プロローグ ダァナ街道にて
転生グルマン!(仮) 異世界食材を食い尽くせ 第二部今度は醤油ラーメンだ! の巻 の開幕でございます。
今回、ハジメたち一行は醤油ラーメンを作るために西へ東へ冒険をします。
その途中で、また、いろいろな食材に出会い様々な料理にしていくことでしょう。
では、また、しばし、お付き合いいただければ幸いであります。
グリューヴルム王国東方辺境領の領都ヴェルモンから王都グラウルソへは、王国を東西に流れる大河ダナ川に沿って整備された街道を川を遡るように観光を楽しみながらの旅で三週間程度の旅程となる。
今その街道を急行馬車並みのスピードで走る豪奢な馬車があった。
「すまぬ! 道を譲って欲しい! 東方辺境伯の急ぎ馬車である。王都へ急ぎ参じねばならぬのだ! すまぬ、道を空けてくれいッ!」
騎馬の武者を先触れに、狼をモチーフにしたオーフェン侯爵家の紋章旗をたなびかせ、護衛騎士4騎が方陣を敷いて街道を往く人々に注意を促し、また、往来を騒がせることを謝しながら猛スピードで王都へと向かっていた。
「爺上様の呼び立てとは申せ、街道を往く民らには申し訳ないのう。すまぬのう。迷惑をかけるのう」
幼女期を抜け出したばかりの高い周波数の声に似合わない口調で、馬車の主は道行く平民に詫びていた。
3年後には、王都の社交界を騒然とさせるに違いない美貌の片鱗を散りばめた少女は、眉間に縦筋を浮かべその可憐な顔を曇らせているのだった。
少女の名は東方辺境伯侯爵令嬢ニーナ・マグダレナ・フォン・オーフェンといった。
彼女は、決して本意ではない贅沢な移動手段で王都へと向かう我が身を嫌悪しているのだった。
「仕方ないじゃない、お祖父様が急ぎ王都に来るようにって、わざわざ騎馬飛脚でおしゃって来たんだもの。きっと、国王陛下関係ね。ハジメ殿のラーメン献上に係る案件のはずだわ。ニーナあなた、あんなに食べたがってくせに……。少しは貴族の令嬢っぽい我儘を覚えるべきだわ!」
そう言って、この、あまりにも禁欲的な侯爵令嬢に貴族の令嬢ッぽさを啓蒙しようとして鼻息を荒くしているいる少女。
侯爵令嬢ニーナに負けず劣らずの可憐な美貌と華奢な肢体を旅装に包み、金の絹糸のような長い髪の毛を煙らせた少女の名はジゼル。
本来ならばもう少し長い名前なのだそうだが、本人曰く面倒くさいからということで、ジゼルで通っている。
しかし、ジゼルの個性を際立たせているのはその美貌だけではなかった。
ジゼルの両の耳は笹の葉のような形で、彼女の感情の起伏に合わせてピクピクと動いている。
ジゼルは長命種エルフなのだった。
「しかしのう……この馬車の運行費用も、民からの税金で賄われているのだしのう」
「ニーナ!」
ニーナがウジウジと反駁して、ジゼルがそれに異を唱えたそのとき、同乗している侍女が御者からの報告を伝える。
「お嬢様方、間もなくヴィンナに到着いたします」
「ここまでくれば、あと半分。この速度ならば、後七日ほどで王都に着きますね」
同乗している侍女の二人は、ノーマとマリアといい、ふたりとも同じ開拓村の村娘だった。
が、数奇な運命に弄ばれ、今こうして侯爵令嬢に仕えているのであった。
「うむ、ハジメどの達はもう王都に着いた頃であろう……。陛下へ献上した余りがあればめぐんでいただきたいものだのう」
「もーっ! ニーナッ! あんたなんでそう卑屈なのよ! 新しく作ってもらえばいいじゃない! ハジメ殿なら、あなたが上目遣いでお願いしたら二つ返事で作ってくださるわよ! もうっ、イライラする」
「まあまあ、ジゼル様。そこが姫様のいいところなんですから」
「そうです。貴族様の本来をご自覚なさっているのですから」
ジゼルは大きくため息をついて吊り上げた眉を緩め、愛しい年の離れた妹を見る眼差しでニーナに微笑みかける。
「はあ、そうよね。ごめん、ニーナ。あんたみたいないい子の願い、絶対叶えてあげるから! わたしがハジメ殿にお願いしてあげるからっ!」
そう宣言して勢いよく立ち上がったエルフの令嬢ジゼルは勢い余って、天井にしたたかに頭突きを食らわせることになった。
時ならぬ鈍い衝突音に護衛の騎士たちは色めき立ったが、すぐにそれがエルフの令嬢のお間抜けだと判明するに至って、声にならない声で爆笑した。
「きゃははははっ! ジゼル様ったら!」
「あはははははぁっ! やだ、もう、ジゼル様!」
「くっ、はははははははっ! あーっはははははははは!」
「いたた……。なによう……うふふふ、アハッ、あははははははは!」
王都へ向かう街道を急行するヴェルモン辺境伯領主の馬車は少女たちの明るい笑い声に満たされたのだった。
18/07/14 プロローグ ダァナ街道にて の公開を開始いたしました。
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