表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生グルマン! 異世界食材を食い尽くせ  作者: 茅野平兵朗
第2章 今度は醤油ラーメンだ! の巻
232/232

エピローグ ダァナ街道にて

第二章これにて終了なのでございます。

 時折吹く風に桜吹雪が舞い踊るダァナ街道を、ヴェルモンへと向かう馬車に僕らはのんびりと揺られていた。

 今とは逆向きに王都へと馬車を走らせていたときには、冬だったこともあって気が付かなかったが、この街道は桜の並木が延々とどこまでも続いていた。


「まさに万朶の桜だな」


 馭者席には僕が座り、馬車馬グラーニの手綱を取っている。

 急ぐ旅ではないから、ルーデルやリュドミラが取ることもないだろうということで、僕が馭者を任されていたのだった。

 さて、そのふたりはというと、僕から『妖精王の戦舞』(僕が醸造したどぶろくを濾した濁酒だ)の樽をせしめて取り置いていたワイヴァーンのレバニラやオークのチャーシュー、グランアングーラジャーキーとかをアテに盃を重ねている。

 かなり贅沢な花見酒だ。

 ちなみに、天気がいいこともあって、馬車の幌は取っ払っている。

 サラとエフィさん、そして、セイレーン族の幼女テュスこと、ユステ様は三人でトランプに似たカードでゲームをしている。

 どうやら、神経衰弱のようなゲームみたいだが、馭者席から振り向いてじっくりと観察したわけではないから、現状、三人の会話からどんなゲームが進行中なのか推理するしかない。

 最もテュス様は、殆ど言葉を発しないので正確には、ウィルマとサラの会話からの推理だ。


「人間、ああいう死に方はするものじゃないわ」

「ちげえねえ、せめて死体は誰が誰だかわからねえとなぁ。かかかかかッ!」


 突如耳に入ってきたルーデルとリュドミラの物騒な会話に、背筋が伸びる。

 ルーデルとリュドミラの決して小さくはない話し声に聞き耳を立てていると、彼女たちの酒の肴は、僕が首を刎ねられてから、目覚めるまでの間に隣国ヴィステフェルト大公国で起きた、大公城崩壊事件のことだった。

 それは、ヴィステフェルト大公国の大公殿下が住まう城が白昼わずか四半刻のうちに、跡形もなく完全に崩壊して更地に変わってしまったというものだった。

 尖塔が美しかったヴィステフェルト大公国の名城は、その地下施設も含め根こそぎ完全崩壊して、採石場に成り果てたとのことだった。

 さらに、不幸なことには、その時、城中に大公一家と、彼の国の半数以上の貴族とその家族が、前大公弑逆事件の下手人が誅されたことを祝うために参集しており、そのことごとくが粉々になってしまった城と運命を共にしたそうだ。

 上はアドルフ大公殿下から下は一兵卒に至るまで、アドルフ太閤殿下が大公位につく際に協力したもののすべてがその『事故』に巻き込まれて無惨な姿に成り果てたそうだ。


「城が粉々になるのに巻き込まれて、連中も一緒に粉々にすり潰されちまったもんなぁ」

「そうね、あれはまるでハジメが前に作ったはんばぁぐの生のままのやつを瓦礫に叩きつけてあちこちに飛び散らかしたような有様だったわ。ふふふふ……」


 想像して思わず吐き気がこみ上げ来る。

 どんだけだよSSS級冒険者って!

 砂で作ったもんなんかじゃない、リアルのお城を中にいる人間ごとミキサーにでもかけて粉々に破壊したってのかよ。


「うぷっ、おえぇっ!」


 そも、そんなでっかいミキサーどうやって作った?

 それは、何を動力にして何を動力源にして動かしたんだ?


「ルー! リューダ! 気持ち悪いお話は止めて! ハジメさんが具合悪くなっちゃったじゃない! そのお酒、取り上げちゃうわよ!」


 僕の隣の席を占めていたヴィオレッタおじょ……もとい、ヴィオレッタが後ろを振り返り、ルーデルとリュドミラを叱り飛ばす。


「うへえ、そりゃ勘弁だぜ」

「この話はもう止めるからわたし達からお酒を取り上げないでちょうだい、ヴィオレ」


 兎耳をシュンとうなだれさせ、ルーデルがしょげかえる。

 そして、リュドミラもまた、垂れ耳を更にたたみ、眉根を情けなく寄せたのだった。


「おやおや、ハジメさん、馬車酔いですか? 吐き気止調合しましょう? なに、寸刻あれば完成しますゆえ、少々お待ちをッ!」

「ええッ! ハジメ、具合悪いのお病気になっちゃったの? ウィルマのお薬が必要なんて普通のお病気じゃないわ!」


 エフィさ……もとい、ウィルマと……サラおじょ……もとい、サラが心配そうな視線を。ぶん投げてきた。


「だ、だいじょうぶです。なんでもないですご心配なく!」


 調合道具を腰のマジックバッグから取り出し、並べ始めたウィルマを制止する。


「いえいえ、ご遠慮なさらずに。不肖ウィルマ、酔い止めくらいの調合、動く馬車の中でも完成させてご覧にいれますゆえ。万が一にもしくじりませんのでございます。お任せをなのでございます」

