42位目
どうでもいいとか言ってたのにね、ちょっと驚いた。
とりあえず手放した剣が精霊の即席沼に飲み込まれているを見届けて、同じように沈んで行こうとする鍋を大鎌の先でひろいあげる。顔の横をかすめたその刃にミグナはずいぶん驚いたようだから、とりあえず殺したりするような意図は無いんだと弁明しておくべきだろうか。本当に彼の言う通りの死神というわけでも無いんだし、あんまりそう思われてるのも気分良く無いしなぁ。
「ええとまあ、別に底なしとかでは無いでしょうし、そのうち出られるでしょう。僕は水を汲んで帰るので、もう邪魔はしないでください」
「好き放題言いやがって……」
好き放題……好き放題って言われてもな。
もう完全に沈んで見えなくなったとはいえ、剣を振り回しながら好き放題言ってきたのは彼の方だと思うんだ。こっちは早く戻ってヴァクシャサの看病してやりたいし、さっき助けてくれたばかりのアステラにお礼もしてやらなきゃいけない。それに僕がここにいるのは……この村に来たのはそれが仕事だからだ。天上都市 に住んでるわけでもなし、働くなというなら養ってもらわねば困るというものだ。
いや、たとえ養ってもらっていたとしても働かないなんてのはごめんだね。それでは僕が人を養うことができない。そんな状態の人間に生きてる価値があるだろうか? そんなの緩慢な自殺と変わらない。人は生きて、働いて、子をなして、次代を築いて……そこまでしてやっと一人前に生きたと言えると思うんだよ。
そこまでできる立派な大人になりたいわけだよ。そうじゃ無いと認めてもらえないんだから。
「まあ、僕は働かなければならないので、そのためには食べて飲まないといけないんです。それがわかっていただけたら……」
「知るか! 俺は! エイピスの仇を取るんだよ!」
「……まあ、わかっていただけないんだとしてもここで失礼します」
「くそ、剣……剣はどこに……!」
ええ……この後に及んで、沼に手を突っ込んで剣を探し始めたぞ。
「あ、ええと」
「剣……剣……剣……」
言いたいことがあるんだけど、余計なこと言っても聞いてくれそうに無いよな。
なんていうか、エリクシルの集中力がそろそろ尽きそうなんだけど……まあ、この人が地面に拘束される時間が長くなると思えば僕には有利だし、いいか。さすがに沼面に顔を突っ込んだりはしてないし、固まったところでそのまま顔が地面に埋まって死ぬなんてことは無いだろうしね。
「あの、沼の中に顔を入れるのだけはやめてくださいね……」
「剣……剣は……」
……もう、なんか気味が悪い。ほっといて帰ろう。
ええと井戸の状態に変わりは無いかな? 桶をゆっくり下げて……ん、水の音がする。水位はわからないけど、とりあえず水があることに間違いはなさそうだし、汲めるな。鍋の容量があれだから、家から井戸まで3往復くらいはしないとだめなんだろうけど……その間じゅう埋まってるミグナを無視し続けなきゃいけないのか。恐ろしいな。
「剣……剣……俺の剣……」
……い、いや。剣を振り回してくるあいつを無視し続けるのよりはだいぶん楽かも。
でも、なんにせよ早めに水桶とか大きめの水瓶とかたくさん用意したい。この村は陶器と木器、どっちが主流なんだろう? 金属器は……まあ、水の汲み置きには向かないけど、できればおっきい鍋とか欲しいんだよな。桶に焼け石も選択肢としてあるけど、せっかくあの家には竃があるんだし普通の鍋を火にかけて使いたい。
「剣……剣……俺の……」
っていうかそうか。汲み貯める容器内から、一回一回使い切らないといけないんだよな。ええと、洗濯物を済ませて桶を開ける……よりは先に腹ごしらえしないと。っていうか火精霊 に沸かしてもらって飲むところから始めるべきかな? うん。ヴァクシャサに飲ませて、僕も飲んで、もし余ったら蛙の調理に使って。
いや、それより先に水で蛙を洗ってそれから飲むか?
いやいや、ヴァクシャサもかなり汗をかいていたみたいだし、まずは水分の補給だな。それが全部済んだら改めて洗濯して桶を開けよう。
「……俺の……」
あの人いい加減怖い。
いつも読んでくださってありがとうございます。




