第82話 なら、てめえらのルールでやってやる!
お待たせいたしました。
今回もグロ表現ございます。お気をつけを。
熱変性して脆くなった石材が崩れ落ちてゆく轟音に振り返る。
「マジやばかったな……」
ホールから脱出した僕らを待っていたように、教会が一気に崩壊をしたのだった。
僕はともかく、危うくせっかく九死に一生を得たシスターと子供たちを、もう一回死なせるところだった。
それもこれも、シスターダーシャが打ち合わせ通りに、クラーケンを凍りつかせた魔法で、消火をしてくれなかったからだ。
「シスターダーシャ……あれ?」
「ダーシャなら、いなかったぜ」
「てっきり全員で突入したと思っていたのだけれど?」
背中を嫌な汗が流れ落ちる。
「へ、へッへッへッへッ、にいちゃんすげえなぁ。そのシスターたちゃ確かにぶっ殺したんだけどなぁ。まあいいや、そのメスガキどもと女、それから有り金全部置いてどっかいきな。クラーケンやったんだろ賞金持ってんだろ。それよこせよ、な!」
ゴブリンのように不愉快な下卑た声で大笑いしながら、どこかで見たようなチンピラどもが現れた。
その、入れ墨だらけの腕がゼップ少年の首を締めている。
どいつもこいつも、同情のしようのないくらいに腐りきった笑顔を浮かべている。
(ゴブリン並だこいつら)
「に、兄ちゃん! ごめん! おれ、おれ、またまもれな……」
「だまってなガキ!」
ゼップ少年を抱えたチンピラの脇にいた小柄な男がゼップ少年の腕をつまみ上げる。そして、腰から大型のナイフを引抜いて振り下ろした。
「ぎゃッ!」
「ほうれ、贈り物だ。ひひひひ、っとお、ちょっとも動くなよぉ。動いたら……お察しだぁ」
小柄な男が切り落としたゼップ少年の人差し指を放ってよこした。
僕の足元に小さな指がぽとりと落っこちてきた。
男たちがゲラゲラと笑う。
「あなたたち、やめなさい! そんな小さな子を人質に取らなければ、私達をどうすることもできないのですか!」
シスターイェンナがチンピラ共に叫んだ!
男たちのゲラゲラ笑いがいっそう大きくなる。
「できませーん! 僕たちひ弱ですからぁ、こんなガキを人質に取らなきゃ何にもできませーん!」
そう言って再びナイフを振り下ろす。
「ぐうううッ!」
ゼップ少年は今度は耐えてみせた。
が、指がまた落ちる。
「ふはああああッ!」
僕は大きなため息をつく。
「ああ、分かった」
「けけけ! なら、はやくどっかいきな! 俺らはこれからんそのシスターとガキどもでお楽しみだからよ」
「よーくわかったよ。貴様らはゴブリン並だってことがな。ルー、リューダ。十数える。一人だけ三分生きてればいい。後は魚の餌にしろ」
「りょーかい!」
「尋問はわたしがやっていいのかしら」
「任せる」
僕は後を向いて女の子たちをマントで覆う。
そして、できる限り声を和らげて語りかける。
「みんな、ちょっと耳をふさいでてくれるかな。お願いするよ」
「「「「「「「「はい、聖下!」」」」」」」」
「うん、いいお返事だ。シスターダーシャはきっと褒めてくれるよ」
少女たちが耳をふさぐ。
「んだてめぇ! 動くなよ! うごッ」
「ひぎゃ」
「て、手ええぇッ!」
「脚、あしいぃ!」
「ひいい! 腹がッ! 俺のハラワタぁ!」
「「「「「「ぎゃあああああああッ!」」」」」
男たちの断末魔が僕の耳朶を揺らす。
だが、子どもたちにはサラマンダーマントで覆っているのと中で耳をふさがせているのでチンピラ共の声はその耳に届いていないはずだ。
きっかりテンカウントで、チンピラ共の汚い絶唱が収まった。
「な、な、な」
「こんな……」
シスターイェンナとシスターツェツィーリアが、僕の両脇で呆然と佇んでいた。
