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転生グルマン! 異世界食材を食い尽くせ  作者: 茅野平兵朗
第2章 今度は醤油ラーメンだ! の巻
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第9話 実は、シャベルもミスリルで作ってもらってました

今回もグロな表現がございますご注意くださいませ。

「ぴぎゃあああああッ!」


 ゴブリンの叫び声並みに耳障りな絶叫が辺りに響いた。

 きれいなドレス姿の幼女の胴体を手に掴んだたまま、深く割り裂かれた脂肪たっぷりの尻を揺らしてそいつは膝折りくずおれる。

 魚のように背開きに捌かれた断面から、血と臓物がボトボトとこぼれおちている。さながら、血まみれのでっかい糞を垂れ流しているような眺めだ。

 それは、シャベルを構えた俺が高速回転でそいつの背中に体当りした結果だった。

 傍から見たら、さながらデカい丸鋸が飛んできて人体切断マジックをやったように見えたに違いない。

 もっとも正真正銘タネも仕掛けもないから、当然の帰結として刃が当たったところはぶった切れたんだがな。


「ふん、流石はミスリル製だな」


 思いの外ずっぱりときれいに背開きになった贅肉の塊に驚きながら血振りをする。

 ゴブリンパレードを討伐したときに、ゴブリンプリンスの石頭に食い込んだまま抜けなくなった反省を踏まえて、みんなのナイフを作ってもらうついでに、シャベルもミスリルで新調していたのだった。


「ぎゃ、ぎゃばば……ぎざばぁ、でいどうぎじだんでんにんぢょうばじりーどじっでどどうでぎがぁ!」

「狼藉ってのはな、たった今の今までてめえがやってたことだよ。ゲスアホウが!」


 どうやらこの肉塊は、ヴァシリーって名前のどっかの聖堂騎士団の連隊長クラスのようだ。

 だが、このでっぷりと着いた脂肪はとても騎士と名乗っていい体じゃない。

 それだけで、こいつがなんらかの七光で出世してきたってのが伺える。


「ぐどぉ、いでぇ…げぼぁッ…」


 四つん這いで俺に正対した贅肉ダルマは血を吐きながら憎しみに瞳を染めて俺を睨む。

 垂れた胸の肉に何段にも折り重なった腹が怒りにプルプルと震えている。


「いだぃ……いだいぃ…だでが、がいうぐばほうをがげろぁ! がいぶくやぐぅ」


 だが、肉塊に回復魔法をかけるやつは一人としていない。 

 一人として回復薬を使うやつはいない。

 そいつらは今、ルーデルを相手に死線を彷徨っているからな。


「残念だったな、てめえがやったことの報いを受けろ。地獄で獄卒に追いかけ回されてダイエットしな」


 俺はその頭にトドメを叩きつけるべくシャベルを振り上げる。


「ごろずぅ……ぎざば、ごどじでやる。ゆどぅざでぇ、あにじゃぁ! がだきぼぉ! どっでぐでぇッ! ああ、わが主よ! この異端者に鉄槌を! おぞましく呪われた死を!」


 血まみれの贅肉ダルマが俺への呪詛を叫ぶ。


 ボキボキ…バキ……! グシャッ!


