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転生グルマン! 異世界食材を食い尽くせ  作者: 茅野平兵朗
第1章 ラーメン王に俺はなる! の巻
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第107話 ラーメンリベンジ! 今度はただの豚骨ラーメンだ

お待たせいたしました

 太陽が地平線の向こうに隠れ、夕餉の時間を迎えたグリューブルム王国東方辺境の最大の街ヴェルモン。

 その住宅街の小高い丘の上にあるゼーゼマン邸の大食堂で、今、まさに、再びラーメンが食されようとしていた。

 念のため、僕は完成したラーメンに異常な薬効がないか鑑定したが、特に異常なものは発見できなかった。


「うわぁっ、ハジメ、これなんていうお料理?」

「いつもの麺料理とは、ずいぶん趣が違いますね。ここ何日かかけて作っていた品々はこのお料理のためだったんですね」

「おお、これはこれはなんとも芳しい香りでございますね」

「ええ、とてもよい匂いですね」

「ふむ、まことに、よい香りであるな」

「あいすくりん」

「なになにこれぇ? ハジメくんまた不思議なもの作ったねえ」

「わああ! なんて不思議なお料理でしょう」

「ごしゅじんさま、あたしたちも一緒に食べていいの?」

「きゅうじしなくていいの?」

「ああん、いい匂いでおなかがいたくなっちゃうよう」


 テーブルにはお嬢さま方を始め、ゼーゼマンキャラバンのメンバーとダリルやリゼたち十八人の女の子、例によって自称使徒様方になぜか冒険者ギルドヴェルモン支部のマスターシムナさんにその養女、元ゴブリンプリンセスのブリュンヒルデ、副マスターのカトリーヌさん、そして、これまたなぜだかルーティエ教団ヴェルモン教区大主教のシャーリーンさんまでがいる。

 お招きした覚えないんだけどな。

 娘三人寄ればかしましいって、聞いたことあるけれど、ここにきてその意味がよーくわかった。

 ゼーゼマン邸の大食堂は、新しい料理を目の前に、飢えた雌ライオンが群でおあずけを喰らっている様相を呈していた。


「いやあ、なんかさあ、ヒルダがこっちの方からいい匂いがするって言うから来てみたんだけど、大当たりだったねぇ」

「ええ、ほんと、まさか本当にあるとはおもいませんでした。それにしても、これ見たことも聞いたこともないお料理ですね。ヒルダちゃんのお鼻すごいですぅ」


 元ゴブリンプリンセスはヒルダという愛称で呼ばれているらしい。オドオドしながら僕の方を伺い見ている。

 しかしすごい嗅覚だな。確かに普通の天気なら、この時間、風はこちらがわから冒険者ギルドの方角に向かって吹くのが常だけど……。


「昨夜、僕に我が主上より神託が降りたのです。使徒エーティル・レアシオ様をお助けし、この場で供される料理を計れと。台下、これはなんと言う料理なのですか? 僕にはとんと見当がつきません。見たところ小麦粉をバターでいためて乳で延ばしたソースを使ったスープに麺が入っているようですが……」

「へえ、シャーリーン様はベシャメルソースをご存知なんですか。残念ですが、それは使ってないです、これは、豚の骨を強火で煮立たせ続けることで出るスープの色なんです」


 隣ですまし顔をしている自称使徒エーティル様が、僕にむかってパチンと片目を閉じる。

 どうやらシャーリーンさんには使徒エーティル様で通すようだ。

 まあ、多少人数が増えることについては対策済みだからいいけどね。

 器は陶器屋でさらに三十個買ってきたし、麺も今回は百五十食分用意した。

 フォークだって鍛冶屋さんにまた二十個作ってもらったしね。


「これは、僕の故郷の料理で豚骨ラーメンといいます。今も言いましたが、豚の骨を煮て取ったスープを味付けして、特製の麺を入れたものです。上のにのっているのはキャベツを蒸してざく切りにしたものと、みじん切りのタマネギ、そして、オークの肩の肉を茹でて異国のソースに漬け込んだものを厚めにスライスしたものです」


