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転生グルマン! 異世界食材を食い尽くせ  作者: 茅野平兵朗
第1章 ラーメン王に俺はなる! の巻
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第29話 衛生環境の改善の第一歩はまずは食事の改革からだ

お待たせいたしました。

 ヴェルモンの街の治安維持機構は実に優秀だった。

 見たこともない花で屋台を塗れさせるという、奇跡にもっとも近い現象に、衛兵隊がそれこそすっ飛んでやって来て、職務質問を始めたのだった。

「えーと、あんた方は?」

「ああ、我は、大地母神の使徒、エーティル・レアシオ・オグ・メという」

「私は、生命の女神の使徒、イェフ・ゼルフォ・ヴィステ・ヤーと、申します」

「僕は、ゼーゼマン商会のフットマン、ハジメといいます」

「あたしは……」

「あんたを知らないようじゃ、この街の住人としちゃあモグリってもんだな」

 マスターシムナが名乗りを上げようとした瞬間に、衛兵隊のリーダー格の、少し立派な鎧を着た大男が、豪快なウィンクをして見せた。

 かっこよく名乗りたかったんだろうな。シムナさんは梯子を外されたような悔しさを滲ませた顔をする。

「わかった、マスターシムナ。あんたがこの人らの身元引き受けってことで、了解しとくよ。だが……」

 奇跡の花を一目、見ようと、屋台に周りには人だかりが形成され、次々と押し寄せている。

 自称使徒さん方は、集まった人々に笑顔を振り撒いている。

 オドノ商会のときよりも出力を抑えてもらっているので、失神者はまだ出ていない。

「これをどうするかだなぁ」

 衛兵のリーダーが、群集を前に頭をひねる。

「じゃあ、こうしませんか?」

 僕は屋台のオヤジさんに、持ちかける。

 娘さんのローラちゃん(推定10歳)に、銀貨3枚でお使いを頼む。と、いう内容だ。

 行ってもらうのは、大地母神神殿だ。

「そのためには……エフィさん、ちょっと借りますよ」

 エフィさんの雑嚢から、封蝋を取り出し、屋台の火を借りて溶かし何も書いていない紙に垂らす。エフィさんの指輪を押し付けて、お手紙が完成。

「じゃあ、ローラちゃん大地母神神殿までお使いをお願いします。門番の人にこの紙を渡して、出てきたお姉さんをここに連れてきてください」

「うん!」

 ローラちゃんは力強く頷いて駆け出した。

 僕の考えが正しければ、大地母神教団ヴェルモン教区大主教様がおっとり刀で駆けつけて、この事態を収拾してくれるはずだ。

 待つこと十数分。ローラちゃんに先導されて、大地母神教団の大主教様以下、ヴェルモン教区の枢機の皆様がおいでになった。

「なんという! なんという! なんという!」

 奇跡の花に塗れた屋台を見るや、シャーリーンさんは絶叫した。

 そして、その中心にいる自称使徒様方に気がつくや、スライディングをするような勢いで、五体投地するのだった。

 そりゃそうだ、さっき、天に帰ったはずの女神様方が再降臨されてるんだからね。

「シャーリーンさん、女神様たち、主教さまクラスまで、お力を抑えておいでだそうですよ」

 そっと教えてあげる。

「わ、わかってます。ですから、気がつかなかったんです。再降臨に!」

「じゃあ、そちらはお願いできますか?」

「ええ、もちろんです。神殿においでいただきます」

 そうして、集まった人々に笑顔を振りまいていた自称使徒様方は、花を振りまきながら、丁重に大地母神神殿へと連行されていった。大勢の野次馬たちと共に。

「じゃあ、マスターシムナ、エフィさんをよろしくお願いします」

「わかった!」

「あんちゃん、持ち帰り分できてるぜ! 一時はどうなることかと思ったがな」

 屋台のオヤジさんが麻みたいな布の袋に入れた持ち帰り分の串焼きとパン、オレンジ果汁の壺を持ってくる。

「いやあ、悪かったねありがとうございます」

「いいってことよ! これからもごひいきに……な!」

 大きな歯をむき出して笑う顔は迫力満点だ。

 