「わあああッ! ウィルマは馬車の中で薬の調合なんかを始めないでください! 揺れてるんですから! 万が一が起こるかもしれないですから」

「あはははは、ハジメったら変なお顔!」

「うふふふふっ、ハジメさんったら」

「かかかっ! 調合失敗したら爆発か? ボンッ! って? ウィルマの顔が煤だらけになるのか?」

「爆発なんてしませんのでございます。失敗したところで劣化強壮剤になるだけなのでございます」

「くくくくッ、ハジメにはそっちの方がいいかもしれないと思うのだけれど?」

「そ、そんなの要りませんから。強壮剤なんて飲まなくたって、僕のユニークスキルで、いつだって元気いっぱい、ふぁいとぉぉぉッ、いっぷぁあぁぁつ! ですからッ!」

「「「「「あはははははははは!」」」」」


 馬車の中に笑いの渦が巻き起こる。

 たった、数時間前には想像すらできなかった情景がそこで繰り広げられていた。

 本当の僕の姿でヴィオレやサラ、ウィルマにルーデル、リュドミラと笑い合いながら旅をするなんて……。

 そりゃあ、僕だって妙齢の男子だから、こんな醜い僕でも皆は受入れてくれるかもしれないと淡い期待を抱いた瞬間もありましたよ。

 だって、たった半年くらいとはいえ、ずっと苦楽を共にしてきたからね。

 奴隷商からお嬢様方を買い戻したり、ゴブリンパレード討伐やロムルスの潜入工作部隊によるスーラ皇国友好使節団襲撃事件。

 ヒュッシャシュタットのクラーケン討伐に、自由貿易都市アンブールではロムルス教国工作部隊の暗躍を暴露したり。

 と、たった半年くらいで元の世界だったら、一生に一度あるかないかくらいの事件に何度も遭遇し乗り越えてきたことでの吊り橋効果的ななんやかんやで、僕に好意を寄せてくれているんじゃないだろうかって期待もしました。

 でも、そんなことはありえないって思い直しましたから!

 だから、僕は一人で旅立とうって思ってたんだ。

 でも……。


「はあ……」


 思わず溜息が漏れていた。

 だって、今のこの状況。それは、心の一番深いところで本当に望んでいたことだったから。

 そんな僕の手綱を握った手にヴィオレッタの柔らかな手が重なる。


「ハジメさん、この街道にはもう一つ名前があるんですよ。知ってます?」

「いえ……?」


 王都と東方辺境領の領都ヴェルモンを結ぶ街道で、ダァナ河畔をに設えられた街道だからダァナ街道という名前がついているのは知っていたけれど、もう一つ名前があるなんて知らなかった。

 街道にも二つ名があるんだな。


「あーッ! それ、わたし知ってる。す……」

「サラ、その答はでございますが、ヴィオレがハジメさんに教えてさしあげるのがいいのでございますよ」


 答えを言おうとするサラの声に振り向いた僕の目に、特殊部隊のサイレントキルスキルよろしく、ウィルマがサラの口を背後から塞ぐのが見えた。


「ありがとうウィルマ。今夜はハジメさんにあなたが好きなものを作ってもらうようにお願いするわ」

「どういたしましてヴィオレ。ありがとうございます」


 一瞬、二人の間に何やら計り知れないものが飛び交ったような気がしたけれどきっと気のせいだろう。


「少しスピードを上げましょう。日が暮れる前に野営地に入りたいですからね。はいッ! グラーニ!」


 パシンと手綱を鳴らし、グラーニに合図する。

 グラーニがいななき、すこしずつ速度が上がり始めた。


「みんな、今年の秋にはきっとお米が食べられますよ。それまでにやらなきゃいけないことがたーっくさんありますけどね。 でも、がんばれば、がんばった分だけ美味しいものが食べられることになるはずです」