 ぼくは簡単に今回の豚骨ラーメンの概要を説明する。


「……っと。シムナさんとカトリーヌさん、ブリュンヒルデはフォーク……」


 シムナさんはニカッと笑って、こないだ僕からちょろまかしていったフォークを取り出した。


「へへっ、これ、すんごく便利だよねぇ。食事のとき手が汚れなくてさぁ。鍛冶屋に行って同じの作ってもらっちゃったよ五十本。それをギルドの職員に配ったんだ」

「鍛冶屋さんに聞いたら、これ、ハジメさんの発明なんですってね。鍛冶屋の親方さんが、お腹を壊さなくなったって喜んでましたよ」


 ふむ、どうやら、フォークは徐々にヴェルモンの街に浸透しつつあるらしい。

 これで、食中毒が減ってくれれば幸いだ。

 そこで僕は、ハタと気がついた。


「……あ、シャーリーン様はフォークの使い方は……」


 教区大主教シャーリーさんは、まだ、お箸どころかフォークすら使ったことがない手づかみ食文化圏の方だったことに気がつく。


「ご心配には及びませぬ台下。昨夜、神託と同時にフォークの使い方ならびに『はし』なる異国の食器の使い方を瞬時に覚えました。ええ、これは、奇跡ですっ! 偉大なる大地母神ルーティエがこの任務のために僕に食器の使い方をお教えくださったのですっ!」


 今度は自称女神イフェの使徒様が僕にウィンクを飛ばしてきた。

 ああ、シャーリーンさんにもコピペしたんですね。


「おじょ……もとい、ヴィオレッタ、サラはフォークで……」


 少し白々しいかなと思ったけれど、ヴィオレッタとサラが何を使って食べるかを聞いてみた。


「うふふッ」


 ヴィオレッタが微笑みながら『箸』を取り出した。


「えへへっ、お姉ちゃんとお揃いで作ったんだよ」


 そして、サラも箸を取り出す。


「なんと、実は非才も作りまして」


 エフィさんも箸を取り出した。


「あたいも持ってるんだこれ。偶然だな」

「あら、奇遇ってほんとにあるのね。わたしも持っているわ」


 ルーデルとリュドミラも当然箸を取り出した。


「うふふっ、わたしもです」


 自称生命の女神の使徒イェフ様が。


「ははっ、じつは我も用意してある」


 自称大地母神の使徒エーティル様が。


「あいすくりん」


 そして、自称冥界の主宰神の使徒ヘミリュ様も一揃いの短く細い棒を取り出した。

 まるで、こないだのオーク骨ラーメン事件の再現だ。


「キャラバンで旅をしているときから、ハジメさんがこれでお食事してるの見て、使ってみたかったんですけれど、なかなか上手くできなくって……でも不思議なんですよハジメさん。ついこの間、突然使えるようになってたんです」

「わたしも、わたしもなのハジメ! こないだから突然使えるようになってたの」

「ええ、非才もつい先日突然使えるようになっておりました」

「いいな先生、それ『はし』っていうの? あたしも使いたいなあ」

「こんどごしゅじんさまに教えてもらおう!」

「「「「「「「「「「「「「「「うんっ」」」」」」」」」」」」」」」」


 ダリルちゃんたちが少しだけ不満を唱えたがそれは、すぐに解決できる。

 近日中に使い方を教導してあげよう。


「では、みなさん、お召し上がりください」


「「「「「「「「「「「「「いただきまぁす!」」」」」」」」」」」」」


 大食堂にお屋敷の住人とお客様方全員による食事開始の挨拶の唱和が轟いた。

 さすがに全部で三十人近くの「いただきます」は大迫力だ。

 中学もろくに通っていない引きこもりだった僕は、給食のときのクラス一斉の「いただきます」もあまり経験無いから、正直ちょっと腰が引ける。


「まあぁっ!」「ほえっ!」「ふおおおッ!」「うん!」「へえ!」「んまああぁ!」「ほおお!」「むう!」「ええええっ!」「ふわあぁ!」「ひゃああっ!」「ふんむッ!」「ほっ!」「へぁ!」「んッ!」「……ッ!!」「んんんッ!」「んは!」「ふはぁ!」「んぁ!」「むぐぅ!」「え?」「えぇッ?」「はふぅんッ!」「ふわあ!」「んきゅぅ!」「はぁん!」「ぅんッ!」「はあぁッ!」


 あるいは匙でスープを掬って飲み、あるいはフォークで麺を巻いて口に入れ、またあるいはキャベツをタマネギをそしてチャーシューをかじり、それぞれにラーメンという料理を口に入れた。

 もちろん箸を使える者は箸で麺を摘み、フーフーと冷まして口に入れ啜り込む。

 そして、数瞬の後、ゼーゼマン邸の大食堂は地震かと思うほどの地響きに見舞われる。


「「「「「「「「「「「ほわあああああああああッ!」」」」」」」」」」」


 それは、『初めて』ラーメンを食べた女の子たちの歓喜の絶叫だった。


17/08/29 第107話 ラーメンリベンジ! 今度はただの豚骨ラーメンだ の公開を開始しました。

毎度ご愛読ありがとうございます。

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