第1話 僕は442番って呼ばれているのに転生した
444番を44番に445番を45番に変更しました。
ドクンッ!
全身が激しく痙攣して、僕は目が覚めた。
「442番!」
「旦那様! 442番が!」
僕を覗き込んでいた人たちが、慌てている。
なんと、獣耳の女の子がいる。いわゆる獣人ってやつだ。
「うわ、ほんとファンタジーだ……」
思わずつぶやいた僕の方にドタドタと、数人が駆け寄って来る。
深い眠りから覚めたばかりみたいな感じで、意識がはっきりとしない。まだ朦朧としている。
「うう……寒ッ!」
背中から体温を奪われるような……って、地面に直置きにされてるのか僕。
「45番、44番、442番を暖めるんだ! お前たちが一番体が温かい。誰か毛布を持って来い!」
この中で一番偉そうな人が、矢継ぎ早に指示を出す。
「ああ、442番……」
「442番……よかった」
女の子の声が442番と俺に呼びかける。442番ってのはどうやら僕のことらしい。とたんに僕は凍えるような寒さから助け出され、ぬくぬくの中で再びまどろむ。
柔らかくて暖かいものが僕を包んでくれていた。
次に目覚めたとき、僕は大いにうろたえた。
だって、僕の両側には、すっぽんぽんの女の子がいたからだ。僕らは毛布に包まって横になっていた。知らない天井ってか、布の天井だ。ってことは、ここはテントの中か?
気を失う前僕のことを苦しめてくれた寒さはなかった。むしろぬくぬくと温かかった。僕が、こんなに温かい理由はすぐに判った。
僕の両側にいる女の子たちが温かかったからだ。
毛布の中で僕は二人のすっぽんぽんの女の子に挟まれていたというわけだ。
しかも、この二人の女の子、垂れ耳の犬系の耳となんと、大きなお友達が大好きなウサ耳の女の子たちだった。
僕はすっぽんぽんのケモミミっ娘にサンドイッチされて、ぬくぬくで寝ていたわけだ。
なんて幸せくんな状況だ。俺死ぬのかな? いや、死んだばっかりのはずだから、またぞろ死ぬなんてないと思うけど。
僕が幸せなこの状況を噛み締めていると、僕を左側から抱っこしていた犬系垂れ耳の少女が目を覚ました。
「ん……ぁ。442番!」
「や、やあ……僕は……」
「44番! 442番が目を覚ましたわ! 旦那様に!」
「ええ! 45番、旦那様にお知らせしてくるわ」
「あたしは、旦那様がいらっしゃるまで442番の傍にいるわ」
「うん! じゃあ、いってくる!」
どうやら、この娘たちは、番号で呼び合っているみたいだ。かくいう僕も番号で呼ばれていたっけ。
「え……っと、45番?」
おそるおそる話しかける。
「ええ! 442番! 本当によかったぁ。生きててくれて」
どうやら僕こと、442番はこっちで死にかけていたようだ。っていうか、たぶん死んでるな。その、死にたての体に僕の魂が入り込んだって形なんだろうな。
「……ッ! あ、ああッ!」
僕は思わず声を上げてしまう。起きたばかりの男性特有の生理現象に気がついたからだ。
「どうしたの442番?」
愛らしい大きな瞳で、ビーグルみたいな垂れ耳の獣人少女45番が俺を見つめる。
「い、い、いや、なんでも……」
僕の顔はたぶん耳まで真っ赤だ。
ハッとした顔で、45番が毛布の中に頭を入れた。そして、顔を僕の目の前に戻して言った。
「よかった。すっかり元気だね」
僕は大慌てでテントを飛び出し、人気のないところへ言って用を足す。
夜明け前なのか、辺りはまだ暗い。
飛び込める茂みなんてない。半分砂漠みたいな荒地だ。確か、こういうところは砂漠じゃなくて土漠っていったっけ。
小高い丘の影に飛び込んでつまみ出し、大放出。
ぶるるっと震えて我に返り、辺りを見回した。何もない。小高い丘を登り見回す。本当に何もない。360度全く何にもない。
ここは土漠の真ん中だ!
丘のふもと(といっても10メートルもない高さだが)には、僕が飛び出してきたテント群。僕は本当にどこかの誰かに転生したみたいだ。異世界かどうかはこれから検証。ってか、ケモミミっ娘の時点で、異世界転生確定。
僕が飛び出してきたテントから、衣服を整えながら45番っていってた獣人の女の子が出てくる。
その雰囲気、夕べはお楽しみでしたね感たっぷりなんでやめて欲しいな。僕、たぶんまだ童貞だから。
いや、442番と呼ばれてるこの人はどうか知らないよ。
垂れ耳の45番やウサ耳の44番って娘と、いつもよろしくやってるのかもしれないけどさ。
でも僕は童貞だからね。
テントから出てきた45番は僕を見つけてブンブンと手を振る。ビーグルみたいな垂れ耳が可愛らしい。
大きく胸が開いたちょうちん袖のブラウスに胸を持ち上げるようにウェストを編み上げているコルセットみたいなもの、そしてキュロットスカートにニーハイのブーツ。
獣人ってことだけじゃなくって、その服装も僕の常識にはないものだった。
「やっぱりここは異世界なんだな」
そうつぶやいた俺の目を暁の光が貫く。
「ん……ッ、まぶッ!」
土漠の彼方地平線から朝日が昇ってきた。
こんなスペクタクルな風景、初めて見た。そして、生きていることを実感する。
「442番! 旦那様が」
45番の隣にウサ耳っ娘、44番と呼ばれていた別のケモミミっ娘が走ってきた。
僕は丘を駆け下りて、45番たちの傍に駆け寄る。
そこで僕ははたと気がついた。
「痩せてる……ってか、たくましい体になってる?」
鏡がないからわからないけど、ものすごく体が軽い。股間も見える。
「442番、すごい」
「嘘みたい! 442番あなた本当に昨日ケニヒガブラに咬まれたの?」
ケニヒガブラってなんだ? 僕……ってか、442番はそれに咬まれた?
「おおッ! 442番! 目覚めたというのは、本当だったか! 長いことキャラバンを率いているが、ケニヒガブラに咬まれて命を取り留めたものなど初めてだ。あまつさえ、こんなに元気とは……奇跡という他ない」
44番と一緒にやってきた、国民的RPGに出てくる商人みたいな中年男性が、僕を不思議なものを見るような目で眺める。
この人が、45番たちが言っている旦那様なのか?
っと、わき腹をつつかれる。
44番と45番が片膝をついているのだった。
どうやらこの人が僕らのご主人様のようだ。あわてて僕も片膝をつく。
「旦那様、おかげさまにございまして、442番生きております」
勝手に言葉が出てくる。まあ、これくらいの社交辞令は知ってたからね。
「よい、よいのだ442番。お前には感謝してもしきれない。娘たちを助けてくれてありがとう」
なるほど、442番はこの商人の旦那様の娘さんを庇って、ケニヒガブラっていうのに咬まれて死んだってこと?
「ありがとう442番!」
そう叫びながら、僕に体当たりをかましてくる小柄な少女。
「ありがとう442番」
そして……。嘘だ、ありえない。
跪く俺の前に微笑みを湛え立っているのは。
「菫?」
そこには幼馴染の菫が立っていた。
16/09/23 第1話公開開始です