第15話 王国近衛騎士殿が僕をロリコン認定してしまった件
大変お待たせいたしました!
「昨夜は本当に楽しかった。旨い料理をありがとう。王都に来たらワシの家に寄ってくれ。フルブライト商会って食品問屋で二階のクロードを呼び出してくれ。絶対来てくれ、王都で最高の酒を出す店に案内しよう」
「世話んなったなアンちゃん。Aランクのクエストまでなら格安で指名依頼請け負うぜ。そうだな、アンちゃんなら五割引きだ。その代りうまいメシを食わせてくれよな!」
「はい、では、また王都で!」
朝食を食べてから出発したらと勧めたのだったが、昼前には王都に入りたいという商人のクロードさん一行と冒険者のデニスさん一行は、野営地から王都へと出発していった。
はて、フルブライト商会ってどこかで聞いたことがあるな。
「では隊長お先に!」
「うむ、頼む。それから…この書状を」
「了解です。必ず連隊長にお渡しします」
「必ずキサマの目の前で開封させ読ませるのだ。じゃないとあの人は全部後回しにするから」
「はっ! 必ず目の前で読んでいただきます」
商人さんたちに続いて、ウチから貸し出した馬車に捕縛した襲撃犯の生き残りを乗せた護送隊(アルベルトさん以外の騎士さん達)も野営地を後にする。
「さて……と、これでようやく朝ごはんが食べられる」
視界から出発したみなさんが消えてから僕はゆっくりと踵を返し、中断した朝食を再開すべく食堂天幕に向かう。
できたてホカホカのスパニッシュオムレツを口に入れようとしたその瞬間に、王都へ向け出発するというクロードさんたちが挨拶に食堂テントに現れ、お見送りのために朝食を中断していたのだった。
ぐぎゅるるううううううっ!
さっきから鳴りっぱなしだった腹の虫がひときわ盛大に鳴った。
「は、はははは……お恥ずかしい」
「ははは、ハジメ殿は抜群の武勇を示されからな。腹の虫も大合唱しようというもの。……しかし、本当にお体は大丈夫なのか?」
食堂天幕に戻る僕に並んで歩く近衛騎士アルベルトさんが、しげしげと僕を観察する。
彼が大丈夫なのかと言っているのは、僕がカイゼル髭のジョージにハリネズミみたいに剣を突き立てられまくっていたのを目撃していたからだ。
「ええ、幸い全部急所を外れていましたから、ルーデル……ああ、獣人の彼女に剣を抜いてもらって、我がパーティが誇る調剤師の超高級回復薬をがぶ飲みしましたんで、なんとか……」
「ふむ、ルーティエ教団のルグ主教…『ルーティエの瑠璃光』が調剤された回復薬ならば、さもありなん」
「アルベルトさんは、ルグ巡回大主教様をご存知なのですか?」
つい忘れがちなエフィさんの大地母神教団での役職を思い出す。
「ははは、ハジメ殿、軍籍にあるものでルグ大主教殿を知らぬは忘恩の徒であるよ。ルーティエ教団の調剤施療神官でもあるルグ大主教殿の回復薬で命をとりとめたものは少なくない。彼女が貴殿のパーティーに参加しておられるのは巡回大主教として特任に就いておられるからなのであろう? いやいや、詮索はせぬよ」
よかった、どうやらアルベルトさんはとてもとても優秀な軍人さんらしい。
エフィさんが僕らのパーティーにいることを特別任務だと勘違いしてくれたようだ。
それにしてもエフィさんって、なにげにすごい人なんだな。
「アルベルトさんも一緒にいかがですか? まだですよね朝食」
食堂天幕の出入り口を捲り上げながら僕はアルベルトさんを朝食に誘う。
「これはありがたい! 実は私もいたく空腹だったのだ。ありがたくご相伴にあずからせていただくよ」
「あ、ごしゅじんさま」
「ご主人さま!」
「「「「「おかえりなさい、ご主人さま!」」」」」
食堂天幕に戻った僕に最初に気がついたのは、今回の事変にいち早く気がついた獣人少女の二人ダリルとリゼだった。
続いて他の少女たちが天幕に戻った僕を迎えてくれる。
僕がクロードさんやデニスさんたちのお見送りに出ている間に、他のみんなは朝食を摂り終えて後片付けをしていたようだった。
「ただいまみんな。朝食、アルベルトさんの分もお願いできるかな」
「はい、大丈夫です。いま、ごよういします」
少女たちが配膳台に置いてあるバット(深めのお盆状の容器)に向かいメストレイに盛り付けを始める。
「ハジメ殿……他人の嗜好に干渉するつもりはないのだが、年端も行かぬ娘たちを召使いにしてご主人様などと呼称させるのはいかがかと……。いや、王国法では幼女を奴隷にしてはならないなどという条文はないのだが人としてだな……」
アルベルトさんがおぞましいものを見るような目つきで僕を見る。
あ、この人勘違いしてる。僕が幼女奴隷ハーレムを作ってるって勘違いしている。
「ち、違いますから! アルベルトさん、あなたは勘違いをなさってますから! 僕は彼女たちを召使いとして雇っているわけでも、奴隷にしているわけでもありませんからね!」
「そ、そうなのか? では、この少女たちは……?
