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転生グルマン! 異世界食材を食い尽くせ  作者: 茅野平兵朗
第1章 ラーメン王に俺はなる! の巻
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エピローグ

お待たせいたしました。

「よし……っと、これで最後だね」

「ええ、後はそれぞれの手荷物のみです」


 最後の荷物の積み込みを確認して、白い息を吐きながら、ヴィオレッタが微笑む。

 女神様たちの乱入で狂乱混乱大爆笑の坩堝と化した領主館での大宴会からしばらくして、僕たちはヴェルモンの街から旅立とうとしていた

 と、いってもこの街に住めなくなったので夜逃げをするってわけじゃない。


「あーあ、めんどくせえなぁ、王都なんて」

「まったくなのだわ、あんなところ、二度と行かないと思っていたのに」

「領主様ってば、ほんと余計なことしてくれちゃったんだから」

 ルーデル、リュドミラそして、サラがぼやいた。

「ははは、仕方ないのでございますよ。国王陛下と辺境伯閣下は竹馬の友でございますから」

 幼い妹の我儘を諦める年の離れた姉のような表情で馬車の点検を終えたエフィさんが微笑んだ。


 そう、あの日、僕はニーナ姫様に約束どおりローストビーフとローストビーフサンドを献上した。

 領主様のお館に着いてすぐに、厨房に寄らせてもらって、ニーナ様にお出ししてもらうようにと司厨長さんに頼んでいたのだった。

 ニーナ様とエルフの族長令嬢ジゼルさん、そして、おふたりと一緒に救出したノーマちゃんとマリアちゃんの喜びようといったら、それは天にも昇るという表現がぴったりだった。

 そのとき、僕に領主様が豚骨ラーメンのことをお尋ねになったのだった。


「ギルドマスターシムナから聞いたんだが、ハジメ殿、なにやら新しい麺料理を発明されたとか。できれば、その…、我輩も御相伴にあずかれないだろうか」


 ってね。

 シムナさんめ余計なことを……。

 とは思ったけれど、ラーメンを普及させるいい機会かもしれないと思い、マジックバッグにとっておいた、僕が後でこっそり食べる分を厨房を借りて作って領主様に差し上げた。

 当然、そのときに見ていた料理人の皆さんに作り方をレクチャーしながらだ。

 ただ、チャーシューについては醤油を手に入れる術がないから、茹でた肉を屋台の串焼きのタレに漬け込んだもので代用させてもらった。

 じつは、醤油を手に入れる前から、あの手この手でチャーシューの再現を試行錯誤していたのだった。

 その中で一番マシだったレシピを皆さんに教えたんだ。

 ラーメンを食べたレッドバロン殿の反応は、ゼーゼマン家のみんなに負けず劣らず凄まじかった。

 天井からぱらぱらと何かの破片が落っこちてきたくらいだったからね。

 当然、それを見ていたパーティー参加者のみんなも食べたいってことになるよね。

 さすがに、とっておきの一杯分しかスープがなかったから、その場では作れない。

 だから僕は、こう言ったんだ。


「きっと、御領主様が近いうちにこの料理をふるまってくださいます」


 ってね。

 レシピを書いたメモを領主館司厨長に手渡してあるから、きっとどうにかしてくれるだろう。

 そして、ラーメンはあっという間にヴェルモン辺境伯領に広まるに違いない。

 ってのが僕の思惑だったんだ。

 それがまさか、国王陛下なんていう天上人に召し上がっていただくことになるなんて、斜め上空一万メートルの結果だ。


「冒険者ハジメ殿ならびに御一党、国王陛下のお召しである」


 そんな慇懃なセリフと共にゼーゼマン家を、国王陛下のお使いって人が尋ねてきたのがつい先週のことだ。

 つまりこういうことだった。

 ゴブリンパレードの発生と討伐を領主閣下が国王陛下に報告するために王都に行ったのがあの祝勝会の翌々日のこと。

 ゴブリンパレードは、例え小規模なものでも領主自ら国王に報告しなけらばならない重大事件なんだそうだ。

 ましてや、今回はたった6人で討伐してのけたという異常な事態だそうで、僕らがやっつけたゴブリンプリンスの群の規模だと、王国軍一個連隊三千人の戦力で当たるのが普通なんだそうだ。

 今回も、王国軍の駐屯地に出動を要請しに早馬を出す直前だったらしい。

 返す返すもSSS級冒険者すげえ。

 まあ、それはおいといて、陛下に報告を済ませた領主閣下は、竹馬の友である国王陛下と久しぶりに会ったもんだから、酒飲んで盛り上がっちゃって、いろいろ話してるうちに、豚骨ラーメンのことを話してしまったらしい。