 マスターシムナが腰砕けのエフィさんを連れて先にゼーゼマンさんのお屋敷に向かったあと、僕は市場の外れにある野鍛冶を訪ねていた。

 野鍛冶っていうのは、武器鍛冶と違って、農具や、生活用品を作る職人さん事だ。

 ちょっと前に頼んでいた品物を受け取りに来たのだ。

「お、来た来た、できてるぜ!」

 浅黒く焼けた顔を綻ばせて、俺を迎えてくれたのは、そこの親方さんだった。

「お手間かけました。これ、残りの代金です」

 僕は、注文の品の残金金貨4枚を渡す。発注したときに前金として3枚渡してあるから、合計金貨7枚もの買い物だった。

「ほい、これだ。検分してくれ。普段の3倍は気をつけて仕上げたから、角の落とし忘れなんかないはずだぜ」

 できあがった品物を渡され、僕はじっと見つめる。緩やかな曲線で構成された持ち手、使いやすいカーブの掬い。爪はきっちりと4本だ。3本だとスパゲッティが、食べづらいんだ。 

 爪の一つ一つにきっちりと角落としのヤスリがかけてある。これなら口の中を怪我する心配が無い。

 もちろん防錆魔法がかけてある鉄製だ。

「親方、じつに丁寧な仕事をありがとう」

「しかし、不思議な人だなあんちゃんは、そんなもの10本も作って何に使うんだ? 手投げ武器か?」

 もっともな問いだ。

「うん、これで、食べるんだ」

 それを左手に持って、僕は、食べ物を突き刺す動作をする。

 僕はの鍛冶の工房にフォークを作って貰っていたのだった。

「がははははははっ! そりゃずいぶん酔狂なこった!」

 そうだろうな、この世界じゃ手づかみ食が主流だからな。こんな小型化した農具みたいなもので食事なんて考えられないだろう。

「親方、ご飯食べた後、おなか壊すこと無い?」

 僕はいかにも頑丈さが売りだぜみたいな野鍛冶の親方に聞いてみる。

 親方は、きょろきょろと左右に視線を走らせて答える。

「いや、ここだけの話な、最近、年のせいか、下しやすくなってよ」 

 ふふふ、思った通りだ。

「じゃあさ、これ、一本あげるから、だまされたと思って、これを使って食事してみてよ」

 案の定親方は、怪訝な顔をする。

「そんなんで腹痛が防げるのか? なんのおまじないだよ」

「まあ、いいからいいから試してみてよ、あと、これと、匙とナイフは食事が済んだらきっちりときれいに洗うこと。そうだな、汚れを取って、全体を熱湯に付けておくくらいがいいかなそれだけで、腹痛はかなり減ると思うよ。試してみて」

「おいおいまじかよ。んなことで…………そうだな、やってみるとしよう」

 それまで、僕の言うことなんか小馬鹿にしていた親方が急に素直になった。

「親方さん、あなたが、今日と明日、健やかにすごされますよう」

 振り返ると、そこに、自称使徒様方がニコニコとして佇んでおられた。

「うふふ、逃げ出してきちゃった」

「我も、アレは厳しい。早々に退散してきたよ」

 脱走女神様たちが微笑む。野鍛冶工房には、見たこともない花が咲き乱れたのだった。

「あ、あ、あの親方! この方たちは……ですね」

「知ってるよ、さっき休憩から戻ってきた徒弟が、ひとしきり騒いでたからな」

 親方はひざを折って、手を胸の前であわせる。

「女神イフェと、大地母神ルーティエに感謝を!」

 親方さんが工房の屋根が吹っ飛ぶかと思うような声で祈りを捧げ頭を垂れた。

 その頭に、自称使徒、イェフ・ゼルフォさんとエーティル・レアシオさんが手を置いて言った。

「あなたへ、女神イフェの使徒たる我が身から、女神イフェの祝福を!」

「野鍛冶フゴル・バチョに地母神ルーティエの使徒たる我から地母神ルーティエの祝福を」

 ってな。

 大丈夫なんですか。今日は祝福の安売り日ですか?

