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転生グルマン! 異世界食材を食い尽くせ  作者: 茅野平兵朗
第2章 今度は醤油ラーメンだ! の巻
165/232

第49話 乱入、春風の妖精

お待たせいたしました。

登場人物一覧も書いてみました。

ページ上部の作者名からマイページに飛んでいただき、拙作の一覧から行けるはずです。

併せてご覧いただければ何よりです。

「あーッ! ルー、リューダったら! ダメなんだよハジメのおじゃま……………………ッ!」

「んもう、あなたたちったら、ちょっといなくなったと思ったら………………ひぃ!」


 勢いよく扉を開けて貴賓応接室に飛び込んできたサラお嬢様が目を見開いたまま氷柱となった。

 直後に続いていたヴィオレッタお嬢様がサラお嬢様氷柱に蹴躓き、サラ様を巻き込んでもんどりうつ。

 が、デュエットで器械体操のメダリストのようなローチェを決め、お二人は優雅に平伏したのだった。


 「いッ、い、い、い、い、いと高き御方のお側に侍る方に申し上げます。いと高き御方の御尊顔を拝し奉る栄誉に浴しましたること、誠、子々孫々までの誉れにございます」


 そう口上して、ヴィオレッタ様とサラ様は床に口づけをするように座礼をとった。お二人の肩はかすかに震えている。

 そりゃあそうだ。国王陛下なんていう雲上人の前で平民が普段通りに姦しくしたのだから、身も縮む思いをしていることだろう。

 ヴィオレッタお嬢様やサラお嬢様には、オーフェン侯爵邸の厨房の一角で、献上用のラーメンの仕込みを手伝っていただいていた。

 が、まさか、僕が王城で国王陛下に拝謁してきたその日に、王城ではなく、僕らが逗留している王都侯爵邸に国王陛下がラーメン食べにやって来てるなんて夢にも思ってなかったろう。

 僕だって侯爵様に呼ばれて、貴賓応接室でついさっき王城で拝謁した方がご一家を引き連れてラーメン食べに来たってんだから、腰抜しそうになった。

 どんな手品で僕らより先にここに到着したのかがわからないし。

 しかし、僕と同じラーメンを知っている日本人(帳面の冒涜的な絵柄の名状しがたき絵で描いてある事物から推理するにきっと現代日本人だ)が作った国なのだから、国王に対して、平民でも直接話ができるくらいにフランクでいいのに。

 まあ、この国は始祖王が作ってから千年経ってるって陛下がおっしゃってたから、その間にこうしたガチガチの宮廷作法みたいなのが蔓延ってしまったんだろうな。

 王国千年の間には、人に威張り散らしたくてしょうがない承認欲の塊みたいな国王だっていたに違いないからね。


「面を上げてほしいヴィオレッタ。ここにおる、かなりくたびれた成金みたいなジジイはな、国王陛下というあだ名のクラウスというワシの幼馴染だ。ワシと同じように接してやってくれ。それに、このジジイはそなたの父母や祖父祖母の知己でもあるからの」

「そうだぜヴィオレ。泥んこクラウスなんぞに敬語なんてもったいねえぞ」

「ルー、三日の間エール抜き」


 ヴィオレ様が座礼を崩さずにポソリと呟く。

 その背中からは般若のオーラが立ち上っているようだ。

 いや、僕にはそんな物が見えるようなスキルないけれど。


「三日!そ、そりゃねえ! 干上がっちまう。わ、悪かったよう。ゆるしてくれよう。クラウスもとりなしてくれよう」

「知らん。ルーが我を無下にするからだ」

「自業自得よルー。しかも、あなた、さっき泥んこから脱皮っていったばかりだとおもうのだけれど?」

「あ、そうだった、クラウス……泥んこ取ってただのクラウスな」

「国王陛下!」


 サラお嬢様がピシャリとルーデルを叱る。

 さすがのルーデルもヴィオレ様やサラ様には頭が上がらないらしい。

 胃袋やエールの樽でも押さえられているんだろうか。

 少なくとも『妖精のポルカ』や『妖精王の戦舞』なら、僕からぶん取ればいいわけだしアテにしたって、僕が作ればすぐなのだから、ヴィオレお嬢様やサラお嬢様にルーデルを脅すどんなネタが有るのか不思議だ。


 こんどゆっくり聞いてみよう。


「こ、こくおうへいか」

「よろしい」

「ううう、クラウスに、国王陛下なんて……目玉のウラがむずがゆいぜ。でも、三日もエールヌキはイヤだしなぁ……」


 ブツブツと懊悩しているルーデルに視線もくれず、お嬢様方は座礼を崩さない。

 その姿は実に美しかった。

 王都に到着したその日に見た、侯爵令婦人たちの座礼に勝るとも劣らぬ美しさだった。


(それにしても、こっちの世界の女性は全員が座礼をマスターしているのかね?)