「でも、あたいたち、ご主人様のせんりひんだもんねーっ!」
「「「「「ね~~~~~~~っ!」」」」」
ダリルたちが消えかけた誤解の炎に火薬玉を放り込んだ。
「ダリル、リゼ! ウッラにファンにまで! 君たちいい加減にしないと食事抜きにするぞ」
「ハジメ殿! いくら戦利品奴隷とは言え、育ち盛りに食事抜きとはいかがなものか! 貴君とはじっくりと話し合う必要がありそうだ」
「だから誤解ですって!」
僕は必死に身振り手振りを交えてアルベルトさんの誤解をとこうとするが、その度に『東の森の乙女』たちが入れ替わり立ち替わりに燃料投下に勤しんでくれる。
おかげで、僕はすっかりアルベルトさんに小児性愛嗜好者に認定されてしまったのだった。
ねえ、アルベルトさん想像してみようよ。
そもそも、ロリコンの主人のところでいやいや働いている少女があんなに楽しそうにしてるわけないじゃないか。
特に僕をからかうときなんて、彼女らものすごくいい笑顔してるでしょう。
そんな僕の心の声は『東の森の乙女』たちの姦しい笑い声にかき消されるのだった。
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「よう、ハジメ……とアル坊か」
「あら、お見送り終わったのね」
『妖精のポルカ』ですっかりとご満悦のルーデルとリュドミラが、酒精をたっぷりと含んだ息を吐きながら向かいの席から笑いかけてきた。
彼女たちの前には干し肉が大皿に山と盛ってある。
道中でルーデルとリュドミラが狩ったグランアングーラ(角がやたら大きいバッファローみたいな魔物だ。すっげーおっかなかった)のもも肉をスライスして秘伝のタレに一晩漬けこみ、乾燥燻煙した『グランアングーラのジャーキー』だ。
食感と味を重視したから、乾燥工程を短縮してしっとりとした仕上がりにしている。
保存食としては半端だけど、僕のマジックバッグは時間が進まないので保存という点での問題は無視できるのでこれでいい。
「ぷはぁ、これこれぇ! いっくらでも呑めるぜ」
ルーデルがジャーキーを齧り、カップになみなみと注いだ日本酒『妖精のポルカ』を呷る。
「うふふふ、ハジメ、この干し肉はとても美味しいのだわ。お酒と相性が抜群なのだわ。気がついたら誰かに盗まれたみたいにカップからお酒が消えているのだわ」
「かかかっ! 酒盗みの干し肉か、傑作だ! よし、これからこの干し肉は『酒盗み』と呼ぶぞ!」
ふたりともかなりご機嫌に出来上がっているけれどルーデルは敵一個中隊を単騎で全滅させる活躍を見せたのだから、これでいい。リュドミラにしたって、僕らが留守の野営地を守っていてくれたわけだから、実際に戦闘には加わっていなくても、ご機嫌に一杯やるくらいの働きはしている。
今回の事変にいち早く気がついたダリルやリゼにもなにかご褒美を出さないといけないし、居残り組のみんなにもなにかあげよう。
こんなときに敵やモンスターが現れたら?
それならきっと大丈夫だ。
彼女たちなら、人間の兵隊一個連隊くらい、ぐでんぐでんに酔っ払っててもなひき肉にしてしまうに違いないから、これくらいになっているくらいで丁度いいだろう。
「はあ、相変わらずだなこの方たちは……」
アルベルトさんがため息を漏らした。
そういえば、ルーデルがアルベルトさんのことをアル坊って呼んでたし、リュドミラはアルベルト坊やって呼んでたな。
「あの……アルベルトさ……」
アルベルトさんはルーデルやリュドミラとお知り合いなんですか? と、聞こうと思ったとき。
「はい! おまたせしました! あっためなおしました」
「いっぱいたべてくださいね!」
「ご主人さまのおなかの音、ここまで聞こえてきたんですよ」
「「「「「きゃははははははっ!」」」」」
少女たちの笑い声とともに、僕の目の前に山盛りの料理を載せたメストレイが「ドン!」と置かれたのだった。
18/08/05 第15話 王国近衛騎士殿が僕をロリコン認定してしまった件 の公開を開始いたしました。
毎度ご愛読誠にありがとうございます。
18/08/05 18:05 修正
中途半端なところでお話が切れておりましたのを修正いたしました。




