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転生グルマン! 異世界食材を食い尽くせ  作者: 茅野平兵朗
第1章 ラーメン王に俺はなる! の巻
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第104話 この世界初のラーメンは女神様方の祝福を受けた。受けたけれども……

お待たせいたしました

「ぎゃはははははああぁっ! うまいっ! 旨すぎるっ」


 オークこつスープにたっぷり浸して、旨みを吸わせたチャーシューを食べても僕の体は爆散しなかった。

 そのかわり、目玉は飛び出し、ほっぺたはどすんとおっこちてしまったけれどね。


「だろう! あたいもそう思ったんだ」

「ええ、本当に! いままでハジメが作ったものをいろいろ食べたけれど、これは異常なおいしさなのだわ」


 スープだけ、チャーシューだけ。出来上がる端から試食してきたけれど、まさか、完成したラーメンの形との間にこれほど味の伸び代があるなんて全く想像ができなかった。

 スープが完成したときに、マー油を作ってヴィオレと試食したときの旨さを1ウマウマ(スープだけでも元いた世界のとんこつスープの何倍も旨かったんだけど)としたら、この完成形はゆうに10ウマウマを軽く超えている。

 そう、元いた世界のとんこつラーメンを1ウマウマとした場合、これは軽く17ウマウマを超えていえるってわけだ!


「ふはははッ! ふははははははッ!」


 思わず笑いが漏れ出してしまう。

 食事中になんてお行儀が悪い。

 わかってるけれど仕方ないじゃないか笑いがこみ上げてくるんだ。ボーリングで掘り当てた油田から原油が噴出すように笑いが止まらないんだ。

 誓って言うけれどそのような作用をもたらす原材料は使っていない。

 第一、もしも使ったところで、僕にはそんな材料の効果なんて出るわけが無い。

 なんせ僕には、ユニークスキル『絶対健康』があるからね。

 刺激的な味付けとしか感じないだろう。

 だから、僕が今笑いが止まらないのは、本当に感情の発露なワケだ。

 本当にうれしくて楽しくて笑っているわけだ。

 腹筋崩壊なんてよく慣用句的に使われているけれど、まさに僕の腹筋は、シックスパックは崩壊寸前だ。

 旨くて、あまりにもおいしくて、腹の底から笑いがこみ上げてきて口から洪水のように溢れ出して止まらない。


「あはははははッ! すげえっ! ウマイよこれ! 自分で作っておいてなんだけど、今まで食べたどんなラーメンよりウマイっ! 最高だあああっ! わははははははははっ!」


 そう高笑いして、僕は無我夢中で箸を操った。

 麺を啜り、スープを含んで租借しながら口中調味しつつ、チャーシューを齧り、ざく切り蒸しキャベツにタマネギのみじん切りを放り込む。

 そしてまた麺を啜り咀嚼しスープを流し込み嚥下しまた啜り……。

 あっという間にたっぷり二玉入っていた太縮れ麺が無くなり、そしてまた、ほぼ同時にスープも丼から姿を消した。


「ぷはああああっ!」


 丼をあおって最後の一滴までスープを飲み干し、コトリと丼をテーブルに置いた僕にみんなの視線が突き立っている。

 みんな笑顔だ。幸せそうな笑顔だとびっきりの笑顔だ。

 特にヴィオレとサラは頬を上気させ、使徒様方みたいに花を咲かせそうな勢いの笑顔だった。


「ハジメさん、私、さっき、ウィルマやダリルちゃんたちがものすごくいい顔で笑って食べていたのを見て、もう、早く食べたくて食べたくてしょうがなかったんです! さっきハジメさんとスープを試食したときから楽しみで楽しみで、もう、いたもたってもいられなかったんです」

「わたしも、わたしもだよハジメ! リゼやダリルたちがすっごい幸せそうに食べてるの見てて涎が溢れてたの」


 空の丼(本当にスープ一滴残っていないスッカラカンの丼だ)を前において、ヴィオレが両手で押さえた顔を耳まで朱に染めながら、上目遣いで僕をみつめている。

 サラはサラで口元を手の甲で拭う仕草をしながら、とろりとした目つきで僕に向かって左目を閉じてみせた。

 ここまで気に入ってもらえるなんて、徹夜してまで作った甲斐があったってもんだ。


「ガキどもが食い終わるまで、瞬き一回が千年にも思えたぜ。あたいは、暗い穴倉の中で何年もうずくまっているのは平気だったんだけどなぁ。あいつらが食べてるのを横目で見ながらおあずけ喰ってるのはほんとに辛かったぜぇ」

「こんなにもおいしい物を食べられるときが来るなんて……、あの時この世を滅ぼさなくてほんとうによかったのだわ」


 ルーデルとリュドミラがなにやら不穏なことを言いながら向き合って微笑んでいる。

 もちろんその前には空になった丼(こちらの丼もきれいにスープ一滴残っていない)が鎮座している。

 それにしても、SSSクラスの冒険者ってこの世を滅ぼすとかって言えちゃうんだ。おお怖っ。


「いやあ、よかったぁっ! このお料理を世界最高だと感じていたのは非才だけではないと安心したしました」

 

 衝動の扉が勢いよく開いて、エフィさんがまろびそうになりながら入ってきた。

 ん? だいぶ足元が怪しいぞ?


