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9位目

目をとめて下さってありがとうございます。

「まあ、あんまり礼儀としてなんなんだけどさ」


 故郷を出発して二日目。今日も今日とて僕らは隊商の乗り合い馬車で揺られている。途中で農夫っぽい男性が一人降りて別の農夫っぽい男性が乗ったり、騎士風の男性が降りて農夫風の男性が乗ったり、商人風の男性が新たに乗り込んできたりしたけど、おおむね状況に変化は無い。相変わらずヴァクシャサ以外の乗客は僕を避けるし、ヴァクシャサはやたらのんびりしている。


「はい、なんですか?」

「その鍬さ、そうなんだろ? ってことは地精霊?」


 基本的に彼女は退屈をしない性格なのか、あるいはよっぽど外の景色が珍しいのか、話しかけるのは僕からになることが多い……今更多分嫌われてるってことは無いと思うけど。

 なにか話しかければちゃんと会話になるし。


「そうですけど……礼儀ってなんですか?」

「ん? 個人的な友人のことを人に聞くのってなにか変じゃないか」

「はぁ、友人ですか?」

「もちろん単なる好奇心じゃなくて、ちゃんと意味があって聞いてるつもりだけどさ」

「ああ、いえ。別に気にしませんけど」

「そう?」

「ええ、見てわかることを確認してるだけなら……そうですね、『綺麗な髪飾りですね』とか聞かれるのと同じ感覚です」


 そうなんだろうか? こっちとしては、『その髪飾り送ったのは誰ですか』とか聞くくらいの気持ちなんだけど。もちろん、それだって大した話じゃないとは思うかもしれないけど、ほとんど初対面の相手とする話じゃないような気はする。

 だいたい、精霊を借り受けるのは身を守るためだと言うことを、この子はどれくらい理解してるんだろうか? ちょっと話した程度の相手に聞かれて、あっさり答えるべきことじゃないと思うんだけど。


「それで、意味があるって言ってましたけど、どんなことですか?」

「……っああ、えーとだね。どうして地精霊を選んだのかと思ってさ」

「それって……単なる好奇心じゃないですか」

「いや、そうじゃないんだけど」


 どうしようかなぁ。結局昨日は話せなかったんだよな、僕もガロンガルに勤めるって。今更言い出しづらくはあるんだけど、同じ場所で勤める異邦人同士としては……ああ、だからあっさり地精霊だと口にしたのかな。別にこれっきりあうことが無い相手に何を言っても大丈夫だと、だとしたらまあそれなりに信頼出来ると言うか、案外ちゃんと考えてるんだなって思えるんだけど。

 じっと目を見てみる。相変わらず開いてるのか開いてないのかなに考えてるのかさっぱりわからない目だ。見られた彼女はと言うと、一拍おいて首を傾げている。うーん。


「君は、野菜を育てたりとか出来るのかな」


 辺境の村の教師なんて、本当に最悪の仕事だ。

 まず給料がほとんどでない。四半期に一度治めている都市 くにからの査定人が来て仕事っぷりを確認し、そしてそれに応じた給料を払ってくれるわけだけど……馬鹿みたいに安いし、村に行商人が来るか徒歩二日のその都市まで行かないとお金なんて使えない。

 職業斡旋所じゃ教えてくれなかったけど、村が呼ぶのではなくて国が配置するのだから村から好意的に受け入れられるわけでもなく、よってしばらくは自活出来る手段が無いといけないとは僕の担当の弁。彼女の場合女性だから就職兼どこかの家に嫁入りでもするのかとも一瞬思ったけど、あまりに荷物が少ないしそういう雰囲気じゃない。それなら其れこそこっちまで迎えが来ても良いだろうし。


「え? 出来ませんよ。料理ならちょっとは覚えがありますけど」

「そうか。いや、地精霊が力を貸してくれると野菜が美味しくなるんだよ」

「……もしかして、イルさんは小作人なんですか?」


 だろうなぁと思っていたら逆に聞き返されて眉をひそめられた。いや、ある意味間違ってないけどな。自活のためにはある程度農耕生活も必要なのだから。

 もちろん農耕生活初めても一日目から食うものが手に入るわけでもないから、それにしたって準備が必要にはなるけど、当然僕にはその準備もある。袋の中にはいくらか買い込んでおいた酒と薬があるから、最初はそれと物々交換で食べ物を確保するつもりだし、ある程度薬をばらまいておけば近辺でとれる薬草の知識でもそれなりに食いつなぐことが出来るだろうと睨んでいる。その間に近くの土地を耕して畑を作り、自活の準備を整える予定だ。それにジスコもいたら鳥でも落として食卓に彩りを加えることが出来たかもしれないけど……まあ無い物ねだりはしてもしょうがない。

 ちなみに土地やなんかは諸事情あって人がいなくなり村が召し上げたものを借り受けることになっている。たぶん、彼女が知らないだけでヴァクシャサもそうだろう。


「別にそうじゃないけど、生きるためには大事な知識だよ」

「そうですか……?」


 疑るような目つき。というか、小作人だとしてそれがなにか悪いのか。離れたところに座っている農夫っぽい男性達も若干不機嫌そうな気配を漂わせているし。うーん……この子やっぱりすごく箱入りっていうか……一人で世間に放り出しちゃダメだと思うんだけど親は何をやってるんだろう。

 うーん、不安だ。

主人公の任地の名前間違えてましたーorz ので6位目修正。

どうでもいいかもですが、ガロンガルは『黄色の五番』。ハルウルンは『刃は要らない』と言う意味です。多分。

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