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転生グルマン! 異世界食材を食い尽くせ  作者: 茅野平兵朗
第2章 今度は醤油ラーメンだ! の巻
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第5話 ワイヴァーンレバニラ炒めの香りは旅人ホイホイ

お待たせいたしました。

「「「「んんんんんんん~~~~~~~~ッ!」」」」

「「「「「おーいしいいいいいいいいいッ!」」」」」


 みんなが足を踏み鳴らし顔を真赤にして美味を叫ぶ。

 作ったものとしてこれ以上の喜びはない。

 それが毎度毎度のことだとしても、してやった感が半端ない。


「うまッ! なんだこれ! うめええええッ!」


 ルーデルが雄叫びご飯をかきこむ。


「ほんとにおいしいのだわこれ、エールがいくらあっても足りないのだわ。ね、ルー、わたしが言ったとおりになったのだと思うのだけれど」


 リュドミラがニラレバ炒めを咀嚼しながら、ご飯をかき込み、エールをあおってプハッと居酒屋で「とりあえず生」でゴキュゴキュと喉を潤したおっさんみたいに頭を振る。


「は、ハジメさん、これ、本当にワイヴァーンの肝の炒めものなのですか? 私はもっと生臭いものだと……、ですよね……すぐ横で見ていたのに信じられません……」

「ハジメ! すごいすごい! わたし、街の屋台で牛や豚の肝の串焼きを食べたことあるけど、こんなに美味しくなかったわ。姉様の言う通りちょっと臭かったもの。これ全然嫌な臭いがしないわ」


 ヴィオレッタお嬢様とサラお嬢様がレバニラを咀嚼しながら箸でつまんだレバー片をしげしげと見つめる。

 その行為は忌み箸といって、ほめられたことではないとあとでこっそりとお教えしよう。


「ふふふ、それはですね、下ごしらえの段階でひと手間かけて臭み抜きをしているんです」


 それは実に簡単だが効果的なひと手間だ。だいたい七ミリくらいの厚さに切ったレバー片を、三分から五分位牛乳に漬け込む。ただそれだけだ。

 たったそれだけで、レバーの臭みは綺麗サッパリと消えてくれる。


「こ、これは、いくらでもお米が食べられしまうのでございます。いやはや流石は台下でございます。あ、ヴィオレ、非才にもエールを回して下さい」


 エフィさんが空になったエールのカップを振って、ヴィオレお嬢様がリュドミラに注いでいたエールのツボに手を伸ばす。


「うん旨くできた……んんん? よなぁ……?」


 たしかに皆がほめてくれている通り、美味しく出来上がっている。

 臭みもなく、味付けもアリオ(ニンニクによく似た球根。てかほとんどニンニク)と醤油で絶妙な仕上がりだ。

 エールもご飯もすすむ。


「んーん?」


 それなのになんだ? この物足りなさは?

 言ってみれば画竜点睛を欠いたような感覚……。


「ハジメさんどうされました? どこか具合でも?」

「い、いえ、何でも……」


 ヴィオレお嬢様に言い訳してみるけれど一度はまり込んだ思考の沼からは容易には抜け出せない。


「あぁんハジメ! わたし、太っちゃうよぅ。ね、ダリルちゃんリゼちゃん!」

「サラちゃん、あしたいっしょにホーンラビット狩りにいこう。ご主人さまのおいしいお料理食べたらいっぱい働くんだよ!」

「そうだねサラちゃん、ダリル。あたし、あしたはいっしょうけんめい走ってぽいんとまんする!!」 

「私も明日は馬車に並んで走りますねハジメさん」

「あーん、毎日がお祭りみたいなの」

「わたしも明日一緒に狩りに出る」

「わたしはやくそうつみにいくわ」

「「「あたしも、あたしも」」」


 僕の沈思は年少組が自身のスタイルを憂う稚い高音域の嬌声に破られ、少女たちのダイエットの話題に誘導される。

 元の世界で173センチ173キロだったときの僕の部屋には、通販で買った様々なダイエット器具やダイエットサプリが積んであったっけ。

 あれ、全部ちゃんと使ってたら心臓麻痺で死なずに済んだんじゃないだろうか?

