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転生グルマン! 異世界食材を食い尽くせ  作者: 茅野平兵朗
第2章 今度は醤油ラーメンだ! の巻
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第79話 ヴィオレッタの回復魔法は超がつくくらい物凄い

おまたせいたしました。



 アンブールミリュヘ教会が燃えていた。

 僕らは大慌てで馬車を教会敷地に乗り入れ、燃え盛る教会に横付けする。

 まろぶようにシスターダーシャが馬車から飛び降り、焔に向かって孤児たちの名前を叫んだ。


「エーリャ! アドルフ! ミーシャ! ブルクハルト! エルマー! エッケルト! ライナー! ユッテ! ルイーズ! マリー! シルヴィー! ああ、あなんてこと!アンヌ! エマ! ニコル! ナタリー! アベル! ゼップ! 誰か! 誰か返事をして! シルケ! イェンナ! 誰もいないのかい!」


 声の限りシスターダーシャが燃え盛る教会向かって叫んだ。

 だが、帰ってくるのはバチバチと炎が爆ぜる音ばかりだ。

 広い教会の敷地の真ん中に建っている教会と孤児院の建物だけが燃えていて辺りの建物には燃え移っていなかった。


「ああああ! うああああッ! あたしが! あたしが留守にしなければ! みんな! あああああああッ!」


 シスターダーシャは取り乱し、泣き崩れる。

そんなシスターダーシャの背中を擦りながら、お嬢様型がシスターダーシャを抱きしめていた。

 一体何があったっていうんだ?

 この教会と併設孤児院にはニ十人近くもの人間がいたはずだ。

 それが、こんなに燃え上がるまで一人も逃げられなかった? 夜中にぐっすりと寝込んでいるときの火事ならともかく、まだ夕方だ。

 最低でも半分くらいは逃げられるだろう。

 それが一人も逃げられてれていない?

 優秀なA級冒険者でもあるシスターが二人もいて?


「不自然だ……」


 つまり誰かが放火したってことだ。

 誰も逃げられないようにして。


「し、しす…た……」


 どこからか掠れた声がシスターダーシャを呼んだ。


「そ、その声はゼップ! どこだい!?」

「こ、こ…こ」


 教会の裏口の方から小さな男の子が全身を芋虫のようにくねらせてにじり寄ってっくる。

 どうやら、手足が使えないようだ。

 僕は駆け寄り、シスターダーシャがゼップと呼んだ男の子を抱き起こす。

 抱き起こして僕は息を呑む。

 そして、猛烈な怒りに胃の中が沸騰し始める。

 ゼップ少年の手足があらぬ方向に折れ曲がっていたのは予想していた。

 が、ハラワタが全部抜かれていたとは思わなかった。

 しかも、ご丁寧に肺と心臓は残して、肝臓に繋がっていた大きな血管は洗濯ばさみで止めて、時間をかけて死ぬように処置してあったのだった。

 なんてことしやがる!


「ああああ、ゼップなんてひどい……! ミリュヘよ、どうかこの子を連れて行かないでください。この子はまだ五年しか生きていないのです。まだ生の果実を実らせていないのです」

「ダーリャ! 治療させてください!」


 ヴィオレッタお嬢様が、薬瓶の栓を歯で咥えて抜きながらシスターダーシャが抱きかかえているゼップ少年のそばに跪いた。


「ゼップ、痛いからね!」

「えへ、へ、もう、いたいのなんかかんじないよ」


 そう、ゼップ少年が減らず口を返したのと同時に、お嬢様は空っぽの腹腔に薬をぶちまけた。


「ひッ……ぎゃあああああッ! あ、あ、あああああ!」


 ゼップ少年が断末魔のような叫び声を上げる。


「エリクサーをぶっかけました!」

「ウィルマ特製のやつね!」

「ええ! もげた手足だって生えてくる、ルーティエ教団奥の院筆頭調剤神官様特製女神の聖水EXプラチナムです!」


 こんな非常時になんて間抜けた名前だよ全く。

 今度エフィさんに会ったらネーミングセンスについて話し合わなきゃな。


「ダーリャ! ゼップくんをしっかり抑えて!ハジメさんは脚をお願いします!」

「は、はい!」

「分かった!」


 シュシュッ! と、ヴィオレッタお嬢様の揃えた人差し指と中指が空中に文様を描く。


「いと高みにおわす神々にかしこみかしこ申す。この幼き命に明日生きる機会を! この稚き命をこの世につなぎとめ給え! 


「レゲネイト・レサニーゴッ!」


 ヴィオレッタお嬢様の全身が黄金に輝き、その光がみるみると太陽のように眩しく手に収束してゆく。

 その光がゼップ少年を包み込んでグニグニとしばらく蠢いていたかと思ったら、すうっと消えていった。


「あああ、なんて、なんて! ヴィオレッタ様、あなたの治癒魔法、すでにスリジエ様を超えています!」


 驚愕してヒステリックに叫んだシスターダーシャの腕の中には、腹を割かれた痕さえ消えているゼップ少年がいた。


「よか……った……」

「お姉ちゃん!」


 倒れそうになったヴィオレッタお嬢様をサラお嬢様が支える。


「すごい! こんな治癒魔法いつおぼえたの?」

「うふふふ、ひ、み、つ。ですぅ。ウィルマのお薬との合わせ技でなんとかなりました。もう魔力がすっからかんです」


 ヴィオレッタお嬢様が腰のポーチからエフィさん特製の魔力回復役を取り出して呷り、サラお嬢様に向かってウィンクを飛ばした。


「ゼップ……ああ、ゼップ……」


 シスターダーシャがゼップ少年の名前を呼ぶ。


「ああッ! シスターダーシャみんなが、みんながまだ教会の中に!」

「わかった、今助けに行く!」

「し、しかし聖下! この火勢では!」

「ゼップ、みんなはここにいるんだね」

「うん、へんな髭のおじさんと兵隊が突然やってきて、みんなをお祈りする所に集めて、男の子たちは次々に……うわああああ! 僕は、僕は脚を持って床に叩きつけられて、お腹をあああああああッ!」


 ゼップからこれ以上何かを聞くのは無理だろう。

 変な髭? 嫌な予感がする。


「今すぐに突入する。まだ間に合うかもしれない」

「で、でも聖下! もう中はッ!」


 シスターダーシャの声に僕は人差し指を立てる。


「まあだ、なんとかなるかもしれません! 中で皆を助けたら、落下物に潰されないように対策をしてあなたの魔法で火を消しましょう。消火はあなた頼りです」


 僕はマジックバッグからサラマンダーマントを取り出し頭からかぶる。

 そして、リュドミラから預かっている巨大で頑丈な盾を担いで息を整える。


「じゃあ、行ってきます。ダーリャ、合図したらクラーケンのときの魔法で凍らしちゃってください。ヴィオレッタ、サラ! 後を頼む!」

「はぁい!」

「もう、ハジメさんったら、こういうときだけ……」

「うおおおおおおおおおおッ!」


 僕はいまだ火勢衰えない教会に突撃したのだった。

19/01/07

第79話 ヴィオレッタの回復魔法は超がつくくらい物凄い

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