第24話 僕の鑑定スキルは本物だった。本物だった故に僕は大いに落ち込んだ
お待たせいたしました
これはどう見ても、ステータスウィンドウだ。
「終了」って、つぶやいたら全部消えた。
モノは試しとばかりに、サラお嬢様の鑑定をしてみる。
お嬢様以外の人のステータスを盗み見して、万が一とてつもないやばいモノが出てきて、こっそり鑑定してしまったことがバレたら、とんでもなくやばいことになると思ったからだ。
いや、『スキル:絶対健康』があるから、死ぬようなことにはならないと思うけど、くすぐり耐性は無いみたいだから、気がふれるまでくすぐられてしまう事になるかもしれないし……。
「サラお嬢様」
「なあに? ハジメ」
「お嬢様を鑑定していいでしょうか?」
案の定、僕のその一言で周囲が一瞬凍りついた。
「ハジメさん? 得られたのですか?」
ヴィオレッタお嬢様が引きつった微笑を浮かべる。
「おいおい、パねえな、ダブル祝福はよ!」
「まあ、この世界に招かれた時点で、何らかのギフトを受けていたとは思うのだけれど。まさか、鑑定眼まで授けられるなんて。黙っていればよかったのに……。まあ、それが、442番……じゃなくて、ハジメなのよね……お人よしすぎだと思うのだけれど」
ルーデルとリュドミラが、耳を立て眉をひそめた。
「僕は、たぶん不死身だから。その分、僕の味方をしてくれる人には正直でいようかと思って」
鑑定スキル保持を白状してしまったことを少し後悔しながら、僕は口の端を上げる。
「おめでとうございます! 台下!」
エフィさんは……この人だけは手放しで喜んでいる。
「マジデスカ? マジナンデスカ?」
マスターシムナは、耳をしばたかせ、目をぱちくりしている。若干片言になっているのは、きっと、自分以外に鑑定スキルを持っている人に会ったことがほとんどないからだろう。それだけ珍しいスキルってことだな。
そして、ルーティエ教団の皆さんは、ティエイルさんがフンと鼻を鳴らしたきり、僕を冷ややかな目で見ている。
そりゃ、自分のステータスを勝手に見られて愉快な人はいないだろう。
もちろん誰のことも勝手に見ようなんてしないよ。敵以外は。
だから、サラお嬢様にわざわざ声をかけ、みんなに僕が鑑定眼を得たことを知らせたんだ。
「おめでとうハジメ! 鑑定して! でも……」
お嬢様は顔を赤らめる。
ああ、きっと、装備を鑑定されて、どんな下着を着ているかとか知られたらどうしようとかって思っているのかもしれない。
「大丈夫です。僕の鑑定眼は、たぶんシムナさんよりレベルが低いでしょうから、鑑定できるのは、防具の種類くらいまでです。……ナイフとか、篭手とか…それくらい大雑把な…自分のを見てみたらそうでしたから」
お嬢様に安心してももらおうと、僕の鑑定眼の性能をものすごく低く教えた。
「そのようね。装備の固有名詞とかも判らないみたい。ほんと、初級の鑑定眼みたい」
マスターシムナが、ホッとため息をついた。
どうやら、スキル:鑑定妨害(状況:虚偽情報表示)が機能しているようだ。
「では、いきますよ! 鑑定!」
僕は大仰に掛け声をかける。実はもう、全部見えてるんだけどね。
誰かや何かを見つめて、鑑定しようと明確に意識すれば、黙っていても対象のステータスが見えるみたいだ。
目の前に浮かび上がっているたくさんのウィンドウの中から、【状態】と、いうのを注視する。
このたくさんのウィンドウに中に、ぼんやりと衣服や、装備に関係しているものもあるけど、そっちは、敢えて意識しないようにする。ぼんやりと見えちゃっているけれど、見ていないから。
すると、サラお嬢様の現状のステータスが見える。
【状態】
名 前:セアラ・クラーラ・ゼーゼマン
異 常:無し
性 別:女
年 齢:11歳
種 族:人間
職 業:魔法使い 丁稚
レベル:魔法使い 10
丁 稚 73
HP :46/46
MP :36/36
攻撃力:41(+3)
防御力:13(+2)
力 :33
魔 力:31
器用さ:26
素早さ:30
運 :95/100
スキル:生活魔法 回復魔法 火攻撃魔法 風攻撃魔法 土攻撃魔法 闇魔法
戦闘中回復(中)
耐 性:病(大)毒(大)眠り(大)麻痺(大)混乱(大)恐怖(小)
ショック(小)
火属性攻撃(大)水属性攻撃(大)風属性攻撃(大)
土属性攻撃(極大)電属性攻撃(大)
光属性攻撃(大)闇属性攻撃(大)即死性攻撃(大)
火魔法攻撃(大)水魔法攻撃(大)風魔法攻撃(大)
土魔法攻撃(極大)
光魔法攻撃(中)闇魔法攻撃(中)
その他:女神イフェの祝福、女神ルーティエの祝福
なんてこった! 僕なんかより、ずっと強そうなステータスだ。しかも、魔法使いで丁稚という職業のサラお嬢様に、元荷役奴隷でバキバキに力仕事をこなしていたはずの僕が、力で負けてる。
これって、奴隷として解放された瞬間に、こっちの世界でなんの経験もしていない僕にリセットされたってことなんだろうか?
