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転生グルマン! 異世界食材を食い尽くせ  作者: 茅野平兵朗
第2章 今度は醤油ラーメンだ! の巻
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第67話 日本の国民食!

お待たせいたしました。

「……で、ヤトゥさんはどうしてこの街に?」


 僕の問にヤトゥさんは少しだけ困った顔をして逡巡して口を開いた。


丨東方オリエントからの帰ってきた船の荷の確認だよ。その……」

「大丈夫ですよヤトゥさん」

「もうへいきだよヤトゥさん」


 お嬢様方がヤトゥさんに微笑みかける。


「すまないね。あんた達にとっちゃ仇みたいなもんなのに」

「そんなこと言ってたら、溺れて死んだ人の家族は水を飲めなくなってしまいます」

「だね。おねえちゃんのいうとおりだよヤトゥさん。でも、すごいね。ほんのなんかげつか前でしょ? こうろをはっけんしたかんたいが帰ってきたのって。もう交易がはじまってるんだね」


 たしかにその通りだ。

 ゼーゼマンさんを破産に追い込み、お嬢様を奴隷に落としかけた丨東方オリエント特産品(主に香辛料)の大暴落は、南方航路の発見というだけでは起き得るものではなかったはずだ。

 交易船団が往復して大量に物資をもたらさなければ起き得ない現象だ。

 だが、実際に、帰国した遠征艦隊がもたらした大量の香辛料によって香辛料の大暴落が起きて、ゼーゼマンさんは破産してしまった。


「第一次遠征艦隊の直後に第二次遠征艦隊が出港したのさ。今回帰ってきたのはその第二次隊の方さ。ウチもその艦隊に出資して、人員を派遣してたんだ」


 ヤトゥさんが話してくれたことはこうだった。

 僕らゼーゼマン商会のキャラバンが東方に交易に出ていた二年の間に、二つの大規模な東方遠征艦隊が組織され相次いで出港したのだそうだ。

 艦隊というからには何処かの国の海軍がその艦隊を主導する形になるはずだが、この遠征艦隊はグリューヴルム王国を始め、大陸西方諸国の連合艦隊になったのだそうだ。

 この遠征事業の主体はアンブールに本部がある自由交易同盟で、資金の調達は公募だったそうだ。

 同盟は事業成功の高確率と、投資額に応じた高倍率の配当を謳い、莫大な資金と人員資材の調達に成功したのだそうだ。


「あたしも、半信半疑だったんだよ。今まで、誰もやったことのない航海にいきなりそんな大船団の派遣なんてね。でもさ、同盟のセールスマンがやたら自信たっぷりだったんだ。あいつら成功が確定してなけりゃ賤貨一枚だって出さないからね。だから、ウチも出資したのさ。最低限の利益を担保しようと思って船も出したんだけどね……」


 結果、自由交易同盟の謳い文句通りに遠征は大成功して、莫大な富をもたらした。

 その陰でゼーゼマンさんのような交易商人の多くが破滅の道を辿ったことは僕らがよく知っている。

 しかし、いきなり香辛料の大暴落を引き起こすほどの大船団を前人未到の手探り航海に派遣するなんて、事業主の正気を疑う。

 通常なら小規模の艦隊を往還させて航路の安全を確保してから交易船団の派遣だろう?

 それなら、ゼーゼマンさんのような交易商人が生き残る術を見つける時間的余裕があったはずだ。


「ヤトゥさんのお話からすると、端から航海が成功することが確定していたとしか思えませんね」


 ヴィオレッタお嬢様が呟く。


「うーん、それじゃあ、あんぜんななんぽうこうろは、もうずっと前に発見されていたってことかなぁ」


 サラお嬢様の考えが一番しっくりと来る。

 だが、あのクラウス王がせっかくの大発見を隠しておくだろうか?

 たった数時間だったけれど国王陛下と共にしたあの時、僕は国王陛下が意外と不器用で正直な人間だと思えた。

 そりゃあ、国王なんてものすごい重圧のかかる仕事についているからそれなりの権謀術数は謀るだろうけれど、南方航路の秘匿なんていう一部の強欲商人にしか益をもたらさないことをすることは無意味だということを分かっているはずだ。

 だから、国王が航路の存在を隠していたという仮説はボツだ。

 なら、なぜ、前人未到の航海に大船団の派遣が可能だったのだろう。


「そうだ、ちょっとウチの倉庫に寄っていかないかい? ちウチの船が丨東方オリエントから面白いもんを持ち帰ってきたらしいんだ」


 僕の思考を遮るようにヤトゥさんが誘ってきた。

 お嬢様方を見ると微笑みながら頷いている。


「じゃあ、伺いましょうか」

「向こうでね、船団の船員たちが大ハマりした米の料理があったんだとさ。それのレシピと一緒に材料を大量に仕入れてきたんだ」

「じゃあ、米も?」

「ああ、結構持って来てる。でも、あんたに譲ったのとは少し違うような気がするんだけどね。まあ、それもあってハジメちゃんを誘ってるんだけどね。たぶんあんたならわかるんじゃないかと思ってさ」


 東方の米料理で船員が大ハマリした……。

 僕の頭の中に強烈な閃光がひらめいた。

 

(アレか! アレができるのか! タジャ商会の船はアレの材料を持ち帰ってきたのか?)


 ジュワジュワと唾液腺が大量に体液を分泌し始める。

 僕は記憶の中のアレのレシピを思い出す。


「ヤトゥさん! は、早く行きましょう! 僕はそれに早く会いたい!」


 湧き出る涎と食欲で言葉が怪しくなっている。


「うわぁ! ハジメ、お顔こわいよぅ! お目々がグルグルしてるよぅ」

「ハジメさん! しっかりしてください!」


 僕の精神異常を察知したお嬢様たちがドン引く。

 だけれどもそれしきのことで、僕のアレを求める歩みは止められない。

 それは僕もだが、日本人ならよっぽどの変わり者じゃなければ週に一度は必ず食べる国民食!

 ごく一部の家庭や海上自衛隊では毎週金曜日に必ず作るアレだ!

 タジャ商会の倉庫にあるのはきっとアレの材料に違いないっ!


「ヤトゥさん! 早く早く!」

「おやおや、これは、ただ事じゃなさそうだ。すぐそこだから慌てなさんなって」


 頬が痛くなるくらいに激しく吹き出す唾液に口の中を溢れさせながら、僕はタジャ商会の倉庫への道案内を急かすのだった。

18/11/27

第67話 日本の国民食!

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