第17話 冒険者登録。気がついたら借金が増えている件について
「どうしたの? なにごと?」
豪華な金髪をなびかせて、小麦色の肌のゴージャスなボディを白銀の鎧で包んだ女性が階段を下りてきた。冒険者ギルドのような力社会で、いかにも偉そうな感じがする人だ。
「カトリーヌ、どうしたって言うの?」
ふむ、受付嬢さんはカトリーヌさんって、いうのか。覚えておこう。お世話になるかもしれないからね。
「ふう、ようやくおでましね。始めから呼んでれば、こんなことにはならなかったと思うのだけれど」
「おー、来た来た。よお! シムナ! ひさしぶりぃ!」
リュドミラと、ルーデルが白銀の鎧に身を包んだ金髪の女性の名前を呼び手を振る。
この人が、リュドミラとルーデルの知り合いのシムナさんか。
「げッ! リューダ! ルー!」
露骨に嫌そうな顔したぞこの人。リュドミラとルーデルはかなり歓迎されていないようだ。っていうか、だいぶ嫌われているといったほうがいいような表情だ。
「マスター、あの……」
カトリーヌと呼ばれた受付嬢さんが、元水晶の砂の山を指差す。マスターって……ここは、酒場でもなければ、喫茶店でもない。ってことは、この、ヴェルモンの街の冒険者ギルドのマスターってこと?
リュドミラとルーデルは冒険者ギルドのマスターとお知り合いってこと? 大物じゃないか!
「っちゃー……記録水晶が……これ、高いのに……。リューダ! ルー! あんたたちの仕業でしょ! 何にも知らない受付の子、からかわないでよ。ってか、ひやかし目的で、こんなとこ来てんな!」
ギルマスがえらい剣幕で、近寄ってきて、リュドミラとルーデルを指を突きつけながら抗議する。
「あら、あら、シムナ。わたしは、そこのお嬢ちゃんに、あなたを呼ぶように言ったのだけれど」
「取り次いでもらえなかったから、普通に冒険者登録始めたのさ」
シムナさんはフルフルと肩を震わせて、リュドミラとルーデルの言い訳にも等しい事情説明を聞いている。
「あんたたちが、冒険者のままだったら、会いたくないけど、すぐに取り次ぐようにしておいたわよ。でも、あんたたち、あたしが里帰りしてるときに、王都のマウのイカサマ賭場でものすごい借金作って、奴隷落ちしたじゃん! そっから何年経ったと思ってるのよ! 同じ街にいるんだったら会いに来るぐらいできたじゃんか! ばか……」
「ごめん、お前がこの町のギルマスになったって、聞いちゃいたんだけどよ……」
「イカサマに引っかかって、借金作った挙句、奴隷落ちしたなんて情けなくて……どの面下げてあなたに会えるというのかしら」
生き別れていた昔なじみの再会か……。うんうん、なんかいいなぁこれ、心が洗われる。
「そうよ、どの面下げてあたしに会いに来れたわけ? ああん! あんたたちが奴隷落ちしたあと、里から王都に帰ったあたしに、宿屋や酒場、質屋の請求書が全部回ってきたんだからね! 〆て金貨百三十三枚と銀貨四枚に銅貨八枚と、鑑定水晶の弁償金貨二百五十枚! 耳そろえて払ってもらおうか! 利子は昔なじみ割引でおまけしといてやんよ! さあ払え! 払ったら二度とあたしの視界に入ってくんな!」
な、なんか、風雲急を告げ始めたぞ。
しかも、新たに借金が発覚してしかも、水晶の弁償金まで上乗せされてる!
「ハジメさん……」
「ハジメ……」
不安そうな顔で、お嬢様方が僕を見る。そ、そうだ、水晶玉を壊したのはたぶん僕なのだからここは、僕がなんとかしなきゃ。
「あ、あのぅ……」
僕の声に、シムナさんの豪華な金髪から突き出た耳がピクリと動いた。
突き出た耳? あ! あまりにもゴージャスなボディと豪勢な金髪に惑わされて、シムナさんの最大の特徴を見逃していた。
この人エルフだ。しかも、この肌の色は……。
「ああぁッ! なんだ、てめぇ…………ん? おお?」
あからさまに僕に敵意を向けかけたシムナさんが、頭のてっぺんから足の先まで何度も見返す。スキャナーみたいに。
「あの、ここでは、なんですから、場所、移しませんか?」
そう提案したのは、物騒な肩書きの返上を申請中の旅の僧侶さんだった。
シムナさんはエフィさんの方に振り向いて、柳眉を顰めた。
「はああ、そうだね。これは、こんなところじゃ、話にならない。リューダ、ルー。あんたらってば、昔っからこう。忘れたころに厄介ごとを持って来る」
「あら、あら、わたしたちは、冒険者登録に来ただけなのだけれど」
「ああ、そして、いちばんおいしいクエストを食い散らかしに……な」
戦闘系美獣人の二人は、犬歯が目立つ白い歯を見せて微笑んだ。
僕たちは冒険者ギルドの二階にある、ギルドマスターの執務室に通された。
全員が腰を下ろして、なお余裕があるソファーにみんなで座っている。
シムナさんは大きな黒檀の机の上で、何かを操作しているような動作をしている。
空気が震えるおような音がして、シムナさんの前の空間に何かが現れたようだ。
おそらくは空中にモニターみたいなものが出ているのだろう。それをタップしたり、スワイプしたりして操作をしている。
「さて…と、まずは、あんたたちの冒険者登録からやろうか。そっちのお嬢さんたちは……ああ、ヨハンんとこの……。災難だったね。あんたたちんとこにとっちゃ、南周り航路の発見は災難以外のなにものでもなかったろう……」
「いえ、父も何れはと思っていたようです。お気遣いありがとうございます。ギルドマスターシムナ」
ヴィオレッタお嬢様は微笑んでギルドマスターシムナに、頭を下げる。
「シムナでいいよ。ヨハンには、ずいぶん世話になったからね。んで…、ああ、もう、冒険者登録は済んでるのか。あんたと妹さんは、キャラバンでずいぶん商人の経験を積んでるから、商人ギルドなら付け出しで、D級からスタートできただろう?」
ヴィオレお嬢様もサラお嬢様も、シムナさんの言葉に首を振る。
「商人になろうとは思いません」
「そか……、じゃあ、あたしからは何もない、早く昇級するんだね」
「「はい!」」
ヴィオレ様とサラ様の短い返事にシムナさんは微笑んで頷き、リュドミラとルーデルに向き直る。
「あんたたちは奴隷期間中に、免停期間の更新を怠っていたから、冒険者資格取り消し状態だ。もう一度F級からだが、文句はないよな」
「いいぜ、一日でB級になるから」
「そうね、しかたないわね。まあ、Bくらいなら、近くのダンジョンに潜れば、半日でいけると思うのだけれど」
二人が、シムナさんから、カードを受け取る。
B級って、簡単に言うけど、だいじょうぶなの? ってか、あんたら、元々何級だったの?
「ついでに、ヴィオレとサラのパワーレべリングもしたいしな」
なんか物騒な単語が出てきたぞ。
パワーレベリングって。それって、あれだよね、弱っちい人が、強い人に連れられて、恐ろしく強い敵がいるところに行って、経験値を荒稼ぎするっていう……。
「さてと最後はあんただ、アイン・ヴェステフェルト……いや、ハジメ…か」
ダークエルフの冒険者ギルドマスターは、ため息をついて僕に向き直った。
僕は、冒険者になることができるのか?
16/10/15 第17話公開開始です。ご愛読、誠にありがとうございます。次回更新は月曜日の予定です。




