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転生グルマン! 異世界食材を食い尽くせ  作者: 茅野平兵朗
第2章 今度は醤油ラーメンだ! の巻
186/232

第70話 カレーライス一杯二千五百円は高いか安いか。

お待たせいたしました。

 結局、カレースパイスと米のセットの値段は、当初ヤトゥさんが提示した値段のワンセット当たり金貨十枚から半額の金貨五までディスカウントしてもらえることになった。


「最初に言った値段は、金持ちと貴族用のあたしがたっぷり儲けるための値段さね。ハジメちゃんから儲けようとは思ってないさ」


 ちなみに、ワンセットは概ね二十人前くらいの分量だそうだ。

 だから、金貨五枚……つまり銀貨五十枚で二十人前のカレーが作れるということになる。

 と、いうことはカレースパイスとコメだけでの一杯あたりの原価は銀貨二枚と銅貨五枚だ。日本円に換算したら約二千五百円。小洒落たレストランのカレー並の値段だ。

 現代日本の文明水準からすれば、かなり高価で、庶民的ではない気がするが、ついこの間まで香辛料が同重量の金と等価で取引されていたことを考えると、べらぼうに安くなったような気もする。


「ねえ、ハジメちゃん。今夜それ作るんだろ?」


 ヤトゥさんが何やら思惑を含んだ視線を投げつけてくる。

 これが、妙齢の女性だったら、何か勘違いしてしまいそうな意味ありげな視線だ。

 だから僕はその視線の意味するところがすぐに理解できた。

 つまりそれは、値引きの対価だ。


「ええ、ヤトゥさん。今夜はこのスパイスでカレーを作ろうと考えています。つきましては夕食にご招待しようと思うのですがご都合はいかがですか?」

「やたッ! あんたさっきワイヴァーンがどうとか言ってたろ? あんなもんめったに食べられるもんじゃないからねぇ……。よろこんでご招待されちゃうよ! ああ、そうだ。これが、レシピだよ。物はどうする? 50セットともなるとコメも千人前あるからエライ量だもんね。なぁに、送料はサービスしとくって。ミリュヘ教会に届けりゃいいんだろ」

「助かります。この後、カレーに入れる野菜を買いに行かないといけなかったから」


 受け取ったカレーのレシピを見ながらヤトゥさんに笑いかける。


「なあに、ハジメちゃんには後々大儲けさせてもらうからね」


 そう言って、ヤトゥさんは呵々大笑したのだった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「ん。これは?」


 ヤトゥさんから受け取ったカレーのレシピを見て僕は頭の上に疑問符を浮かべた。


「硬い魚の干物?」


 カレーの材料としては考えられないものがそこには書いてあった。


「硬い魚の干物を砕き入れて煮込む? 何だこのレシピ、硬い魚の干物って?」


 そのレシピは僕の予想と少し違っていたのだ。

 僕が予想していたレシピはインド人シェフがやってるお店で食べるような本格インドカレーのものだ。

 スパイスとトマト、飴色になるまで炒めた玉ねぎと具材のカレーマニアと呼ばれる人々が作るようなやつだった。


 「ヤトゥさん、この、硬い魚の干物って……?」


 僕は思わずヤトゥさんに問いかける。


「ああ、それは、これのことさ」


 ヤトゥさんが食材の山の中からそれを取り出した。


「あ……、うわああッ! それえええええッ! そんな、まさか……」


 僕は再び取り乱した。

 ヤトゥさんの手の中にあったものは、今回の醤油ラーメン用食材収集の旅に出る前に真っ先に収集品目のリストから外して諦めていたものだった。

 それは、確かに硬い魚の干物だった。


「面白いだろ? こんなにカチンカチンにしちまうなんてさ。こんだけ水分が抜けて乾いてたら、腐りゃしないだろうけどねぇ。」


 両手にそれを持って、ヤトゥさんがカンカンと打ち鳴らす。


「や、ヤトゥしゃん! そ、しょりぇ、カレーのセットに入ってるのとは別口で売ってくれましぇんか?」


 興奮のあまり、またもや呂律がおかしくなる。


「は、ハジメさんしっかり!」

「うわああん! ハジメがまたおかしくなったぁ!」


 お嬢様方が抱き合ってドン引きする。


「へえ……、カレーに入れる以外のこいつの使い方、知ってるんだね、ハジメちゃん」


 ヤトゥさんの口の端がつり上がった。


「ええ、ええ! 知ってますとも。それは、僕の故郷ではカレーに入れたりせずに、出汁を取ったり、茹でて絞った葉物野菜に薄く削ったそれをふりかけたりするんです」


 まさか、こんなところでそれに出会えるなんて……。

 ヤトゥさんから受け取った硬い魚の干物は、間違いなく僕ら日本人の食卓にあって当たり前のものだった。


「それ、仕入れてきた船員が言うには、現地じゃ料理の具としても調味料としても何にでも使われてるんだってさ。しかしまあ、茹でて燻して天日で乾かしただけでこんなに硬くなるもんなんだねぇ」


 ヤトゥさんが語った、硬い魚の干物の作り方は、ほとんど僕ら日本人にはおなじみの物と同じだった。

 と、いうことは、タジャ商会の船が遠征してきたところには、僕の元の世界の日本人のような民族が居るということだろうか?


(うまくいけば、味噌も手に入るかもしれないな)


 僕は手の中の鰹節を眺めながら、日本人が作る様々な食材に思いを馳せるのだった。


18/12/11

第70話 カレーライス一杯二千五百円は高いか安いか。

の公開を開始しました。

毎度ご愛読、誠にありがとうございます。

ブクマ、ご評価ならびにご感想、そして、ランキングへの投票誠にありがとうございます。

励みになります。

今後とも、何卒宜しくご愛読くださいませ。

第68話、第69話のスパイスの値段を修正いたしました。

今話のカレーの値段は修正した値段を元に設定しております。

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