 そしたら、今ここにいないか……。


「よーし、じゃあ、明日の朝早く狩りに行くか!」

「いいわね、ホーンラビットなら、みんなのいい練習になるのだと思うのだけれど」


 リュドミラとルーデルが少女たちに狩りを教える気満々に力こぶを作ってみせる。

 本当にこの二人は頼れるお姉さんだ。

 だけれども、明日はもう王都に入りたい。狩りに出たら王都への到着が遅れてしまうんだけどな。


「みなさん、ご心配には及びませんのでございますよ」


 と、エールの酒精を含んだ吐息を機関車のように噴きながら、エフィさんがにっこりと微笑んだ。


「ぬふっふふふふ、明日の朝の間稽古を倍にしましょう。皆さん育ち盛りですからそれで大丈夫です。ヴィオレはその後、非才と散打を五十本もやれば十分に余分に摂った栄養を消費できるのでございますよ」


「「「うへぇ」」」

「そ、そうなんですか? で、ではお願いしましょうかしら」


 少女たちの表情から一斉に彩度が失われてゆく。

 エフィさんの体育の授業ってそんなに厳しいんだ。


「でも、美味しいからがんばる!」

「ご主人さまのおいしいごはんのために!」

「「「「おいしいごはんのために!」」」」


 誰かが叫んだのを合図に、みんなのメストレイの上の食事が彼女たちの胃袋に消えていく。

 そして。


「「「「おかわり!」」」」


 六十人前くらい用意していたのだが、あっという間に無くなっていったのだった。




「あの……ぅ」

「お、おい、大変スマンのだが……」

「な、なぁ、アンちゃん」


 食事開始から時間にして小一時間くらいたったころだろうか、僕らがお腹の虫を満足させ、食後のお茶を楽しんでいた頃、羞恥に消え入りそうな声がそこここから聞こえて来た。


「そ、その、よかったら、その……食事を分けてもらえないだろうか? 無論対価は用意する」

「か、金なら出す。一食分で金貨一枚でどうだ」

「なあ、アンちゃん頼む! そのうまそうな匂いがする食いもん分けてくんねえか? タダでとは言わねええからよぉ」


 僕らの周りでキャンプを張っていた、王都を目指している旅人たちが腹の虫をギュルギュル言わせ、懇願してきたのだった。

 パッと見た感じ、騎士さんと、商人さんと冒険者さんのパーティーのようだ。


「え? ああ、いいですよ。ええと……騎士様方は五人、冒険者さん方も五人。商人さん方は……にぃしぃ……七人でいいですか?」


 僕はざっと人数を数える。


「ああ、我々は五人だ」

「ワシ等は七人で間違いない」

「俺たちはたしかに五人だが……その……」


 冒険者たちは顔を赤くして口ごもった。


「わかってますよ。皆さん三人前くらい軽そうですね」

「おお、それはありがたい! ここ、十日ばかり干し肉と堅パンでうんざりしてたのだ。私は対価として、君たちの王都までの道中と王都での安全を提供しよう。私はアルベルト。見ての通りの王国騎士だ。部下と共に巡邏の途だ」

「っと、ワシはクロード。見ての通り旅の商人だ。むほぅ、早く、早く食わせてくれぇ! ワシ等の人数分の金貨とルーベ川の白ワインを二樽、食事代金として出そう」

「くそ、太っ腹だな、おっさん! 俺はデニス。冒険者だ。結構自信あるぜ。俺たちは中級回復薬十本と薪だ。今夜は晴れてるから冷えるぞ。よく乾燥していて持ちのいい薪だ。しょぼくて申し訳ないが頼む!」

「大丈夫です。今から支度しますからそうですね、半刻ほど待ってもらえればでき上がると思いますから……」


 僕はニコリと笑って皆さんに待ち時間を案内したのだった。


18/07/18 第5話 ワイヴァーンレバニラ炒めの香りは旅人ホイホイ の公開を開始いたしました。

毎度ご愛読誠にありがとうございます。

次話投稿は7月19日午前8時の予定です。

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