第10話 女騎士さんたちに血反吐をぶっかけまくっていた件について
「ぬっふふ~ん、これでも絶命しないとは、チミはアレかね、アンデッドの類いかね~ん。ふほほほ」
カイゼル髭は剣を順手に持って左脇腹から突き上げる。
「げはッ! ぐッおおおッ!」
今度は切っ先が右脇の下から飛び出した。
俺はシャベルを振り上げるが、激痛のあまりカイゼル髭にブレードを叩きつけられず、カイゼル髭の脇をフラフラとよろめき馬車に壁ドンをする。
「ぐぼぁッ!」
再び大量に吐血する。
バチャバチャと俺の口から吐き出された鮮紅色の体液が、馬車に寄り掛かるように倒れていた女騎士さんを真っ赤に穢してゆく。
「あ、ずびばぜん……」
申し訳なく思い謝罪する。
「う……あ……、……あ、ひめ……ま」
気を失っていただけだったのか、俺の吐血で意識を取り戻した女騎士さんが馬車の中へと手を差し伸ばす。
てっきり死んでいたと思った。
生きてるなら後で汚してしまった服を弁償しなきゃ。お風呂にも入ってもらおう。
女騎士さんが差し伸べた手の方向を見上げ、俺は胃液が沸騰する。
「てんめえええええッ! この、おしゃれ髭ヤロウ!」
馬車の中から、鮮血を滴らせた細い脚がだらりとぶら下がっていたのだった。
カイゼル髭が、馬車の中で何をしていたのかが分かったからだった。
力を振り絞り、振り向きざまにシャベルを薙ぐ。
ブンッ! と、風切り音を響かせ盛大に空振って一回転する。
一回転した俺の背中にまたまた刃が突き立てられる。
「むっふ~ん、ふほほほほほ! まだ耐えるかね。それにだ、チミごときに吾輩の神聖なる使命を非難される謂れはない」
「神聖だぁ? 使命だぁ?」
カイゼル髭の耳障りな美声に、鼓膜からウジ虫がわいてくるような錯覚に襲われる。
「おえええええッ! げぼあッ!」
馬車の中にさっき食ったレバニラ定食と血が混じったリゾット擬をぶちまけてしまう。
要するに血反吐だ。
「……ひ、あ…あ、あ……」
どうやら、馬車からぶら下がっていた細い足の持ち主に、吐瀉物をぶっかけてしまったようだ。
こっちの人もまだ生きていて、気を失っていたようだ。
彼女は吐瀉物をぶっかけられたショックで意識を取り戻したようだった。
酸っぱいし、熱いし臭いからな。
気付けにはもってこいってか?
「あ、ずびばぜん、ごべんだだい……」
だが、ゲロをぶっかけるなんて、ものすごく失礼なことをしたので平謝りだ。
本来なら土下座モノなのだが、現在進行系で戦闘中なのであとでゆっくり土下座しよう。
もちろん入浴&着替え付きでだ。
「ぐぞぉ……」
カイゼル髭になんとか一太刀あびせようとシャベルを振り回す。
俺の脳内では、切っ先が音速を超える勢いで振り回していた。
が、実際には酔っぱらいのようにふらつきながらよたよたとシャベルを空に泳がせているだけだった。
「むっふ~ん、我輩の刺突をこれほど急所に喰らいながらもこれほどに永らえるとは、正にアンデッド! おお、我が主よこの悍ましき異端に神罰を! あなたの御業を代行する我に御力を!」
カイゼル髭が祈りを捧げながら、俺に剣を突き立てる。
その度に反撃を試みてシャベルを振り回すが、そよ風を吹かせるばかりだった。
「がはぁッ! ……あ、ずびばぜん、ずびばぜん」
そして、空振る度にカイゼル髭の俺を貫く剣が増え、俺はハリネズミのようになってゆくばかりだった。
「げほぁ! あ、ずびばぜん」
「おヴぇあぁ! ご、ごべんだざい」
「うぶ……ごほぁ! ああ……また……ずびばぜん」
更に俺が、血を吐く度に、なぜだがそこに女騎士さんがいて、俺の血反吐をモロかぶりしてしまう。
僕はその度に僕の血反吐塗れになった女騎士さんに平謝りだ。
「むっふ~ん、これはこれは、新記録なのである。このワイヴァーンをも一撃で絶命させうる『凱旋者、聖ジョージ・アルビオーネ』の刺突をここまで喰らいながら存命しておるとはやはりチミは正真正銘のアンデッドであるな? 斯くなる上はその首落とし、踏み砕いてくれん! むっふふ~んッ!」
聖ジョージと名乗ったカイゼル髭が両手剣を俺の首に振り下ろす。
(あ、首落とされたら、どうなるんだ? 流石に死ぬか?)
覚悟を決めた刹那、
ガイイィン!
と、重い金属同士が衝突したような大音響が僕の鼓膜を揺らした。
「ふう、間に合った。頑張ったなハジメ!」
「ルー!」
僕の網膜に映った。頼もしい犬歯をのぞかせた笑顔。
間一髪、僕の首を刈ろうと振り下ろされたカイゼル髭ジョージの剣は戦兎族の元SSS級冒険者ルーデルの大剣で叩き落とされたのだった。
18/07/24 第10話 女騎士さんたちに血反吐をぶっかけまくっていた件について の公開を開始しました。
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