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転生グルマン! 異世界食材を食い尽くせ  作者: 茅野平兵朗
第2章 今度は醤油ラーメンだ! の巻
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第75話 生クラーケンのお味は20ウマウマだッ!

お待たせいたしました。

 恐怖に歪んだ顔の人間を貪り食おうとワクテカで現れたであろうクラーケンは、海中から姿を現して三秒でシスターダーシャの魔法で完全凍結され、ルーデルの大剣の一撃で粉々に砕け散ってしまった。

 なるほど、リュドミラたちがシスターダーシャの同行を大歓迎していたわけだ。

 ともあれ僕は、RPGに出てくる中ボスクラスの魔物を蟻を踏み潰すよりも簡単に倒してしまったシスターダーシャに感謝を捧げることにした。


「すごい、流石ですシスターダーシャ! 僕は、これが現れたときにはもう、食べられるのを覚悟しちゃいましたから!」


 シスターダーシャに感謝しながら、僕はヴィオレッタお嬢様とサラお嬢様に目配せをする。

 シスターダーシャが今一番欲しいものはお二人が持っているのだから。


「ええ! ええ! ありがとうございますシスターダーシャ! 本当にすごいです。私も食べられてしまうかと思いました。なんて威力の魔法なんでしょう」

「シスターダーシャかっこよかったよ! 一緒に来てもらってよかったぁ! シスターダーシャがいなかったら今ごろ、クラーケンのおなかのなかだよ。ありがとうシスターダーシャ!」


 僕の意図を察してくださったお嬢様方が口々にシスターダーシャを褒めちぎる。


「えへへ、そおですか? そんなにすごかったでしょうか? いやぁ、この身にとっては当たり前の魔法なんですが。ええ、ですから、お連れいただければ、この身は絶対お役に立つと申し上げていたのです。うふふ、うふふふふ……」


 口々に褒めちぎるお嬢様方の声にデレデレと照れ、耳まで真赤にしながら、シスターダーシャはこれ程ないだろうというくらいに鼻を高くして、目尻をこれ程ないだろうというくらいだらし無く下げまくる。

 かつて仕えた主人の忘れ形見に、ここまでお褒めの言葉をかけられてヤニ下がらない訳はなかった。


「こいつには、あと電撃系の魔法が効くんだけどな、手っ取り早いのはダーシェンカの氷魔法なのさ! うほほちべたうまーっ!」


 クラーケンの欠片を口に放り込んでモチャモチャとルーデルが咀嚼する。


「これは、活きがいいうちに生で食べるのが美味しいのだわ。ほらッ、ハジメ!」


 リュドミラがまだ凍っているクラーケンの欠片を放ってよこす。


「あんたらは……ったく、相変わらずの悪食だねぇ。聖下、そんなものお召し上がりになんかならないでくださいませ」


 シスターダーシャが、呆れたように僕に目配せする。

 まあ、イカやタコを食べ慣れていない文化圏の人だったらそういう反応だろうな。


「ん? あれ、こいつタコなのか?」


 リュドミラが放ってよこしたのはクラーケンの吸盤部分だった。

 それは、イカのそれでは無く、まさにタコの吸盤に酷似していた。

 アンブールの市場で買い占めた床一面のイカが頭をよぎった。


「てっきりクラーケンはイカタイプかと思ってたよ」

「ハジメさん今おっしゃった『いか』って、先日のトルタガレット(お好み焼き)の具のカラマリのことですか?」

「ええ、ああ、そうです、カラマリっていうんでしたね。ですから、クラーケンが同族を捕食しないから、あればっかりが獲れていたんだと思っていました……」

「でも、クラーケンが出てから漁ができなくなったって漁師さんたちが言ってたよね」

「そうですね、あの、床いっぱいのカラマリは、何処で穫れたんでしょうね」


 市場の親父さんもクラーケンが出たからイカ以外が獲れなくなったみたいなことを言ってたような気がする。

 アンブールに戻ったら、市場の親父さんに聞いてみよう。

 そんな事を考えながら腰から小刀を抜き、クラーケンの欠片を一口サイズに切って口の入れる。


「おほほ、冷てっ! んんんっ、でもうまいぞこれ! 醤油出そうかな……でもそしたらワサビが欲しいなぁ」

「せ、聖下まで! んなっ! クラーケンッ。お召し上がりにッ!」

「ええッ! いいないいな。ハジメわたしにも!」

「お嬢……ッ!」

「あら、美味しいですぅ……、噛みごたえはヒュージボアのスジ肉みたいですけどもっと弾力があって……噛む度にじゅわっと美味しさがあふれますぅ。うふふ、この噛みごたえクセになっちゃいそうですぅ」

「な、な、なんてことをお嬢様……」

 

 クラーケンの旨さにお嬢様方は小刻みに足踏みして身を捩る。

 お嬢様方には好評で、シスターダーシャはドン引きのクラーケンのお味だが、ちょうど半解凍のタコぶつのような味と食感だ。が、噛みごたえはほぼほぼそのままで、味自体はタコを1ウマウマだとすればこれは20ウマウマは確実だ!

 巨大なタコだから大味かと思いきや、なかなかに繊細で風味豊かなしっかりとした海の旨味が、噛む度にジュワジュワ口の中に広がる。


(今まで食べたどんなタコより旨いかもしれない)


 前世でも、そんなに上等なタコは食べたことはないけれど、僕の口の中でツイストしているこのタコ型クラーケンの味は極上だ、20ウマウマだ。


「今晩は何処かに野営して、これでいろいろ作りたいんですが?」


 もっといろいろと味わいたくなり、僕はみんなに提案した。


「さんせい、さんせい、さんせーい!」


 サラお嬢様がまっさきに同意してくれる。


「うふふ、私も賛成です。こないだのトルタガレットのように美味しいものができちゃうんでしょうね。うふふ、うふふふふ」

「あたいも賛成だな、今は何処の宿屋もロクなもん食えねえだろうしな」

「そうね、碌なものがあったとしても、ハジメが作るものより美味しいものなんてそうそうないと思うのだけれど」

「た、食べるのですか? クラーケンを? ああ……今、お召し上がりになっておられましたね……」


 シスターダーシャ以外は今晩のメニューに瞳を輝かせている。

 ちなみに作るものはもう決めてある。

 なんの下拵えもしていない状態で20ウマウマのクラーケンだ。アレやコレやしたらもっとウマいに違いない。40ウマウマいくかもしれない。

 唾液が勢いよく吹き出してツキンツキンと痛む頬に顔を顰め、僕は今夜の夕餉に心を馳せるのだった。



18/12/30

第75話 生クラーケンのお味は20ウマウマだッ!

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毎度ご愛読、誠にありがとうございます。

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