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転生グルマン! 異世界食材を食い尽くせ  作者: 茅野平兵朗
第2章 今度は醤油ラーメンだ! の巻
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第26話 ワイヴァーンの焼き鳥(しお)を焼いてみよう

お待たせいたしました。

 オーフェン侯爵家次期侯爵夫人のどこか獣じみた微笑みを柔らかく受け流し、ヴィオレッタお嬢様がにっこりと微笑んだ。


「はい、リンデ様。では、私のこともヴィオレと。ちょうどいい具合に冷えたエールがございます。ハジメさんゴブレットをお願いできますか?」

「かしこまりました、ヴィオレッタお嬢様」


 僕はわざと、僕がヴィオレッタお嬢様の使用人でもあるように返事をしてゴブレットを人数分取り出す。

 僕みたいな元奴隷よりも、ヴェルモンでは名が通った商会の跡取り娘さんのほうを前に出したほうがうまくいくことのほうが多いからね?

 ヴィオレッタお嬢様は僕をひと睨みして、ゴブレットを受け取り、ご自分のマジックバッグからはエールの壺を取り出した。


「「あ!」」


 ルーデルとリュドミラが短く叫んでヴィオレッタお嬢様に飛びかかろうと姿勢を低くする。

 が、僕はそれを人差し指を唇に当てて押し止める。


「しぃッ! 大丈夫。大丈夫だから。君らにはもっといいのあげるから」

「本当かよ」

「嘘だったらどんな目に合うかわからないのだけれど?」

「大丈夫だから。ここの作業やっちまおう」


 ルーデルとリュドミラを押し留め、僕は柱の周りに戻した土を踏み固める。

 そうして、作業をしながらも僕の耳はお嬢様と、侯爵様たちの会話を拾っていた。


「ふん、やっぱりスリジエの娘ねぇ。あたしの威嚇を受け流しやがったわ。スリジエもあたしがいくら凄んだって、スライムに斬撃だったもの」

「お戯れをリンデ様」

「うふふふ、スリジエの母、クリザンテもそうだったわよ。ヴィオレ……私もそう呼んでいいわよね。もちろん私のことはティルデと呼んでくださいな。ほんと、ザンテとリジエにそっくりだわぁ」


 なんか、僕やお嬢様方が知らないところでお嬢様方のお母上様とお祖母様が侯爵家のご婦人方と縁を結んでおられたようだ。


「ティルデ様、リンデ様わたしたちが知らない母のこと祖母のこと教えてくださいますか?」

「ええ!」

「もちろん!」

「なら、ワシも若い頃の話をひとつふたつしんぜよう。ヨハンと知り合ったときの話が良いかのぅ」

「まあ、それはぜひ!」

「姉様ばっかずるいわ。わたしも聞きたい!」


 竈の点検をしていたサラお嬢様がヴィオレッタお嬢様の所に駆け出す。

 僕らの会場設営作業も、後は動作のチェックとか点検だけだ。

 ガーランドの照明器具は、サラお嬢様の光魔法を込めてあるのでサラお嬢様に動作の確認をしていただけばいい。

 また、会場全体を覆う空調結界の魔法もサラお嬢様の魔法なので動作チェックはサラお嬢様の係だ。

 侯爵様にご両親やお祖母様のお話を聞くという最重要イベントの前にはそんな些細な点検作業は後回しでいいだろう。


「では、なにか軽いものを出しましょう」


 そう言って僕は竈に火を入れる。

 焚付に火をつけるようなマッチ一本くらいの威力の魔法ぐらいなら、この旅路の間にサラお嬢様に教わって、なんとか使えるようになっていた僕なのだった。


「よし、じゃあ、ここに出そうか」


 僕はマジックバッグに収納してある木と金属でできた野外炊事セットのアイランドカウンターをBBQコンロの円陣の真ん中に、ガーランドの吊り柱を囲むように三基据える。

 そして、さっき厨房で串打ちした焼き鳥をカウンターの上に取り出した。

 まあ、焼き鳥はといいつつも、コカトリスの肉じゃない。コカトリスの肉は別の役目を担っている。

 この肉は昨夜その肝をレバニラ炒めで食べたワイヴァーンのものだった。

 じつは、僕もワイヴァーンの焼きしおを早く味見してみたくてしょうがなかったのだ。

 用意したのはモモ正肉、ハツ、レバー、モツだ。

 皮はとても固くて、歯がミスリルでもなければ噛みちぎれないみたいなので今回は無し。

 あとで、こっそり僕が塩タレ両方で食べる予定だ。

 ちなみにワイヴァーンの焼きタレのタレは現在厨房の壺の中にて冷却熟成中だ。


「あたしたち、ウィルマ先生に何かもらってくるっス」

「プチミートパイが包み終わったくらいだと思うの。領主様に味見してもらうって言ったら分けてくれるはずなの」

「ナイスだウッラ、ファンニ! たのんだよ。転ばないように気をつけてね」

「「はぁい!」」


 ウッラとファンニが餃子を貰ってこようと厨房に向け駆け出す。


「あ、いいのよ! ほらぁ、お父様! あたしが言ったとおりになったじゃない」

「もう、こうなったら止まらないのよねぇ」


 公爵夫人と若奥様が呆れた顔で公爵閣下を睨めつける。


「あ、ああ、わし、わし。そんなつもりでは……。ただ、使徒殿たちがゴブリンパレード討伐から帰ったその日に、ハジメ殿が催した宴の再現が今宵為されると申されておったから、気になって、気になって……ニーナもその宴に東の森の乙女として加わりたかったって言ってたし……」

