第28話 今回のBBQに出した料理も大好評だ
お待たせいたしました
「「「「「いただきまーす!」」」」」
明るく元気で愛らしい歓声が、日が傾き始めた王都辺境伯邸の庭に響き渡った。
思い思いの料理を手にした少女たちが、満面の笑顔でそれを頬張っている。
「んはふうっ! おいひいよぅ! おいひいよぅ!」
「んぐ、んぐぅ……はぁっ! やっぱ、ごしゅじんさまのおりょうりがいちばんだなぁ」
「んはあぁっ! これなの! これなの!」
「ああぁっ! しやわせっス!」
「はううぅ、プチミートパイだいすきぃ」
「おいしいねぇ! おいしいねぇっ!」
「この、小さい串焼きの方もおいしいようコリコリしてていいよぉ」
「あたしは狐の夏毛色したおにくがだいすき!」
今回の料理も東の森の乙女達には好評のようだ。
特にワイヴァーンの焼き鳥とコカトリスの唐揚げは、初めて食べるということもあって一際好評を博しているようだ。
もっとも、未だ竈にかけられている大鍋の中で今か今かと出番を待っている料理もまた、好評を博すに違いないけどね。
本当なら、BBQを始める時点でテーブルの上にあるはずだったんだけれど、なし崩し的に宴が始まってしまったから、まだ煮込みが足りてないってわけだ。
「んんんっく、んんんっ! こ、この『ろおすとびいふさんど』、以前食したものよりも数倍美味である!」
「あら、ほんとだわ! ものすごくおいしい!」
「はい、おいしいです。あのときの馬車の中で食べたのより!」
「あああ、またこれを食べられるなんて!」
東の森の乙女団団長閣下一行のうち、人間の二人はメイドだったはずだが、平服に着替えて、乙女達の中に交じっている。
「今日は、あの子たちには暇を出しました。ひゃはははっ! これが、ニーナがお気に入りのろおすとびいふさんどなのねこれ、マジウマイわ」
そう言って、ローストビーフサンドをゲルリンデ様が頬張る。
「あの子たちだけ、今日もメイドをしていたのでは可愛そうですもの」
マティルデ様がワイヴァーンのレバ串を咥えてウィンクする。
ふむ、でもそれじゃ、今メイドしている子たちが後でニーナ様のおつきの子たちに辛く当たるかもしれないんじゃないか。
食い物の恨みは根深いからなぁ。
僕はエールのゴブレットを片手にコカトリスの唐揚げをぱくついている侯爵様に向き直り、話しかける。
本当なら平民の僕がこんなことしたら無礼討ちものだけれど、侯爵様が僕に直答を許してくださっているのでできることだ。
「マーニ様、ひとつ提案があるのですが」
「なんだろうハジメ殿」
「ええ、いっそのこと使用人の方々全員にこの一時、お暇を出されてはいかがでしょうか」
「な、なんと! それは面白いな!」
オーフェン侯爵閣下は早速乗り気だ。
「い、いけません旦那様! それでは給仕するものがいなくなります」
すかさず反対の声を上げたのは、僕を部屋まで案内してくれた、年かさのメイドさんだった。
やっぱりこの人がメイド頭さんなんだな。
対して、公爵閣下の傍に控えている執事……この方の場合、家令さん
といったほうがいいのか……は、瞑目して空を仰いでいる。
侯爵閣下の性格を熟知しているようだ。
きっと、こうなったら止まらないんだろうな。
僕は畳み掛けるようにオーフェン侯爵様に今日のガーデンパーティーのシステムを説明する。
「給仕はですね、セルフサービスです。料理もあらかたテーブルに出してありますから、食べたい人が食べたいものを自分で選んで食器に取るのです」
「おおおお! それは、まるで戦場での食事のようじゃ! ワシの若い頃も幕舎では士卒の別なくそうしておったものじゃ!」
「まあまあ、ルーやリューダ、ヴィオレッタのお祖母さんのクリザンテとと迷宮に潜ってた頃を思い出すわ」
「あはははは、そうね、冒険者の頃を思い出すわね! お父様! 皆に一時暇をお出しになるといいわ!」
「で、あるの! よし、これより、明日の朝までの間、皆に暇を出す! 自儘に過ごすが良い! 無礼講じゃ!」
「「「「「「「「「「ぅわあああああああああっ!」」」」」」」」」」
王都辺境伯邸に時ならぬ鬨の声が響き渡ったのだった。
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ちなみにだけれど、今日のメニューは以下の通りだ。
【飲み物】
アルコール
エール
ミード(蜂蜜酒)
赤ワイン
白ワイン
オルビエート村特産の白ブドウの生命の水(蒸留酒)
ソフトドリンク
レモネード
オレンジ果汁
りんご果汁
冷やしたお茶
【お料理】
刻んだ塩漬けキャベツ
マッシュポテト
人参のグラッセ
道中の森で採取したキノコと山菜マリネ
ニンニクと唐辛子のスパゲティ
コカトリスのモモ唐揚げ
グランアングーラロースのローストのサンド
まだできてないとっておきがひとつ
以下、BBQコンロで提供しているのが
ワイヴァーンの焼き鳥シオタレ(モモ正肉、レバー、ハツ、モツ)
ワイヴァーンロース肉のバーベキュー
ワイヴァーンのフィレステーキ
【デザート】
アイスクリン
もう一つのデザートはまだ内緒
初めてやったものにもかかわらず、たった数時間でこれだけの料理を作ってのけた、王都オーフェン侯爵邸の厨房スタッフに最敬礼だ。
「おお! おお! なんとオルビエート村の生命の水ではないか。ワシはこれが好物でのぅ。いや、ありがたい」
あ、領主閣下がぶどうの蒸留酒の樽を抱えた。
「あ、てめ、マーニ!」
「マーニ、それの独り占めは許されないと思うのだけれど!」
ルーデルとリュドミラが侯爵閣下に掴みかかろうとするのを僕は襟首を掴んで引き止める。
「まあ、待てって、ルー、リューダ。君らには本当のとっておきがあるから。今日からがちょうど飲みごろだ」
僕はマジックバッグから芳ばしい香りを漂わせる瓶を取り出したのだった。
18/09/01
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