第17話 王都到着
おまたせいたしました!
夕日が地平線に沈んで宵闇が王都を包み始めた頃になって、僕たちはようやく王都にたどり着いた。
この世界におけるたいがいの都市がそうであるように、グリューヴルム王国の王都グラウルソもまた、堅牢で長大な三重の城壁と濠で囲まれた城郭都市だった。
王都が視界に入ってきたとき、夕暮れの地平線いっぱいに浮かぶ超巨大なお城のような威容のシルエットに腰を抜かしそうなくらいに驚いてしまった。
僕らの街ヴェルモンも大きな城塞都市だけれど、王都にくらべると霞んでしまう。
「うむ、召状に偽りはなし。近衛の巡回警邏隊の先触れ通りの成員であるな。一同の入市を認める。とおってよし!」
ウチから囚人護送用の馬車を貸し出したアルベルトさんの部下さんたちが先触れしてくれていたようで、入市審査は実に簡単に終えることができた。
後から聞いた話だけれど、僕らみたいに大勢の女の子を連れた一行は一般に奴隷商人と看做されることが多いんだそうだ。
だから、僕みたいに冒険者なのに大勢の女の子を連れているのは違法奴隷を連れてきたと思われて怪しまれ、(女の子一人ひとりにじっくりと時間をかけて聞き取りをするとかで、審査にかなりの時間がかかってしまうんだそうだ。
商人も似たようなもので、ご禁制の物品が紛れていないか調べられるので入市に時間がかかるらしい。
「なるほどね、だから、クロードさんたちはあんなに早く出発したんだ……」
入市を許可され入市税銀貨八枚に銅貨二枚(大人五人分と子供一九人分という計算だ)を払う。
深くて広い堀にかけられた巨大な跳ね橋を渡り、頑丈そうな扉で守られた城門をくぐると、そこは夜の帳が下りきっているにもかかわらず、明るい光にあふれる大都会だった。
「「「「「ふええええええええ!」」」」」
「はあああぁ! もう夜だというのにどうしてこんなに沢山の人が出歩いているのですか?」
「すごい明るいね! あ、あれかぁ。柱のてっぺんにランプがついてる! アレがたくさん立ってるから明るいんだね」
「なになに! 人がいっぱいだよ!」
「きょうはおまつりなの!」
ルーデルとリュドミラにエフィさん以外の面々が顔面を口にしてあっけにとられている。
僕は前世日本の記憶がある分、いくらかは驚きを隠し果せることができた。
いやぁ、僕って、前世は結構インドア(引きこもり)な人間だったからさ、街灯で明るく照らされている中、大勢の人が出歩いているこういったいかにも都会な風景には慣れていないんですよ。
兎にも角にも、僕らは王都グラウルソに到着したのだった。
「冒険者ハジメ様、ルーデル様、グリューヴルム王国近衛騎士アルベルト様、そして皆々様、この度は我らの危難をお救いいただき誠にありがとうございます。この御恩、たとい、太陽が西から昇ろうとも、真砂が尽きようとも子々孫々忘るることありませぬ」
都会の迫力に腰を抜かしかけていた僕らに、馬車を降りてきたアイラ皇女たちが頭を垂れる。
皇女のは背後には王城からのお迎えと思しき騎馬の一団が控えていた。
その中の立派な鎧を着た人とアルベルトさんが親しげに話をしている。
どうやら本物のお迎えのようだ。
「いえ、どうか、お気になさらずに」
そう答えた僕に、寂しそうな微笑みを返して彼女たちは再び車上の人となる。踵を返したお迎えの騎馬隊と共に王城へと向かった。
アイラ皇女たちが体験したことを考えると、僕には彼女たちに掛ける言葉がなかった。
不用意に励ますこともできなかった。励ましの言葉は場合によっては凶器だからね。
だから僕には、そう答えることしかできなかった。
きっと僕らのパーティーの誰もがそんな思いだったのだろう。
誰一人として皇女に声を掛ける者はいなかった。
僕たちは皇女一行が雑踏の中に消えていくのを無言で見送ったのだった。
「ふう、引き継ぎも済んだし、私は本部に戻るとしよう」
「今更ですが、アルベルトさん、ありがとうございました。おかげさまでひどいことにならずに済みました」
アルベルトさんが駆けつけてくれたおかげで、ルーデルとカイゼル髭の戦いを中断させることができた。
あのまま戦闘が長引いていたらと考えるとちょっと怖い。
ルーデルが負けるなんてことは髪の毛ほども思ってはいないけれど、カイゼル髭とルーデルの戦闘が長引いていたら、見たら死ぬほど後悔しそうなものを見てしまいそうだからだ。
「いやいや、礼を言うのは私の方だよハジメ殿。よくぞあやつらの凶行を止めてくれた。これから聯隊の上司に報告した後、王都警衛局にも報告をすることになるだろう。そのときに君の大手柄を上奏する。必ず陛下より恩賞が賜られることになるだろう。宿が決まったら、近衛第四聯隊の聯隊本部に知らせてほしい。でないと王都警衛局に君たちを手配することになるからね。必ず知らせて欲しい」
そうしてアルベルトさんもまた馬上の人となり、王城の方へと馬を数歩進めたところで何かを思い出したように振り返る。
「ルーデル教官、リュドミラ教官! アル坊はもう勘弁です。私も、もう妻も子もあるのですから!」
軍人らしいよく通る声でそう言ってアルベルトさんは今度こそ雑踏に消えていった。
「やっぱり知り合いだったんだ」
「あいつが新兵の頃にな」
「剣の使い方のさわりだけを教えたのだわ」
この二人って、ほんっといろんな所で色々とやってたんだな。
ヴェルモンの街の領主様とも戦友だったみたいだし。
ってか、この二人一体何歳なんだ?
18/08/09 第17話 王都到着 の公開を開始いたしました。
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