 と、思っている僕に、エーティルさんが囁く。

「大主教レベルの祝福だから問題なしだよ。鑑定してごらん」

 僕はこっそりと親方に向かって、鑑定を念じ、基本ステータスを開いた。


【状態】

 名 前:フゴル・バチョ

 異 常:微軽度食中毒

 性 別:男

 年 齢:46歳

 種 族:人間

 職 業:鍛冶

 レベル:武器鍛冶99/100

     防具鍛冶85/100

     野鍛冶 99/100

 HP :245/290

 MP :23/45

 攻撃力:124(+20)

 防御力:58(+2)

  力 :104

 魔 力:13

 器用さ:152

 素早さ:189

  運 :12/12

 スキル:生活魔法 回復魔法 火攻撃魔法  

     戦闘中回復(微)付与魔法(鍛冶限定)

 耐 性:病(微)毒(微)眠り(微)麻痺(微)混乱(微)恐怖(微)

     ショック(小)

     火属性攻撃(小)水属性攻撃(微)風属性攻撃(微)

     土属性攻撃(小)電属性攻撃(微)

     光属性攻撃(微)闇属性攻撃(微)即死性攻撃(微)

     火魔法攻撃(小)水魔法攻撃(微)風魔法攻撃(微)

     土魔法攻撃(小)

     光魔法攻撃(微)闇魔法攻撃(微)


「(微)ってのがあるだろう?」

「ええ」

「それが、今与えた祝福で新たに獲得したものなんだ。大主教レベルならこれくらいのはずだ。ティエイル・シャーリーンもこれくらいはできるはずだよ」

 と、エーティルさんはのたまうのだった。

「おお、なんか、体調子がよくなった気がするぞ」

「「それはよかった」」

『使徒様』方が微笑んだ。

 僕らは体の調子が良くなったと、喜ぶ親方に分かれを告げ、野鍛冶工房を後にした。


「じゃあ、これから市場に行きます!」

 僕は、使徒様方の手を取る。

「ハジメさん流石ですねぇ。おなかを壊す原因が、手についている小さな命がしでかしていることだって見抜いておられるなんて」

 市場へと続く道巣がら、『使徒』イェフさんが微笑んだ。

「いやあ、僕の世界では、手洗いは常識でしたから」

「こちらでは、それに気がついている者はほとんどおりません。だから、お腹を壊して命を落とすものも少なくないのです」

「でも、イフェ様はあらゆる生命を見守る女神様ですから、公衆衛生なんてことを広められませんよね」

 生命を司るということは、細菌もウィルスも同等に命だから、人の命を守るために、人だけに肩入れできないってことだ。

 つまり、細菌やウィルス、寄生虫の命も、人の命もこの方の前では全てが平等なのだ。

「ええ、じつに歯がゆいことではありますが……」

「少しだけ、ほんの少しだけ、そこいらのこと、変えてもいいですかね」

 僕は恐る恐る尋ねてみる。

「ええ、それは、生命の個々の自衛権の行使ですから認められます」

 イフェ様のお墨付きをいただけた。

「君は何を成そうとしているんだいハジメ君?」

 ルーティエ様が聞いてくる。

「とりあえず、仲間と友達が、つまらない病気でくたばるようなことを防ごう。なんて思ってます。まあ、イフェ様の祝福をいただいたので、もう、不要になっちゃいましたけどね」

 僕は、取りあえず僕の身の回りの衛生環境の改善から始めてみようかと思っていた。

 じつは、フォークはその手始めだったのだった。


16/11/14 内29話『衛生環境の改善の第一歩はまずは食事の改革からだ』の公開を始めました。

16/11/15 加筆修正しました。

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