 僕の言に真っ先に喰い付いてきたのは、例によってサラだった。


「なら、ハジメ! わたし、あいすくりんみたいなおいしいお菓子が食べたい!」

「私は……、そうですねぇ、こないだのクラーケンのふんわり焼きとか、カラマリの円盤焼きとかみたいなものが食べたいです!」

「ワタクシは、また、厨房特権に預からせていただきたく……」

「あたいは、これ、ハジメが作る酒とあたいたちが獲ってきた魔物肉の料理だ!」

「わたしは……そうね、こないだ食べたカレーも好きになったし、ラーメンも大好きなのだわ。ああ、もちろんイフェたちが禁菜した方なのだけれど? まあ、その他にもまだまだハジメが作れるものはたくさんありそうだから、わたしに美味しいものをたくさん食べさせてほしいのだわ」


 ああ、またもや僕は地雷を踏んづけた気がした。

 限りなく際限なく皆のために美味しいものを作り続けなきゃいけなくなった。


「うん、皆に食べてもらいたい料理はいっぱいあるんだ。これから、あちこちに旅してい~っぱい作るから期待していいからね! まあ、とりあえず今夜はラーチャン餃子セットということで!」

「らーちゃんぎょうざせっと? なにそれハジメ! その呪文おいしそうだよ!」

「らーは、ひょっとしてラーメンのことですかハジメさん!」


 ヴィオレッタが目をキラキラと輝かせて、期待満面の笑顔を僕に向ける。


「正解。さすがヴィオレ。ラーチャンのらーはラーメンのラーです!」

「じゃあ、ぎょうざせっとというのは、あの、ワタクシが初めてみなさんと食事を共にした時のあのプチミートパイのことでしょうか?」

「正解ですウィルマ。セットというのはひとそろいということですラーメンと餃子ともう一品でひとそろいです!」


 餃子と聞いた皆の歓声で馬車の中が満たされた。

 あの夜のあの餃子は本当に大好評だった。皆あの味が忘れれらないのだろう。

 僕にとっても、あの夜のあの、皆で作った餃子は忘れがたいものだった。

 ある意味、あの餃子はすべての始まりだったような気もする。

 あの夜、皆で作って皆で食べたあの餃子。

 あれ以来、いろんなものを作って皆で食べてきた。

 これからだって、いろんな物をつくって皆で食べていきたい。


「じゃあ、ちゃんてのはなんなんだ?」

「それは、まだ食べたことがないものだわ。ハジメのことだから、きっと美味しいものにはちがいないと思うのだけれど」


 僕は口角を釣り上げるが、その表情を見れたのは隣りに座っているヴィオレだけだったに違いない。


「ちゃんはチャーハンという、炊いた米と卵と肉を混ぜ炒めた米の料理です。まだ皆には食べてもらってなかったと思うけど……」

「ういわああああッ! ラーメンだけ、餃子だけでもテンション上がりまくりなのに!」

「はあぁ……作り方を聞いただけで美味しそうなのがわかりますぅ」

「フンッ! ワタクシ今回は前回よりも頑張って、美味しそうな一品にするのでございますよ! みなさんもがんばりましょう!」

「えーと、包み方は……っと、思い出してきたキタキタキターッ!」

「ええ、今回は三百個くらいできてしまいそうなのだわ」

「ふふふ、そして、今回は更に美味しく食べるための秘密兵器を作ってあります。それは晩御飯の時のお楽しみです」


 僕が作っていた秘密兵器っていうのは、ラー油のことだ。

 以前にタジャ商会のヤトゥさんに貰ったごま油にこれまたタジャ商会からカレーを買ったときについでに買ったレッドホットペッパーを漬け込んでいたのだった。


「さあ、みんなでがんばって美味しいものをいっぱい食べましょう!」

「「「「「「おおおおおおおッ!」」」」」」


 皆の雄叫びがそこにある音の全てになる。

 桜吹雪舞う中、僕らの馬車はダァナ街道を一路東方辺境領へと向かう。


「ああ、そうそうハジメさん、この街道のもう一つの名前ですけど」

「教えてください」

「スリジエ街道っていうんですよ」


 そう言ったヴィオレッタはキョロキョロとあたりを見回し、悪戯っぽい笑顔を浮かべ、僕の唇にそっと自分の唇を押し当てたのだった。



転生グルマン! 異世界食材を食い尽くせ 

第二章 今度は醤油ラーメンだ! の巻   (了)


2019/04/19

エピローグ ダァナ街道にて

の、公開を開始しました。

毎度ご愛読ありがとうございます。

第二章これにて終了でございます。

少しお暇をいただき、また、食いしん坊たちの冒険を描きたいと考えております。

その際にはまた宜しくご愛読くださいますようお願い申し上げます。

ブクマ、ご感想、ご評価、レビュー等いただけますとものすごく嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