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転生グルマン! 異世界食材を食い尽くせ  作者: 茅野平兵朗
第1章 ラーメン王に俺はなる! の巻
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第7話 隷属契約の儀式はできれば人気のない屋外がおススメだ。なぜなら……

この小説を書いているとお腹が空いてきます。

「んくうううううッ!」

 ヴィオレッタお嬢様は目を見開き、口角から一筋の雫をたらして全身を痙攣させ、がくりとくず折れる。

「だ、だいじょうぶなんですか?」

 更にうつぶせに倒れこみ、全身を釣り上げられた鰹のように戦慄かせている。

 僕は奴隷商に問いかける。

「大丈夫です。これは、この奴隷の体の髪の毛の先から足の爪の先まで、ご主人様への服従心を書き込む儀式なのです。ですから、これくらいの反応はあるものなのです」

 やがて、ヴィオレッタお嬢様の前進に走っていた稲妻が収まっていく。

「はあ、はあ、はあ……」

 ヴィオレッタお嬢様は肩で息をしながら立ち上がる。

「では、これを持ちなさい」

 奴隷商が胴締めのベルトに挿してあるナイフを抜いて、ヴィオレッタお嬢様に渡す。

 ナイフを持ったお嬢様の手を掴んで僕に押し付ける。


 何してくれやがる! ヴィオレッタ様に俺を刺し殺させるつもりか!


「ぎゃん!」

 ところが、短い悲鳴を上げて、雷に打たれたようにその場に倒れたのはヴィオレッタお嬢様だった。

「はい、隷属契約は完全に完璧に成されております。主人に危害を加えようとすると、このように全身に耐えがたい痛みが走ります」


 なんだって? 奴隷契約がなっているかどうかを確かめるためだけに、お嬢様をこんな痛そうな目に遭わせたのか?


「こうするのが、決まりなんですよ。もう、千年以上前から、奴隷取引の際にはこうしてるんです。初めて奴隷を購入された方は、そう、あなたみたいな顔をされます」

 ならしかたない。僕はだまってうなずく。

「はい、これで、姉のほうの契約は完了しました。次は妹の方をお願いしますよ」

 僕はさっき切った傷口を爪先で捲り、再び出血させる。

「ハジメ…さま……」

 サラお嬢様がおびえた瞳で僕を見上げる。

「少しの我慢ですお嬢様。僕がお嬢様のことを抱っこしててさしあげますから」

 サラお嬢様を安心させようとその小さな体を抱きしめる。

 そして、ついさっきと同じように、登記証書にサイン血判して、血をサラお嬢様の首輪に滴らせる。

「太陽と月の神にかけて、ここに隷属の印を施す。死が主従を分かつか、契約が廃されるまで、本契約により、汎用奴隷セアラ・クラーラ・ゼーゼマンは旅人ハジメに隷属するものとする」

 サラお嬢様の首輪が青白く光り、稲妻がサラお嬢様の小さな体を疾駆する。

「きゃあああああああああッ!」

 僕は激しく痙攣するサラお嬢様を抱き締める。

 稲妻は僕を感電させはしなかった。

「あ、あ、あ、あ、あああああッ! あ~~~~~~~~~~~ッ!」

 ガクンとサラお嬢様の体から力が抜ける、気を失ったようだ。

 やがて、稲妻が収まり、お嬢様方と僕の隷属契約は、今度こそ全て終了したのだった。

「気を失っているから、さっきみたいなのは無しでいいでしょうか?」

 僕はさっきヴィオレッタお嬢様にさせたことを、サラお嬢様にはさせたくはなかった。

「ええ、まあ、仕方ありませんね。……ではこれで、引渡しは終了です。よい買い物をされましたな」

 僕は、その声はあえて無視して、サラお嬢様を抱いて、登記書類を44番と45番に回収してもらい、応接室を後にする。

 もちろんすぐに契約は解除する予定なので、ゼーゼマンさんが俺との契約を解除するときに使っていた榊みたいなものをもらってきている。

 お嬢様方を伴って馬車に向かう途中、ツンとかすかに尿の匂いがしたのは、ヴィオレッタお嬢様が粗相したものか、サラお嬢様のものなのか。僕は、確認しなかった。

 それよりも、ゼーゼマンさんの遺言の始めの一歩を達成できたことにホッとしていた。

 僕は、ゼーゼマンさんに二人のお嬢様を託されたのだ。

 お二人が、いずれ、よい方お相手に恵まれ、嫁ぐその日まで。僕が、ゼーゼマンさんの代わりにお二人を護り育むことを託されたのだ。

 戦闘獣人の奴隷二人を報酬として。ってふうに僕は思っているんだけど、それでおKだよなぁ。

 奴隷商人の館を出て、馬車に乗り込んだ僕らは一路ゼーゼマン商会に向かう。

 馬車の御者台には手綱を取る45番と周囲の警戒の44番。

 ゼーゼマン商会の建物は、まだ売りに出されていなかった。ゼーゼマンさんの死は、まだ、僕と45番と44番が知っているだけで、他の誰も知らない。だから、お屋敷はまだゼーゼマンさんのものなのだ。