 後はお察しだ。


「ゴブリンパレード阻止ならびにエルフ族長令嬢救出の功により、褒賞を与える、故に至急、王都に上り、謁を賜るように」


 というのが、そのお使いさんが持ってきた手紙の内容だった。

 で、僕たちは旅支度をしているってわけだ。


「先生、ほんとうにわたしたちもついて行っていいんですか?」

「王都なんて一生行けることなんてないって思ってから……」


 狼人のダリルと兎人リゼがエフィさんに尋ねていた。

 他の子も一様に心配顔だ。


「ええ、こないだお伝えしたとおり、ヴェルモン神殿で皆さんに受けていただいた試験の結果、全員がルーティエ教団中等神職学校への編入が許されました。よって、皆さんには何年かの間、王都の学校で寄宿生活をしていただくことになります」


 行き場所が決まらなかった十八人の女の子たちは、全員が王都にあるルーティエ教団の寄宿学校に編入することになった。

 僕なんかを「ごしゅじんさま」とか呼んでくれて慕ってくれていた子達とのお別れは正直辛い。

 けれど、僕たちは冒険者だ、家にずっと居つづけたらあっという間に金欠だ。

 お金を稼ぐためには何日も、依頼によっては何ヶ月もお屋敷を空けることになるだろう。

 実際、ゼーゼマン商会がキャラバンに出ていたときなんか一年がかりで旅をしてたっていう。

 その間、年端も行かないダリルたちだけにしておくわけにはいかない。

 僕とエフィさんは彼女たちにそれをじっくりと説明たのだった。

 意外にも彼女たちはすんなりと納得して、逆に王都行きにワクワクしていた。

 僕としては、すんなりと行き過ぎて少し寂しかったけれどね。


「王都という所は、それだけ辺境の人間にとってあこがれの都だということでございます」


 なるほど、東京にあこがれる地方の人ってこんな感じなのかもしれないなと、僕は思った。


「じゃあ、出発しようか!」

「はいハジメさん! サラ、戸締りと火の始末は大丈夫だったかしら?」

「大丈夫だよ、お姉ちゃん、火は昨日から全然使ってないし、戸締りは、わたしとウィルマとリューダでちゃんと全部見てきたから!」

「ありがとう、サラ、じゃあ、門の鍵をかけるね」


 門を閉じ手をかざしてヴィオレッタが呪文を唱える。

 ガチャンと言うメカニカルな音がして、どう揺すっても門はびくとも動かなくなった。


「うふふ、子供の頃から鍵をかけるのは私の仕事でした」


 そう言って微笑み、ヴィオレッタが馬車に乗り込んでくる。


「みんな馬車に乗った?」


 僕らの馬車の後に続く二台の馬車に声をかける。


「ええ、全員いるわ!」

「はい! 欠員なしでございます!」


 後ろ二台の御者はエフィさんとリュドミラだ。


「うんッ! じゃあ、王都に向けて出発! キャラバンッ、前へーッ!」


 御者台に立ち、僭越ながら号令をかける。ヨハン・ゼーゼマンさんもこんな風に号令かけてたっけ。


「なあ、ハジメぇ、王都までの旅の間な、狩りすっから、獲物を上手く料理してくれよなぁ。オークは定番として、ヒュージボアにレッドサーペント、ああ、コカトリスの営巣地の傍も通るなあ……ひひひッ」


 ルーデルが御者台に立っている僕を見上げ、じゅるりと涎をすする。

 うわぁ、ルーってば途中に生息しているモンスターを全部食い尽す気かよ。


『ワイバーンの住処も襲撃できるのだわ。ワイバーンの背中のお肉はおいしいのだわ』


 リュドミラが念話で参入してきた。

 ワイバーンね……。確かワイバーンって、尻尾に毒があったよね。

 ……うひゃひゃッ、絶対健康の悪用をしてみよう。

 必殺毒肉喰らいってね。

 どんな味がするんだろう。


「うふふ楽しみです」

「わたしも、わたしも!」

『はい、非才もとても楽しみです』


 ああ、なんか、王都までのこの旅って、魔物たちにとってものすごい災厄になりそうな予感がする。

 だけど僕らにとっては、とてもとてもグルメなそしてグルマンな旅になりそうだ。


「ああ、そうだね。いっぱいやっつけて、いっぱいおいしいものを食べよう!」

「「「「「もちろんッ!」」」」」


 そうして、僕たちは王国東方辺境最大の街ヴェルモンを旅立つ。

 僕は馬車の中を振り返る。

 笑顔、笑顔、いくつもの笑顔が僕を見返している。

 みんな新しい旅に高揚しているようだ。

 かく言う僕も、浮き立つ心を抑えきれないでいる。

 口角が上がり、越後屋の賄賂を受け取る悪代官みたいになっているにちがいない表情を見られたくなくて、僕は空を見上げる。

 そこには、冬の始まりの高い高い青空が広がっていた。

17/08/05 エピローグ の公開を開始しました。

今回で『ラーメン王に、俺は、なる! の巻』は終了です。

たいしたプロットもなくザックリとした設定だけで見切り発車した本作ではございますが、約一年にわたり、何とか書き続け、終わらせることができました。

これもひとえに皆様の御愛読のおかげさまでございます。

誠にありがとうございます。

次回シリーズのザックリとした構想はございますので、次回は少し練って書こうかと思っております。

次作までの間、しばしお待ちくださいませ。

食いしん坊たちは必ず戻ってまいります。

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