表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生グルマン! 異世界食材を食い尽くせ  作者: 茅野平兵朗
第2章 今度は醤油ラーメンだ! の巻
159/232

第43話 そこには冒涜的な絵柄で名状しがたきものが描かれていた

お待たせいたしました

「ハジメ、これを見てくれ!」


 今や威厳もへったくれもなくなったヨッパライのおっさんが、ものすごくくたびれた帳面を僕に指し示す。


「ウブっ!」


 それをひと目見て僕は吐き気に襲われた。

 あまりにも冒涜的な絵柄で名状しがたきものが、そこに描かれていたからだった。


「こ、これは……」

「うむ、我もこれを城の宝物庫で初めてみたときは君と同じ思いをしたものだ」

「陛下、それは、王家の者以外に見せたらだめなやつじゃないのか?」


 国王陛下に対する尊崇の念やらなにやらをすっかりととっぱらい、自らの身分に纏っているものを脱ぎ捨てた酔っぱらいのおっさんが、嗜める。


「マーニ、いいんだ、ハジメには見せてもいいんだ。なあ、ハジメ、君は『招かれ人』なのだろう?」

「ご存知……だったのですか」

「うむ、我が王家千年の歴史の中、君のラーメンほど王家の口伝に忠実なものを再現したものはない。千年もの間現れなかったラーメンの再現者を、我が始祖王と同じ『招かれ人』と判じないほうが不自然ではないか?」


 ってことは、国王陛下は侯爵閣下から僕がラーメンを作ったという話を聞いたときから、僕が女神様にこの世界にスカウトされた招かれ人だとアタリをつけていたってことか。


「それに、な、我らが箸でらーめんを食べようとしたときに、君は驚いたような顔をしたのだ。マーニもそうだったが、大概の者は初めて箸を目にしたときにはオークがフィドルを弾くのを見たかのような顔をするものだ。あのときの君の顔からは『なんでこいつらがこれを知ってるんだ?』という、驚きの表情が看て取れたのだ。それで確信したのだよ、君が招かれ人だと」

「たしかに! そんな棒切れで何するんだ。気でも違ったかと思ったものだ」


 うへえ、さすがは国王って名乗ってるだけあるぞ。

 すげえ観察眼だ。

 これくらいできないと国の舵取りなんてできないんだろうな。

 ってか、僕が招かれ人って権力者にバレちまったぞ。

 しかも愚王疑惑がある人に。


「恐れ入ります……。たしかに僕はある女神様に招かれてこの世界にやって来ました」


 僕はポーカーフェイスを装い恐縮してみせる。もちろんどの女神様に招かれたかは秘匿事項だ。


「おお、やはりか。やはり君もニッポンジンなのだな。我が王家の始祖もニッポンという国から、時の女神グリシンに招かれてやって来たという。だが、君のその姿は隣国の公子、ヴィステフェルトの銀鷲ことアイン殿にそっくりなのだが?」


 ああ、やっぱり僕の今の姿はとんだ有名人のようだ。しかも、金貨三千枚の賞金首のね。


「はい、僕のこの姿は本来の僕の姿ではありません。日本で暮らしていた僕は心の臓の病で死にまして、丁度そのときにこちらの世界で亡くなったアインさんの体に魂を移されて転生して来たのです」

「そうであったか、では銀鷲殿は……」

「はい、ヴェルモンから東方に三ヶ月の荒野で、交易商人のお嬢様をケニヒガブラの牙から救い、亡くなられました」


 僕は、こっちに転生してきたあらましを国王陛下に話した。


「そうか、銀鷲殿は残念であった。今一度手合わせしてもらいたかったな」


 そう言って、陛下はしばし黙祷をする。


「……うむ、さて、ハジメ、君がニッポンジンならば、この帳面に記してあることも読み解けるだろうか?」


 目を開いた国王陛下が、ふたたび冒涜的な絵柄で名状しがたきものが描いてある帳面を見せてくる。

 どこのネクロノミコンだよこれ。見てるだけで胃がせり上がってくるんだけど。


(ん? これは……!)


 吐き気を我慢して見ているうちに、そこに描かれている名状しがたきものが、何やら丼状のものに盛られた何かであるように見えてきた。と、同時に、周りに書いてあるミミズの器械体操のようなものがひどいクセ字の日本語であることが分かってきた。


「おお、ハジメ、解るか? 解るのだな?」


 国王陛下はすでにワクテカに瞳を煌めかせ僕を見つめている。


「ええ、これは……みそ……味噌ラーメンと書かれていますね」

「そ、そうなのか? 我が王家にはこの部分をラーメンと読むことしか伝えられてはおらぬのだ。それ以外の文字を読み解くことは、始祖王を招いた神により禁忌とされてきたのだ」

「え? では、僕がこれを読むのは……」

「ああ、よいのだ、女神グリシンはこうも告げたとされている『始祖王の知識を正しく使える者のみがこの文字を読み解けるだろう』と、な。だから、これを読むことができるハジメにはその資格があるということなのだ」


 そう言って、陛下はページを繰り、また別の冒涜的な絵柄で名状しがたきものが描かれたページを僕に指し示した。


「これだ、これが、君が今日我らにふるまってくれたとんこつらーめんだ! そうであろう?」


 再び吐き気を我慢してそのページを見ると、冒涜的な絵柄で描かれている丼状のものに盛られた食べ物のようなものの上に『とんこつラーメン』とミミズが腸捻転を起こしたような日本語の文字で書かれていた。

 さらにその、冒涜的な絵柄のとんこつラーメン図の脇には尺取り虫の器械体操のような字で、とんこつラーメンの説明が書いてあった。


「ええ、そうです。ここにはとんこつラーメンのあらましが書かれています」

「やはりか! やはりそうだったか! この帳面を読み解くことは禁忌とされてきたのだが、実は、ラーメンを始めとする始祖王の故郷の食べ物に関しては口伝として伝わっておったのだ。そして歴代の食道楽の王たちがこの絵がとんこつらーめん、この絵がしょうゆらーめん、この絵がかれーらいす、この絵がてんぷらという食べ物を示しているということを突き止め、口伝とこの帳面の照らし合わせ、伝承してきたのだ」


 なるほどそういうことか。

 読み解くことを禁忌とされた帳面と、口伝に遺った始祖王の国の食べ物を照合させていたのか。

 確かに読み解いたことにはならない。


「この帳面に書かれている文字を我は読むことが叶わぬ。だが、これに記されている始祖王の故郷の食べ物については語ることができるのだ」


 僕は改めて吐き気をこらえつつ、冒涜的な絵柄で名状しがたきものが描かれている帳面を見る。


「ん? あ…ぁは、ははっ……」


 僕は思わず笑ってしまった。

 冒涜的な絵柄でとんこつラーメンが描かれているページの端っこに、日本語でこう書かれたいたんだ。


『あー、ラーメン食いてえっ!!!!!』


 って、ね。


18/10/02

第43話 そこには冒涜的な絵柄で名状しがたきものが描かれていた

の、公開を開始しました。

毎度ご愛読ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