三十樽もの乳を使うって言ってたし。

 チーズとクリームを馬車に積み込んで僕はルーデルに言った。

「ちょっと、鍛冶屋さんに寄って欲しいんだ」

「鍛冶屋? まだやってるとは思うけど、なに買うんだ?」

「今晩のごはんをおいしくするものさ」

 僕の頭の中にある今日のメニューには欠かせないもの、それが鍛冶屋にあるのだった

「鍛冶屋さんに、ごはんをおいしくするもの? ハジメってやっぱりおもしろい」

「それって、高いものなんですか?」

 ヴィオレ様が眉を顰める。だけど、その瞳は笑っていた。


 そうして僕たちの馬車は、市場の外れの鍛冶屋に向かった。


17/01/03第53話『パルメジャーノレッジャーノ発見! 瞬時に僕の頭に今夜のメニューが閃いた』の公開を開始しました。

毎度ご愛読ありがとうございます。

ようやく、グルマン(くいしんぼ)らしい内容になってきました。

私もかつてチーズを作ろうと思いましたが、生乳の入手が難しくて挫折したことがあります。

現在は生乳の入手が以前より容易になっていますので、バター、チーズの作成に再挑戦してみようかと思っております。

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