マントを翻し振り返る。
「ルー、リューダお疲れ様」
「いやぁ全然」
「そうね、エールを呷るよりも簡単だったわ」
二人の間には大きな樽がある。
中にはぐちゃぐちゃに潰れた元人間が詰まっていた。
おそらく行動を不能にしてから片っ端から樽に詰め込んでいったに違いない。
チンピラ共は樽に詰め込まれる片端から潰れ死んでいったんだろう。
「うん上出来だよルー、リューダ。こいつらの汚らわしい血肉は魚に浄化してもらおう。あ、シスターたち、馬車にエーリャたちを乗せてください」
「は、はいッ」
「みんな、聖下の馬車にのせていただきましょう」
「「「「「「「「はいッ!」」」」」」」
シスターと子どもたちが馬車に移動してゆく。
「リューダ」
「ええ、わかったわ」
リュドミラに遮蔽結界を馬車周りに張ってもらう。
初めからこうしてりゃよかった。
後悔先に立たずだな。
ああ、だから、ここから先は絶対後悔しないように事を運ぶ。
「じゃあ、後でこれは川に撒きに行こうか」
僕は樽を軽くけとばす。
「ヴィオレたちを助け出したらね」
「ああ、さらった連中も同じにしてやる」
二人と拳を合わせる。
「はひゅ、はひゅ、ひ、ひ、ひッ……たひゅけへ……」
僕の足元には、瀕死のチンピラが転がっている。さっきゼップ少年の指を切り落とした小柄なチンピラだ。
小柄だが、その体中にまんべんなくでっぷりと付着している脂身に見覚えがあった。
この世界で、これだけ脂身を体にくっつけられっるのは金持ちか悪党だけだ。
だからこいつは悪党で間違いない。
しかもとびっきりのね。
「さて、僕は君のことを見たことがあるんだけど?」
僕はチンピラの頭を掴んで引き起こし跪かせる。
「は、はひッ、クィームファミリアのしたっひゃれふ。おたひゅけ……」
跪いた足の先にシャベルを突き立てる。
「ぎゃあああッ」
「君さ、ここの男の子たちのこと殺したよね。人殺しするんなら自分も殺される覚悟がなきゃだよ。お助けなんて言っちゃいけない」
「お、おえたひは、やっひゃいねえ……全部、ロムルスがやった」
「あらぁ、でも止めなかったのでしょう」
「こういうやつはな、弱いやつがひでえ目に合うのを傍で笑いながら囃してるもんだ。んで、おこぼれにあずかるって寸法さ」
「そ、そんなことして……ひぎゃああっ、あっ、あっ、ひひましひゃら。ガキがいしゅにたたきひゅけられて死ぬのを見て笑いまひゅひゃ。ロムルしゅ兵ろ後れおんあをやりまひた。ひょれはら……」
体中の脂肪をブルンブルンと震わせながら、小男はロムルス兵と自分がしでかしたことを語ってくれた。
その話を聞くうちに僕は胃がでんぐり返りそうになる。
くそッ、ここはサイパンか満州か?
「うふふふ、同じことされてみましょうね」
リュドミラが開いた腹からはみ出した大腸を剣に引っ掛けて引きずり出す。
「ぎゃあああッ、や、やめへ! ハラワタださないれ! ひょのとおりれふ」
「うん、でもさ、君、さっきあの男の子の指飛ばしたよね。このシャベルさミスリル製なんだよ。いいでしょ。まあ、いいや、ロムルスとクィームファミリアとがこの町で何をしたいのか、知ってること全部話してくれるよね?」
なら、てめえらのルールでやってやる。
僕はミスリルシャベルを男のもう片方の足の指に突き立てたのだった。
19/01/13
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01/13 12:35
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01/15
更に加筆いたしました。




