第34話 それはトロけたスライムもしくは隷属のお菓子と例えられた
お待たせいたしました。
「ふほほほほぉう! ウマいのじゃあ! 甘くて程よくひんやりとしていて……はああ……それでいて喉を滑るように落ちてゆく……まるでトロけたスライムの如くなのじゃ!」
「ええ! ほんとうに! ハジメさん、また、とんでもないものを作ってしまいましたね。わたし、このように美味しいお菓子、アイスクリン以来ですよ! 美味しいモノ記録を何度塗り替えてくれてしまうのですか!」
「ははは! やあやあ、これはまた美味いなあ! さっきのワイヴァーンの肋肉のやわらか煮もとんでもない旨さだったが、これはまた、次元が違う旨さだな! いやぁまさに異世界的な旨さだね。同じ日にとんでもなく旨いものを三つも味わうことがあるなど天地開闢以来なかったなぁ!」
自称始原の三女神の使徒様方が、口にした黄色い半固形の冷菓に目を白黒させながら、その美味しさをレポする。
そのコメント力なら十分にテレビとかでグルメレポーターやってけますよ。
お三方の美貌ならインスタ映えもするでしょう。
「ああん、おいしいよハジメ! これならアイスクリンみたいに急いで食べても頭がキーンってしないね!」
「はあぁ……おいしい……まさか、コカトリスの卵がこのように美味しい物になってしまうとは思いませんでした」
「さすが、流石は台下なのでございます。非才の想像のはるか上を征く美味しさなのでございます」
コカトリスの卵には、オムレツ以外にもここで活躍してもらったのだった。
コカトリスの卵は割り溶かれて砂糖牛乳を食わえ撹拌され、砂糖を煮とかして少し焦げさせた所謂カラメルソースを敷いたカップに移されて水を張った天板に置いてオーブンで焼れた。
そして、更に焼き上がったところで食感を良くするために冷やされた。
そうして出来上がったコカトリスの卵の成れの果ては、みんな(元の世界の話)が大好きなプリンだった。
「おーいしーぃ! ごしゅじんさまが、また、おいしいおかしを作ったよぅ!」
「はあ、おいしいね、おいしいねぇ」
リゼとダリルが顔をクシャクシャにしてプリンを頬張る。
「おいしい……。これ、プディングみたいだけど、ブリトン人作るのとはぜんぜん違う! こんなに甘くてつめたくて、のどごしがツルンとしてる美味しいもの彼奴等が作ってるの見たことないわ!」
「これは、ブリトン人のプディングとは似て非なるものよリンデ! はあ……おいしい……」
「うむ、うむッ! これは美味じゃ! 形態こそ、昔、野営地で食したプディングに似ておるが、あれとは全く違うものじゃ!」
「ほわわわぁ……まさに、まさにこれはトロけたスライムと例えられたがせいかいであろうのぅ。よもや、これが元はコカトリスの卵とはのう」
「なにこれ、こんなの反則じゃない。こんなの食べさせられたら、また食べたくて逆らえなくなっちゃうわ! 人を隷属させるためのお菓子じゃないのよこれ!」
「たしかに……これ一回食べたら、また食べたくて何でもいうこと聞いちゃいそう」
「そうね、これは危ないわ。言いなりになっちゃう」
ニーナ姫様方はこのプリンを中毒性のある危険物と認識したようだ。
たしかに、元いた世界の高級洋菓子屋さんで売ってるようなお高いプリンを1ウマウマだと規定すればこのコカトリスプリンはゆうに10ウマウマを超える旨さだ。
ジゼルさんがいうように、再び食べたくてある程度のことならいうことを聞いてしまうかもしれない。
まあ、いずれにしろ、プリンも大好評なのは良かった。
「は、ハジメ殿!」
「はい、司厨長さん、わかってます。これの作り方も、あとでしっかりと教えさせていただきますから」
「た、助かる。貴殿には本当に感謝のしようがない」
「いやあ、お気遣いなく」
そう言って僕は10ウマウマプリンを再び口に運ぶ。
舌で上顎に押し付けるとそれはプチュっと潰れ、ホロホロと崩れ溶けてゆく。
ねっとりと濃厚な卵と牛乳の味と砂糖の甘みがハーモニーを奏で、カラメルのかすかな苦味がアクセントを添える。
これは確かに反則的なウマさだ。10ウマウマだ!
飲み込んでしまうのに勇気が必要なほどに悩ましいウマさだ。
いつまでも舌の上を転がしていたい。
だが、その誘惑になんとか抗い、喉を動かす。
プルリとしたほんの僅かな抵抗と共にチュルンと滑り落ちてゆく様は、自称使徒ヘミリュ様が例えたように正にトロけたスライムのようだ。
いや、スライムなんて食べたこと無いけれど。
「「「「「「はあああああ……」」」」」」
官能的ですらある10ウマウマのコカトリスプリンを食べたみんながうっとりとため息をついた。
「皆さん、しっかりとハジメさんのお料理を堪能するんですよ!」
妖精王の戦舞の酒精に顔を朱に染めたエフィさんが東の森の乙女たちに宣った。
「神職学校では、祝祭日以外は基本的に粗食ですからね!」
と、食事を楽しんでいる乙女たちにとって破壊力抜群のツァーリボムを投げ込んだ。
「「「「ええーーーっ!」」」」
「「そんなぁ!」」
「そっか、ごしゅじんさまのごはんもう食べられないんだ……」
「こんな美味しいもの食べられるのも今日限りなんスね」
「わたし、食べるの! 串焼きもやわらか煮もからあげも! 食べて食べてわすれられないくらいたべるの!」
「「「「「あたしも、あたしも!」」」」」
ニーナ姫様やジゼルさんたち以外の東の森の乙女たちが再びBBQに突撃してゆく。
少女たちの鬨の声とそれを応援する大人たちの歓声に包まれて、王都オーフェン侯爵邸の夜は更けていったのだった。
18/09/13
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