「ええ、エフィ・ドゥ。この『ラーメン』というお料理は世界一ですよ。このお料理を食べたものは等しく幸せなひと時を過ごせることでしょう。『ラーメン』に生命の女神イフェの祝福を!」

「うむ、確かに!『ラーメン』には食べたもの全てが等しく幸せにする力があると我も思う『ラーメン』に大地母神ルーティエの祝福を!」

「ハジメが作ったもので、食べた者が等しく幸せになるものは『あいすくりん』もふさわしい。『ラーメン』と『アイスクリン』に冥界主宰神ミリュヘの祝福を!」


 はいはいーっ! お食事が終わったらお出ししますからね。アイスクリンちゃんと作ってありますからっ!

 自称冥界の主宰様の使徒さまの絡み付いてくるようなジットリとした視線に僕は心の中で五体投地して答える。

 ってか、今、めが……もとい、使徒様方、何気にものすごいことしませんでした?

 僕の耳には『ラーメン』に神様の祝福を与えられたように聞こえたんですけれど。


「うははははははッ! 食べ物に祝福とは、有史以来、海の水から塩を精製したときから二例目の快挙でございます! おおッ、聖下方もラーメンをかように思われましたかッ! ああっ! おいでになっていたことは教場からも感じてまして存じておりましたが、娘たちの教導がございましたので、はあぁっ!ご挨拶が遅れました。聖下方のヴェルモンへの度重なるご降臨、誠に……」


 我が意を得たりといった満面の笑顔でエフィさんが自称使徒様方の前で跪く。

 ん? なんか様子がおかしいぞ。


「それはよしてくださいなエフィ・ドゥ」

「我からも頼むエフィ・ドゥ」


「ウィルマぁ、ガキどもはもういいのかよ」

「そうね、いつもなら、あの子達が寝床に入るのはまだ先だと思うのだけれど?」

「ええ、それがでございます、みんな講義の最中から舟を漕ぎ始めまして、いつもよりだいぶ早かったのでございますが、皆、就寝させましたのでございます」


 ルーデルたちの問いに答え、エフィさんが慇懃に腰を折る。

 実に洗練され貴族然とした動作なんだけれど、どうにもインチキ貴族っぽく見えてしまう。

 いつもの誠実さが見えてこないというか、上流階級特有の虚礼が透けて見えるというかそんな感じだ。


「エフィ・ドゥ、御酒を過ごしたようじゃの?」


 自称使徒ヘミリュ様がいきなり核心をついた。

 そうだ、これは酒に酔った症状だ。

 しかも、かなり深酔いしている状況だ。

 エフィさんがルーデルやリュドミラみたいなことするか?


「ははっ! ヘミリュ聖下におかれましては、ご機嫌麗しゅう。仰せのとおり、非才、少し酔っているやも知れませぬ。で、ございますが聖下! 非才、本日一滴たりとも御神酒はいただいておりませぬ。このような醜態を晒すようなものは誓って口にしては下りませぬ」

「よい、エフィ・ドゥ今宵は、誠、旨いものを食したる祝いじゃ無礼講じゃ」


 そうだ、女神様……もとい、自称使徒様方を目の前にしたエフィさんはもっとこう、それこそ腰を抜かしたように五体投地してなかったか?

 こんなお貴族様みたいなきざったらしい跪礼なんてしなかったぞ。

 たとえ、酒を飲んでたとしても、こんなふざけてるとしかいえないような態度をとる人じゃないことは、付き合いは短いけれどわかっている。

 なんつったって戦友だからね。

 これは明らかに異常事態だ!


「ん? まてよ……」


 そういえば、さっき、ラーメンを食べたとたん、女の子たちが急に明るく元気なったような感じがした。

 頬を真っ赤にして目をウルウルさせて……、そうだ、まるで酒飲んだみたいな顔してた。

 そういえば、さっき、エフィさんは女の子たちはもう全員寝かせたって言ってたっけ。

 僕のは血の気が引いていくのが自覚できた。

 あの時は旨いもんを食って上機嫌になって、あんな表情になったんだと思っていたけれど、事態はそんな上等なもんじゃなかった。

 僕は慌ててヴィオレッタとサラを見る。

 ………………っ!


「どうしたんですかハジメさん……あら、みなさんお顔ちょっと怖いですよ」

「ハジメ、ハジメぇっ、わたし、もっと食べたい!」

「ええ、私もです。そうですね、私もお代わりしたいです。ハジメさん作っていただけますか?」


 ふたりとも頬を染め、目が潤んでいる。

 そして、いつもにまして朗らかだった。

 僕は、自称使徒様方とリュドミラ、ルーデルを振り向いた。


「あっちゃー……、こりゃあ……」

「やっちゃったわね……」


 恋人の前で致命的な失態をした親友を目撃したような半笑いでルーデルとリュドミラが目を覆う。


「はあ、やっちゃったかぁ……」


 僕は落胆のあまり天井を仰いだ。


「ハジメさん……とっても残念なんですけれど」


 イフェ様の声に振り向くと、生命の女神様は大好きなオモチャを意地悪な兄弟に隠された女児のような表情で僕を哀れんでくださっている。


「ええ、そうですねイフェ様……これじゃあとても……」

「我がやろうか?」

「いいえ、わたしが……」


 イフェ様がきっと顔を引き締めて厳かに宣言したのだった。


「生命の女神イフェの名において『オーク骨ラーメン』を禁菜とします」


17/08/20 第104話 この世界初のラーメンは女神様方の祝福を受けた。受けたけれども…… の公開を開始しました。

ご愛読誠にありがとうございます。

最近の日照不足のせいでお野菜が危機的な状況だそうです。

暑いのは苦手ですけれど野菜不足よりはましだと思います。

状況の好転を祈っております。

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