 お屋敷のエントランスには、まだ、ゼーゼマンさんの遺体が横たわっている。

 これからやることは、まず、ゼーゼマンさんの死をお嬢様方に知らせ、受け入れてもらい、葬儀。屋敷や、財産が残っていればその相続の手続き。そういう法があればだけど。

 まあ、それは、お嬢様が知っているだろうから、早めに立ち直ってもらわないとな。

 のんびりしている暇はない。

 ないけど……。肉親と死別するってことは相当なショックだと思われるので、どう対処したらいいか分からない。

 この世界にはパソコンもインターネットもないから。2ち○んで相談するわけにはいかない。

 はてどうしたものか……。と、考えている僕にヴィオレッタお嬢様が話しかけてきた。

「あぃ……ハジメ様、あなたには、どれだけ言葉を尽くしても、その恩に報いることはできませんね。本当に、わたくしをあなたのものにしていただくしか、わたくしはあなたに恩をお返しする致し方を思いつきません」

 太ももに、気を失ったままのサラお嬢様の頭を乗せ、愛らしい寝顔を眺めながら金髪を指ですき微笑むヴィオレッタお嬢様。

「いいえ、僕はゼーゼマンさんに頼まれましたから」

「でもそんなことで、あんな途方もない大金を……」

「シッ!」

 45番が僕たちに振り向き、口に人差し指を立てる。

 馬車がゆっくりと速度を落としやがて停止する。

 大通りを通ってはずなのに、なぜか人気がない。

「なあ、ものは相談なんだが……」

 よく響く陰鬱な声と一緒に、路地の暗がりが染み出してきたように男が現れた。

 男は、奴隷商のオークションハウスで僕とお嬢様方をかけて競った、王都のネコチェルン一家とかいう……たぶんヤクザの幹部だ。

「その、娘っこふたり、置いていってくんねえかな。代金は……そうだな、あんちゃんの命ってことで」

 僕の命と引き換えに、お嬢様方を引き渡せってこと?

  

 その、あまりにもな物言いに、瞬間的に頭がカッと熱くなる。

 んなことできるわけねえだろ! 寝言は寝てから言えだバカヤロウ!


「だめだ、この二人は俺が買った。もう隷属契約を済ませている」

 俺はヤクザの無理な取引の提案を即座に断る。

 語尾にバカヤロウをつけなかっただけ、まだ冷静だ。

 だが、十分にたんぱく質が変成する温度は超えている。

 この男との間に先端を開く準備はできている。いつでもやってやるぞこのやろう状態だ。

 まあ、甚だ他力本願で恥ずかしいことこの上ないが、この際だから、頼らせてもらう。

 ゼーゼマンさんから譲り受けた美しすぎるケモミミ戦闘奴隷たちに、この阿呆を叩きのめしてもらおう。

 大体暴力なんてものは、一般人に順法精神があるから、暴力へ訴えるという脅しが効果的なわけで、一般人が法を犯す覚悟さえ決めてしまえば、後は純粋に力と力の勝負だ。力さえあれば、こんな脅しは屁でもない。

「だからな、あんちゃんを殺してもイインダヨ俺はな。そっちのほうが話が早い。死か契約が破棄されるっまでって隷属契約したろ。だけどまあ、俺もな、むやみに人を殺したくはないんだ、いいかげん殺しには飽きが来てるんだよ。だから、隷属契約の破棄はこっちでテキトーにやるから、あんちゃんはその娘っ子二人を置いてってくれるだけでいいんだ。そのかわり、あんちゃんは命拾いする。WINWINだろ?」

 蛆虫がわいて、スポンジ状になった脳みそが思いつく提案だな。わかるぞ、貴様はお嬢様二人を渡して、俺が背中を向けたら、後ろから切りつけるか、鈍器で殴るかして殺すつもりだな。

「44番、45番! なるべく殺さない方向で…な」

 取ってつけたように、不殺を命じる。44番と45番ならきっと楽勝だ。

「かしこまりましたご主人様!」

 風のように二人の美獣人の戦闘奴隷が御者台から飛び出してゆく。

「あーあ、やぁっぱ、こうなるのか……やだねえ」

 男が指を鳴らす。

 俺たちは二十人からの、反社会的組織に関与していると思われる男たちに、囲まれたのだった。

16/09/30 第7話公開開始です。毎度アクセスならびにブクマ、誠にありがとうございます。

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