 と、何かを握りつぶすような音が贅肉ダルマの手元から聞こえた。


「しまった!」


 ヴァシリーは女の子を掴んだままだった。

 俺に対する怒りのあまり、手に握っていた女の子を握り潰しやがった。


「くそ!」


 振りかぶったシャベルの刃を立てて叩きつける。

 包丁でバラ肉を切るときのような感触でシャベルが頭蓋を叩き割り、みぞおちまで切り裂いて贅肉ダルマことヴァシリー千人長を絶命させる。

 そして、返す刀ならぬシャベルで手首を切断して少女を解放する。


「き、きみ……ごめん……」


 胴体が握りつぶされあらぬ方向に曲がりひしゃげ、ビクビクと断末魔の痙攣している少女を目の前に僕は謝罪することしかできない。

 ヴィオレお嬢様の治癒魔法やエフィさんの上級回復薬ならなんとかなるかもしれないが、彼女たちはまだ到着していない。おそらくあと数分はかかるだろう。

 その前にきっとこの子は死んでしまうに違いない。


「ご……めんな……おとう…つと……」


 掠れた声で何かをつぶやきながら、少女の命が消えていく。


「あ……あ、あ、ごめん……ごめんなさい。こんなつもりじゃ……」


 僕はひしゃげた少女を抱き上げ、謝ることしかできない。


「ひ、姫さ……ま」

「ひ…さまぁ……」

「怖く……は…りませ……から」

「と……に黄泉路…を…」


 そこここから、少女を労る声が聞こえてくる。

 無残な姿を晒している護衛の女騎士たちが、己が瀕死なのにもかかわらず、僕の腕の中で命を終えようとしている少女を励ましているのだった。


「ハジメ! 血だ! お前の血を飲ませるんだ!」


 数十メートル離れたところで大剣を振り回しているルーデルが叫んだ。

 僕の血って……。

 生命の女神様曰く僕の血を分け与えられた者は、僕の眷属になるってことだけど……。

 そういえば、僕の血肉は瘴気に侵されたモンスターには猛毒で、河豚の毒のような働きをするとも言ってたっけ……。


「ん? あぁ…ッ!」


 その時僕の頭の上に明るい電球が灯る。

 ってことは、瘴気に侵されていない生き物が、僕の血肉を分け与えられたら?

 その瞬間、僕の背中からぬるりと冷たいものが入ってきて胸に突き抜ける感触に襲われる。


「げぼはッ!」


 鉄臭い液体がこみ上げ、口から吹き出した。

 その、鮮やかな赤い体液が抱き上げた少女の顔に何百CCもぶちまけられる。うわぁこれ動脈血だ。

 真っ白な少女の顔が僕の鮮血で真っ赤に染まってゆく。


(うえ……『キ○リー』かよ)


 引きこもり時代に見た、七十年台の恐怖映画の最恐シーンが網膜に蘇る。


「げほ、ゴボッ、ゴホァッ!」


(いだいッ! いだいッ! いでええええぇ!)


 数拍遅れて胸に激痛が走る。

 僕の血に塗れた剣が胸から生え、月明かりをヌラヌラと反射していた。


「むッふぅーん、チミかね我輩の崇高なる使命を耳障りな雑音で邪魔してくれるのはっはーん?」


「げほ……げほげほおぁ……」


 再び大量に血を吐き、少女の可憐な顔を穢しながら振り向いた俺の目の前に、見慣れたものが天を向いて鮮血を滴らせていた。

 今までそいつが何をしていたのか一目瞭然だった。


「でべぇ……」


 血を吐きながらその持ち主を見上げる。


「むふぅーん……ふほほほ、チミ、その傷で即死しないとは頑丈だねぇ…。むふッ、前にもいたねぇ、チミみたいに頑丈な異端が……ふほほほ!」


 嗜虐的な笑いを浮かべたマッチョな大男が、スッポンポンでカイゼル髭をしごいていた。


「むッふぅーん、どぅれ、何本で絶命するかなぁ? ちぃなみにぃこの前の異端は三本までがんばってくれたぁねぇ…さてぇチミは? ふほほほほ!」


 髭をいじっていない方の手にはそこいらへんから拾い集めてきたであろう様々な剣が何本も握られていた。


「参る!」


 カイゼル髭の大男は剣を逆手に持ち替え、振り下ろす。


「はぐッ、ううッ!」


 熱さにも似た激痛とともに、剣が左肩から突き入れられ、切っ先が右の脇腹から飛び出したのだった。


18/07/23 第9話 実は、シャベルもミスリルで作ってもらってました の公開を開始しました。

毎度ご愛読ありがとうございます。

皆様の御アクセス、ブクマ、ご評価大変励みになります。

今後とも何卒宜しくお願いします。

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