「みな様どうぞこちらに」


 消え入りそうに背中を丸めた公爵閣下と夫人、そして、若奥様がヴィオレッタお嬢様の案内でテーブルに付く。


「えいッ!」


 サラお嬢様が指をパチンと弾く。

 すると、にわかに肌に感じる空気が熱を帯び始め、やがて、ポカポカとした初夏の陽気を感じさせるほどの暖かさになっていった。


「サラお嬢様見事なお仕事です」

「えへへ! こんばんいっぱいくらいなら、このままの暖かさがもつはずだよ」


 休憩用テーブルにむかって駆けながら、サラお嬢様がその細腕に力こぶを作るポーズを取った。

 と、辺りに、ヴィオレッタお嬢様が注ぐエールの泡が弾ける音が僕の鼓膜をくすぐる。

 クソ、僕もなんか飲みたくなって来たぞ。


「「ああっ! ヴィオレ……」」


 ルーデルとリュドミラが抗議の色を滲ませて叫んだ。

 ガーランドの張り綱の点検を終えた東の森の乙女たちが、次の作業の指示を受けようと僕の所に集合してくる。


「ヴィオレ、それはダメだと思うのだけれど!」


 ルーデルとリュドミラの二人がヴィオレッタお嬢様に抗議の視線を向け、何かを期待するように僕を見つめる。

 お嬢様が侯爵様方にお出ししようと出した冷えたエールが入った壺は、僕が、今日の作業を割り振る際に、会場の設営作業が済んだらルーデルとリュドミラに飲ませるようにと、ヴィオレッタお嬢様に渡していたものだったのだから、ルーデルとリュドミラは正に鳶に油揚げ状態だ。


「まあまあ、ルー、リューダ君らにはこっちがあるから」


 そう言って僕はとっておきから二番目の『妖精のポルカ』をマジックバッグから取り出す。

 日が傾き、気温が下がってきているはずなのが自然の摂理だが、それに反して公爵邸の庭園は、ポカポカと暖かくなっている。

 僕はルーデルとリュドミラに囁く。


「これ、温めるとまた格別なんだ。空調結界から出て寒いところで飲むとまたこれがまた……くくくッ。そして、今から焼く串焼きにも……」

「へえ……そりゃいい」

「いいことを聞いたのだわ」


 二人が口角を吊り上げ、犬歯を見せる。


「まあまあ、それは、それは良い事を聞きました。楽しみですね」

「ほうほう、ハジメ君、温めるとはどんなふうにだい? そして、どんなふうに格別なんだい?」


 いつの間にやら僕らの背後には自称生命の女神の使徒、イェフ・ゼルフォ・ヴィステ・ヤー様と、自称大地の女神の使徒エーティル・レアシオ・オグ・メ様がニコニコとものすごくいい笑顔で佇んでいた。


「ハジメ、アイツらに飲まれる前にあたいたちにだかんな」

「ハジメ、わかっていると思うのだけれど、あの子たちよりわたしたち優先なのだわ」


 ルーデルとリュドミラが犬歯を見せ、まばたきをやめて僕を見つめる。


「大丈夫。ルー、リューダ。今日は更にとっておきがある。今日が飲み頃だ。妖精のポルカを半分飲まれても大丈夫だ」


 僕はマジックバッグを指差す。


「ごしゅじんさま、炭がいい具合に熾きましたぁ」


 と、僕が熾したBBQコンロの炭火を見張っていた狼人族の女の子が知らせてくれる。

 まずは視察においでになった侯爵閣下に差し上げる焼き鳥を焼こう。

 次いで、ここにいる東の森の乙女たちが食べるものを焼く。

 その予定をみんなに告げる。

 皆キラキラとした瞳を向けてくる。

 ほんとに君たちは食欲魔神だねぇ。


「ようし、ワイヴァーンの焼き鳥(塩)いってみよう!」

「「「「「「「わあぁい」」」」」」」


 時ならぬ暖かさに包まれた王都侯爵邸の庭園に、明るい少女たちの歓声が響き渡った。


18/08/28

第26話 ワイヴァーンの焼きしおを焼いてみよう の公開を開始いたしました。

毎度ご愛読誠に有難うございます。

皆様のおかげさまで、制作のモチベーションが保てております。

今後とも何卒よろしくお願いいたします。

あ、あと、整合性をもたせるために過去分をこっそりと修正していたりします。

宜しくご留意くださいませ

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