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五位目

 結局、風精霊の部屋には行かずに中央の広間に来てしまった。

 広間には今まで通ってきた部屋それぞれにつながる廊下と、屋敷の裏口に通じる一本の廊下がある。この場所で僕は、改めてどの精霊と旅に出るか決めるのだ。そしてその部屋に赴き、精霊と契約を交わし裏門から出て行く。なんで裏門から出て行くのかは……よく知らない。そう言うモノなのだそうだ。というか精霊とのあれこれは基本的に『よくわからないけどそう言うモノ』なんだけどね。そう言う意味で言えば、旅立ちの日は絶対全精霊の部屋を回るって言うのは比較的わかりやすい決まり事のような気がしてきた。


「さて、どうするんだい?」

「えー……どうしましょう」


 廊下はそれぞれの精霊にあわせて色分けされている。水精霊の青、火精霊の赤、地精霊の橙、風精霊の緑、光精霊の黄。光精霊は、興味がない訳じゃないけどさっきの今で流石に契約してくれる相手がいるとも思えない。風精霊は個人的な感傷……ジスコへの未練もあるし今回は遠慮させてもらおう。となると、道は3つ。青か、赤か、みど……橙か。


「ほれ、ここに三つの道があるじゃろう」


 いや、それは言われなくても知ってますって。


「赤を選ぶかい? この先にいるのは火の精霊。地方の村にはまだ精霊使いがおらんと聞く。火を起こし火を保ち火を踊らせるその力は、彼らから尊敬の眼差しを集めるだろう。火精霊が待つ赤の道にするかい?」


 なんなんですか、その解説は。とは思ったけど。何となく口にするのははばかられた。


「橙を選ぶかい? その先にいるのは地の精霊。死を飲み下し、あるいは命を育む大地で遊ぶそれらの力は、その命の限り何者からも羨望の目で見られるだろう。地精霊が待つ橙の道にするかい?」


 なんて言うか、今のヨゼウさんはあんまり僕に関心がないっていうか、僕個人を見ている感じじゃない。いや、これ以上ないくらい僕自身を見てるんだけど、語ってる内容があんまり僕とは関係ないような? なにかを伝えようとしてるのか、何かを教えようとしてるのか……でも、やっぱり今まで何度も聞いたことがある文言だ。ヨゼウさんの後について回って、何度も何度も聞いた。水精霊の部屋で瓶を拭きながら、地精霊の部屋で土を耕しながら、火精霊の部屋で薪を暖炉に放り込みながら、風精霊の部屋でジスコと歌を歌いながら、光精霊の部屋で石の床を磨きながら。時には廊下を掃いたり、割れたタイルを交換したりしながら、いろんなことを先取りして教えてもらって、


「青を選ぶかい?」

「その先にいるのは水の精霊。人によって川から引き入れられ、時によって空から降り注ぐ」

「人が求め人の手に収まらぬ恵み、その力を統べるなら」

「その周りには求めるまでもなく人が集まるだろう……でしたっけ」

「水精霊が待つ青の道にするかい? ってね。うん、おまえさんなら大丈夫そうだ。後は自分で考えな」


 言いたいだけ言ったヨゼウさんは唐突に身を翻して歩き出す。

 えーと、意味が分からないんですが。


「え、いきなりなんですか?」

「ああ、おまえさんには見えないだろうけど今耳元に風精霊が一片来ててね、次のお客さんだと。いつまでもお前さんに構ってられないんだ。後は一人でやんな」


 ええー……そんなめちゃくちゃな話聞いたことないよ。館の中を一人で歩き回ってはいけないって、初めて来たときからずっと言い含められていた決まりなのに今更、それに途中で後から来た人とどこかの精霊の部屋で遭遇しちゃったらすごく気まずいと思うんだけど、特に契約ジスコの瞬間とか。

 というかそう言う心情的なことを全部抜きにしても色々ある。裏門から出た場合、どっちに行けば乗り合い馬車が来てる街の交商区に出られるのかとか、入り口に荷物おいてきちゃったけどそれ今どうなってるのかとか……まだまだ聞きたいのにそう言おうとした頃にはヨゼウさんの姿は既に消えていたのだった……一体どこに? っというか、僕はどうやってこの広間に入ったんだろうか? 気がついたら五色の廊下以外に道が無くなってるんだけど。普通に考えたら黄色の廊下から来たんだよね……広間に入ってから一周ぐるっと見回したせいでちょっと良くわかんなくなってるだけで。それだとヨゼウさんがどこに消えたのかはさっぱりわからないけど気にしたら負けと言うことで。

 というか、いい加減決めないとダメだ。何を言っても今更ジスコを待つ時間はない。今日旅立つのが何人かは知らないけど、たった五人と言うことはないだろう。なら、これ以上迷惑にならないうちにちゃんとした答えを出さないと。

 初めて見る三つ子の精霊『三つ子の青炎』とやらか、美味しい野菜を提供してくれるかもしれない『地精霊』か、なんとなくすごいハズレをひかされた感じがする『若さんの形の水精霊』か。

 うーん……


「せっかくだから僕は……」

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