雑嚢から筆記具を出して、メモを取る。この世界、既に鉛筆があるのがうれしい。
それを、サラお嬢様に手渡す。
「うわあ! わたし、もうレベル10になっていたんだ! うれしい! ええええええっ! これなに? そっか、これが、祝福なんだぁ!」
さすが、剃刀ヨハンの娘さんだ。自分のものすごい耐性のことはぼかして喜んでいる。きっと、ヴィオレッタお嬢様も同じように耐性やらなにやら付与されているんだろう。
「ふう、本物か……。女神の祝福たるや……なんともはや……ね」
シムナさんが頭を振りながら肩をすくめた。きっと、シムナさんもサラお嬢様を鑑定してたのだろう。答え合わせはオーケーだったようだ。
ん? 何で答え合わせなんて回りくどいことを?
「シムナさん、僕の鑑定した方が話し早くないですか?」
そっちの方が回りくどくないだろう。
「一応……ね、鑑定眼のレベルを答え合わせで確認してみたくて、ね」
なるほど、もっともだ。確認は重要だ。
「では、台下。我らは急ぎ神殿に戻り、生命の女神教団設立の準備にかかります。お姉様、お名残おしゅうございますが……」
ティエイルさんが、僕らに向かって慇懃にお辞儀をする。なんか、ルーティエ教団の方では僕はすっかり教祖様扱いのようだ。めんどくさいことにならなきゃいいなぁ。
それに、なんか、いつまでもここにいたら、僕にあることあること全部見透かされるみたいだからなと言わんばかりにいそいそしている。
「ええ、ええ、シャ-リーン・ハスコ。明日にでも、そちらに伺います」
「はい、お姉様、一刻千秋でお待ち申し上げます。おいでになるまでに、台下の経歴をでっち上げておきます。ちょうど、半年ほど前に、野盗を装ったロムルス教皇国の兵に撫で斬りにされた村の外れにあった修道院がいいでしょう。全員が異端者の烙印を押された上、串刺しにされて街道に並べられたといいます。そこから難を逃れたという体で作ります」
ティエイルさんが、おっかないことをサラリと言って、二人の高僧を引き連れてヴェルモンの街の冒険者ギルドマスターの執務室から出て行った。
撫で斬り? 串刺し? 要するに虐殺のことだよね? しかも烙印されて串刺し? 昔のルーマニアのワラキア公国の君主じゃないんだから。
再びマスターシムナの執務室には静寂が訪れた。
「ふう、えらいことになったわねぇ。あたし、ここまできて、また、スキルアップできるなんて思わなかったわ。何気にレベル限界がおそろしく伸びてるし。これでまた、レベリングできちゃうわね」
しみじみとマスターシムナがつぶやいた。
「よかったじゃん。ああ、でも、めんどくせえことになったなぁ」
ルーデルがあきれたようにソファーでふんぞり返る。
そうだよなあ、宗教法人の設立にかかわるなんて、よっぽどやる気がないとめんどくさいことこの上ないよな。
「相手は大地母神と死神。おまけに招かれ人。ややこしくならない方がおかしかったとおもうのだけれど?」
ルーデルの隣で、リュドミラが冷めた紅茶でのどを潤した。
「はあ、私、とんでもないものをいただいてしまった気がして、動転しています」
お嬢様がソファーに座り直し、紅茶に口をつける。
「わたしは、うれしいわ、姉様。このレベルのクセに、このステータスなら、たいした装備を用意しなくても、近くの軽ダンジョンなら踏破できちゃいそうよ」
サラお嬢様が、僕が手渡したメモを見ながらニコニコしている。
実はさっき、とんでもないモノをいただいてしまったと困惑しているヴィオレッタお嬢様のステータスを、ちょっとだけ、こっそりと鑑定してみた。
魔法使いレベル10のサラお嬢様で、ああだったのだから、すごく気になったからね。
もちろん、サラお嬢様を鑑定したのと同じ、基本ステータスまでだ。装備とかは見ていない。
なんていう名前の服で、なんていう名前の下着かなんて見ていない。興味はあるけれど……。
【状態】
名 前:ヴィオレッタ・アーデルハイド・ゼーゼマン
異 常:無し
性 別:女
年 齢:15歳
種 族:人間
職 業:治癒師 番頭
レベル:治癒師 20/100
番 頭 99/100
HP :104/104
MP :45/45
攻撃力:54(+3)
防御力:64(+2)
力 :51
体 力:62
魔 力:55
器用さ:44
素早さ:44
運 :77/100
スキル:生活魔法 回復魔法 付与魔法 神聖魔法
戦闘中回復(中)
耐 性:病(大)毒(大)眠り(大)麻痺(大)混乱(大)恐怖(小)
ショック(小)
火属性攻撃(大)水属性攻撃(大)風属性攻撃(大)
土属性攻撃(極大)電属性攻撃(大)
光属性攻撃(大)闇属性攻撃(大)即死性攻撃(大)
火魔法攻撃(大)水魔法攻撃(大)風魔法攻撃(大)
土魔法攻撃(極大)
光魔法攻撃(中)闇魔法攻撃(中)
その他:女神イフェの祝福、女神ルーティエの祝福
ヴィオレッタお嬢様もサラお嬢様に負けず劣らず僕よりもかなり上のレベルだ。
「はあ……」
僕は思わずため息をついてしまった。
リュドミラにまた、ため息ひとつで、幸せひとつが逃げていくなんて言われそうだ。
しかしまあ、僕は、よく、冒険者になろうなんて思えたもんだ。
そりゃ、豚肉が一ウマウマのとき、最低でも五ウマウマのモンスター肉に惹かれたのは確かだけどさ。
正直、僕はかなーり、深ーい所まで落ち込んでいたのだった。
16/11/03 第24話更新しました。
毎度ご愛読、誠にありがとうございます。
16/11/17 ヴィオレッタの年齢とサラの年齢をそれぞれ21歳→15歳 13歳→11歳に変更いたしました。