「誠、光栄の極みにございます。侯爵様。陛下に手前どもが名乗りの栄誉を賜りたくお願い申し上げます」


 なおも、平伏したまま、ヴィオレッタ様が口上を続ける。

 流石だ。きっちりと国王陛下の口から直答の許しをもらうまで続けるつもりなのだろう。


「よい、ヨハンとスリジエの娘ヴィオレッタ。マーニが申したように我はそなたの祖父祖母、そして父母とは古い知己でもある。どうか、面を上げ、楽にしてほしい。そうか、そなたがスリジエの娘、クリザンテの孫か。『瓜二つ」という始祖王が遺したそっくりな者を指す言葉がピタリだな」

「はい、国王陛下。手前、東方辺境領都ヴェルモンの交易商人ヨハンとスリジエの娘ヴィオレッタと申します。これに控え居りますはは同じくサラと申します。此度、故有りまして東方辺境伯たるオーフェン侯爵様の王都のお屋敷に留まることを許されておりました。陛下が御降臨あそばされておられることとは夢にも思わずおりました。知らぬこととはいえ、陛下の御前に推参つかまつりましたること、幾重にもお詫び申し上げつかまつります」


 ヴィオレッタ様は頑なに国王に対する儀礼を崩さずに、口上を並べる。

 そんなヴィオレッタ様に国王陛下が根負けしたのだった。


「ああ、もう、頼むヴィオレッタ。赦せ肩が凝る。頼むからせめて、マーニと同じくらいに我と親しく話してほしい。我はそういった儀礼が嫌で今ここにおる。しかし、大したものだな。最近では貴族でもここまで見事に口上を述べるのは、ルグ典礼家の家長ぐらいのものだ」


 国王陛下のお許しに、侯爵様がゆっくりと誰が見てもそうだとわかるように頷いて苦笑する。

 そうして、ようやく、ヴィオレッタお嬢様とサラお嬢様は頭を上げて、国王陛下に美しい微笑みを向けたのだった。

 ん? ルグ典礼家? 何処かで聞いたような名前だな。


「ああ、笑うと頬に出る愛らしい窪みもクリザンテやスリジエそっくりだ。マーニ、おまえ、なんでスリジエに娘がおると教えてくれなかった」

「仕方なかろう、つい最近までスリジエがヨハンの嫁になっていたことさえ知らなんだのだ」


 陛下と侯爵様がふたたびじゃれ合い始める。本当に仲がいいなこのふたり。

 それにしても、護衛騎士さんたちは何をやってたんだ?

 こんなか弱そうな女の子二人をやすやすと国王陛下のところまで通してしまうなんて。

 …………あ、部屋の片隅ですすり泣いている。

 ああ、さっき、ルーたちに引きずられて来て、そのまま陛下の回想を聞いていたのか。

 そりゃぁ泣ける話だったものな。仕方ない。


 ヴィオレッタお嬢様と、サラお嬢様が現れたことで、凍りついていた室内の空気が一気に春めいた暖かなものに変わった気がする。


(本当にこの方々は、お日様みたいな方々だな)


 僕はこのとき、北風と太陽が旅人の洋服を脱がせる競争をする童話の主人公テトン(僕が読んだ絵本の主人公にはそんな名前がついていた。他の本には単に旅人としか書かれてなかったようだけど)の気持ちになっていた。


(ほんと、ウチのお嬢様方は、春風の妖精さんみたいだなぁ)


 この時、僕は、お嬢様たちの笑顔にほのぼのとそんなことを思っていたのだった。


18/10/16

第48話 乱入、春風の妖精

の公開を開始いたしました。

毎度ご愛読、誠にありがとうございます。


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