第27話 宴会はなし崩し的に始まった
お待たせいたしました
じゅわわああああああ!
僕の手元ではコカトリスの肉が小気味のいい音を立てて油の中に浮かんでいる。
「ふむふむ、なるほど! そこで油から上げるわけですな!」
「そうです、この色ですね」
「みんな、よく覚えとけ。この狐の夏毛色だ!」
「「「「「「ういっす!」」」」」」
オーフェン侯爵家の厨房スタッフたちが僕の作業を見取りながら必死にメモを取っている。
(たしか、新作料理を若奥様から迫られてるって言ってたっけ)
侯爵家の若奥様はものすごい食いしんぼらしい。
そうして、目の前のバットにはこんもりとコカトリスの唐揚げ(推定400個)の小山が出来上がったのだった。
「ハジメさんこちらもジャンジャン焼き上がりますからね!」
オーフェン侯爵御一家とのご歓談を終えられて、BBQ奉行に復帰なされたヴィオレッタお嬢様は次々にワイヴァーンのロース肉をメインにした串焼きを仕上げている。
串に刺さっているのは手元からピーマン肉たまねぎ肉茹でとうもろこしの輪切り肉肉の順だ。
「ハジメさん、プチミートパイ全部上がりましたのでございます!」
「お疲れ様ですエフィさん! では、テーブルセッティング願います!」
「了! でございます。みなさん! ハジメさんからテーブルと食器を受け取りましょう!」
「「「「「「「「「「「はぁい!」」」」」」」」」」
僕らの周りに他人がたくさん存在するときには、さすがのエフィさんも僕のことは台下などという分不相応な呼び方は控えてくれる。いつもこれならいいんだけど
竈の円陣から出て、僕は次々に長テーブルを出して東の森の乙女達に渡してゆく。
「ん? あれ?」
「どうしましたのでございますか、ハジメさん」
「今、テーブル受け取ってった女の子、あんな子いましたっけ?」
「あらま、ウチの子にメイド服を着た子なんていませんでしたし、エルフの子なんてウッラとファンにだけなのでございますしね」
「ええ、でも、見たことあるんですよね」
「はあ、ハジメさんもでございますか。実は非才もあの子たち見たことあるのでございますよ」
その4人の子たちは人間の女の子が3人とひとりのエルフの女の子だったが、他の東の森の乙女達に違和感なく交じってテーブルセッティングをしている。
ダリルたち東の森の乙女達も異物的に彼女らを扱わず、ずっと一緒に過ごしてきた仲間のように接している。
「どこから紛れ込んだんだろう……でも……あれれ?」
「ええ、他の子達がすんなり受け入れているのでございますよ。旧知の仲のようなのでございます」
僕とエフィさんが、呆然と彼女たちどこからか紛れ込んだ4人の女の子たちを眺めていると、突如として豪雷のような大音声があたりに響いた。
「「ニーナ!!」」
その音源は東方辺境伯侯爵閣下とそのご令嬢だった。
「「ニーナ、ニーナ、ニーナ、ニーナ、ニーナ!」」
音源がこけつまろびつ紛れ込んだ女の子たちに駆け寄る。
「あ!」
「ああ!」
すっかり忘れていた。
東の森の乙女団の団長閣下のことを。
「ニーナ! 本当にニーナなのね」
侯爵家の若奥様ゲルリンデ様がアメフトみたいなタックルをニーナ姫様にかまし、抱き上げる。
「あははははは、ニーナ、ニーナ! あたしのニーナ!」
「お母様、痛いです。それに、現在、妾は東の森の乙女団の団長として団員たちと共にあります」
「ええええええ! でもぉ!」
拗ねた子供のように若奥様が口を尖らせる。
「だいじょうぶだよニーナ様! もうほとんどおわりだから!」
「そうだよ、せっかくお母さんと再会したんだから、あまえるのがいちばん」
「「「「「「「ニーナ様おかえりなさい」」」」」」」
口々に東の森の乙女たちがニーナ姫様の来訪を喜んでいる。
「みんなー! 焼き上がったわよ! 取りに来て!」
グッドタイミング! BBQ奉行ヴィオレッタお嬢様が串焼きの焼き上がりを宣言した。
「よし、じゃあ、始めるかウィルマ、カップとトレーを配って」
「了解なのでございます!」
マジックバッグから食器とエールにワイン、冷えたお茶と果汁の壺を取り出し、テーブルの上に積み上げる。
王都までの旅路で何度もやって来たルーティンだ。
「さあ、みんな、食べて、飲んで歌おう! 踊ろう!」
「「「「「「………………っ」」」」」」」
あれ、反応がいまいちだな。
王都までの道中、いつもこれでパーリーが始まったんだけど……。
「あの……う、ごしゅじんさまぁ……」
「あたしたち、たべていいの?」
「だって、朝ごりょうしゅさまが言ってたもの」
「ごしゅじんさまが、ごりょうしゅさまにおりょうりをお出しするんだって」
「だから、あたしたち。ごりょうしゅさまにさしあげたのこりがいただけるかもっておもってたから……」
え? ああ! 僕は彼女たちに盛大に勘違いをさせていたのだった。
僕は身をかがめてジャンピング土下座の準備をする。
ずずうん!
と、僕の目の前に集合している少女たちの背後で、大質量の物体が落下したような音と地響きがした。
「「「「「「「ぅえええええっ!」」」」」」」
この場で一番偉い人が僕より先にジャンピング土下座を決めていた。
「すまぬ、東の森の乙女達よ! 今宵ハジメ殿が催す宴は、貴君らの送別の宴じゃ、主賓は貴君らじゃ! ワシ等のことは気兼ねなく存分にハジメ殿の料理を堪能するとよい! わしらこそ、貴君らのご相伴に預からせていただく身じゃ。どうか、楽しんでくれい!」
たはははは、かなわないな。
そう思っている僕を他所に、少女たちの手にはいつの間にか果汁が満たされたカップが行き渡っていた。
「みな、飲み物は行き渡ったか?」
ニーナ様の稚いながらも凛とした声がエアドーム結界の中に響いた。
あのメイド服の子たちがいつの間にか飲み物を配っていたようだ。
僕ら大人たちの手にもいつの間にかエールが満たされたゴブレットが持たされている。
見回すと、いつの間にかオーフェン侯爵家のメイドさんたちが周りに待機していた。
(まるで忍者だな)
このお屋敷の使用人さんたちは実に有能だ。
「妾は、爺様の呼び出しに応じて王都に参った。本来ならば、今日すでに皆は神職学校に入学して、寄宿舎に入っていたはずである。で、あるが、なぜだか今宵、妾は皆と再会を果たし、神職学校入学を寿ぐことが叶った。これは望外の喜びである」
そして、ニーナ様は僕の方を向いて会釈をして言葉を続ける。
「冒険者ハジメ殿、そして、ご一党の皆々様。推参ではあるが、どうか、妾に皆の旅立ちを寿ぐことを許してほしい」
注目が僕に集まる。僕は誰にでもわかるように大きく頷いた。
「もちろんですよ姫様!」
「かたじけないハジメ殿」」
ニーナ姫がゴブレットを掲げ、声高らかに宣言した。
「東の森の乙女たちに幸あれ! 乾杯!」
「「「「「「「「「「かんぱあぃ!!」」」」」」」」」」
そうして、食べ物の準備が不完全のうちに、BBQパーティはなし崩し的に始まってしまったのだった。
18/08/30
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