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43位目

 そそくさと横を通り抜けて与えられたばかりの家に戻る。幸い、今度は近くに子供が潜んでいるということも無いみたいだ。泥だんごぶつけられるのも蛙を投げつけられるのも構わないけど、水を汲んできたばかりの鍋にそれが入るなんてことだけは勘弁してほしいしね。


「もどりましたよー……って返事があるわけ無いか」


——Bow!——


「うんうん。お前はいい子だね。でも返事がほしい相手は先に家にいる相手だから、まあ、この場合はアルファートかな」


 頭を擦り付けてくる地精霊アステラの、まるきり大型犬のような仕草と態度にその頭を撫でることで応えてみる。嫌じゃ無いといいんだけど……まあ反応はどうせ読めないしその辺に割く気持ちはほどほどにしておこう。今一番重要なのはヴァクシャサの回復だ。鍋を抱えたまま居間に入ると、暖炉の前で毛布やらなんやらが奇怪な天幕のような佇まいで鎮座しているという状態には一切変化がなかった。彼女は寝返り一つせず寝ているということか。


「アルファート、留守番ありがとう。あとで蛙の調理手伝ってくれるか?」


 暖炉に一声かけると、火精霊 アルファートは暖炉から角灯に移っていった。いや、普段から半ば依り代扱いしてるところを鑑みれば帰って行ったと言うべきところだろうか? まあ、正式に依り代にしたわけじゃ無いんだけど、そうして馴染んでくれた方がこちらとしても暮らし良いしなぁ。

 ともあれ、ちゃんと留守番を完遂してくれたことに少しほっとする。同時に留守番を感謝することばの意味合いはちゃんと伝わったらしいことにもだが。かなりこっちの主体で話を進められるよな……よっぽど警戒心とかが薄い性質 たちなんだろうか。まさかとは思うけど、世にいる原型の精霊がみんなこうだってこと……無いか。無いな。そんなわけが無い。だったらもっとたくさんの精霊がこの場にいてもいいはずだ。ここに来るまでに僕が声をかけた精霊はアルファート こいつだけじゃ無いんだから。むしろ僕を気に入ってくれる精霊はみんなとんでもなく心が広い精霊だけだと解釈したほうがまだ目がある気がする。

 っと、今大事なのはヴァクシャサの看病だってば。毛布にくるまって寝ている彼女の傍に膝をつき、軽く肩をゆすってみる。


「ヴァクシャサ、起きてくれないか」

「……」

「飯はまだだけど、とりあえず水分取らないと」

「……」

「頼む、起きてくれ」

「……ぅ」

「お?」

「……うぅ……ぁあ」

「そうだ、起きてくれ」

「……ぁ」


 繰り返し肩を揺すりながら声をかけてはいるが、いまいち反応が芳しく無い。起きてくれないと困るんだけどな。どうしたものか。そろそろ多少手荒な手段にでも出るべきだろうか。本当にこの村にきてからまだ何もしてないんだ。いつまでも何もしないでいるわけにもいかないか。

 よし。


「ヴァクシャサ、ヴァクシャサ・ヴァクシャサヴォナ。君は君のために働くんだろう。いつまでも病気で寝込んでていいのか」

「……」

「要するにな、いつまでも甘えてんな」

「ぴぎぃ!?」


 顔を正面に向かせて、その頰を軽く右手で張った。言っちゃなんだけど、なんだかちょっと面白い悲鳴が上がったな。彼女はふるふると頭を振って、目を開く。


「い゛、い゛る゛さ゛ん゛」

「ああ、ようやく起きたね。悪いけど医術師にかかる余裕も無いから、多少手荒なのはおおめに見てほしいな」

「な゛、な゛に゛す゛る゛んく゛っつ゛う゛!」


 ついで身を起こそうとするのは押しとどめた。うーんと、彼女は自分の状態をどれだけ把握してるんだろうか? 

 最後に話したのは……ええと、村に来る前日の夜だったかな。その後一度もまともに目覚めてないんじゃ無いだろうか。一度先生がなんのとかうわごとは言ってたけど、完全にただのうわごとだったしな……むしろあれを最後に一切喋らなくなったから真剣に色々怖かった。河原で目覚めた時も自分で水飲んだり服を軽く洗濯したりしただけで水飲ませることだけは全くしなかったからなぁ。家に案内してもらった後かなり後悔したのを思い出した。


「鍋から直接で悪いけどとりあえず飲みなさい、水だ」

「あ゛う゛」


 首の後ろを軽く支えてやって口元に鍋を持っていくと、多少は事態を理解したのか震える手を伸ばしてそのふちを掴んで口を近づけ……音を立てて飲み始めた。案の定かなり乾いてるようだ。よしよし、少し落ちつてきたってことかな。とりあえず飲んで食わないと治るものも治らないからな。これが第一歩だ。飲み終わったらまた井戸まで行って、洗濯に使ったりする分を汲んでこないと。

 いや、それより先に食事か。


「よしよし、飲み終わったら蛙焼いてやるからな」

「ぶっ!」


 ヴァクシャサが突然水を吹き出し鍋を押しのける。その勢いで鍋からもかなり水がこぼれてしまった。せっかく布団代わりにしている外套もびしょ濡れだ。


「あ、こら何するんだ! 水がもったい無いだろ」

「ば、ばえ、え、かえる? やく?」

「どうかしたか?」


 あ、そうか。ヴァクシャサもしかして蛙が駄目なのか? ……黙って食わせればよかったな。

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