四位目
次回更新前後に、タイトルを『精霊使いは仕事じゃない』に変えます。
別に、僕が育てた風精霊がいなくなると言うのは、まぁ受け入れられるかどうかはおいといてあっても良いことだと思う。
もちろん、そんなことがあるとは思っていなかったからこうやって旅立ちの館訪問者の中で4番目の来訪者と言うことになっている訳だけど、常識的に考えたら僕がなにしてようと贔屓しなきゃいけないいわれも無いし、単純なルールとして館に来た人間にと館にいる精霊が、お互い共に旅をしたいとさえ思えばそれで成立する関係な訳で。
いや、ちょっと頭がごたごたしてるな。
とにかく、朝一で誰よりも早く来ると言うことを僕はしなかった。場合によってはジスコを他の誰かに取られてしまう可能性があったにも関わらずだ。
そこにはもちろん、甘えがあったと思う。ヨゼウさんが僕の心情をある程度慮って配慮してくれるんじゃないかとか、ジスコが僕以外の……ずっと一緒にいた僕以外の人間を選んで行ってしまう訳が無いと思っていたとか、だから先の3人のうちの誰かがジスコを連れて行ってしまったのだったら僕が文句を言う権利は無いんだろう。納得しなきゃいけない。
いや、別に今だって納得しなきゃいけない。精霊は『契約』するまで……いや、たとえしたとしても、人間の理で縛れる存在じゃない。あくまで、共に歩んでほしいと言う願いに精霊が応えるかどうかと言うだけの話しなのだから。
「っでも若さんが連れてったってのはおかしいですよ!」
思わず大声がでた。狭いところで大声を出した成果なんだか目がチカチカする。
別におかしくはないのかもしれない。若さんだって普通の女の子な訳で、精霊の館のお使いだろうとなんだろうと身の安全を守る努力はして当然な訳で。そうなれば精霊を連れて行くのも当たり前な訳で。
でも若さんにはさっきの水精霊みたいな、彼女が彼女なりに口説き育てた精霊がいるはずだ。そこでなぜあえて僕が口説いていたジスコを横取りする必要がある。ジスコと言う名前だって、言葉が通じないと言うのは承知の上で、共に歩んでほしいという気持ちを込めて使っていたのに……っていうか一度調子に乗ってあいつに真名を教えなかっただろうか。もちろん精霊は発声出来ないし、別に若さんや他の人間にそれが伝わる心配は無いと思うけど……
「いやぁ、あの子とずいぶん気があったみたいでねぇ」
「そう言う問題じゃなくてですね……!」
「大声出すんじゃないよ、気付かないのかい?」
気付くって何に? こっちとしては目がチカチカするし、精霊は一向に見えないし、なぜかヨゼウさんは上がってこないし、実を言うと狭くてくらいところ苦手だし……だから火精霊の部屋もあんまり入りたくなかったりした訳だけど……そろそろ降りたいんですが。
「鈍いね。見えないのかいと言ってるんだよ」
「見えるもなにもこの部屋で……」
あれ?
「もちろん悪いと思ってるよ。納得いかないのもわかってる」
さっきから目がチカチカすると思ってた。
「でも精霊と人間の間には口を出すことは出来ない。たとえ納得いかなくても、あの子が私が止めるより先にあの精霊と結んでしまえばどうしようもない」
でもこれは、違うのか。本物の光か。そっと手を伸ばすと、その掌にキラキラ光る四角く薄い板の塊のような物が降りてきた。静かに、脈動のように、暗くなり、明るくなる。これは、これが、もしかして今まで一度も見たことの無い、光精霊と言うモノなのか? でもなんで。
「だからね、まぁ私なりの贔屓だよ」
なんでこうなった? ここに入ったことは何度もある。これが贔屓だと言うなら、特別なことを何かしてるはずだ。ヨゼウさんが内緒にしてる、何か、光精霊に気に入られる何か。
扉が閉まってる、のはいつもだ。だからヨゼウさんの指示が無いと掃除にならない。さっき叫んだときに見えるようになった、ような気がするけどヨゼウさんを助け起こしながら叫んだことはある。一人で入ったことは……もちろんある、ヨゼウさんに頼まれて忘れ物を取りにきたときだ。時間は、別に関係ないと思う。他に何かあるか? 僕の持ち物をヨゼウさんが把握してるはずは無い。外から何かしてる様子も無い。なら、
「u.fu...lu.uru...ru...u.u-♪」
部屋中で、小さな光達が尾を引きながら飛び回り始めた。
「音、それに独り」
「ちょっと長くかかったね」
背後の扉が開いて、光達は一斉に姿を消してしまった。逆光で顔は見えないが、声も姿形もまごうこと無くヨゼウさんだ。多分、ニヤニヤ笑っていることだろう。
「別に、ごまかされませんからね」
「納得するしかないって、わかってるんだろう? それとも興味なかったかい?」
「そうは言いませんが」
扉を開けたまま、ヨゼウさんの影だけが消える。落ちたか、今までのとろとろした動きが嘘のような機敏さで降りたか。悲鳴の一つも聞こえず元気に杖を鳴らす音がするところを見ると、落ちた訳ではなさそうだ。というかそうか、今までは僕にジスコの話しをしたくなくてだらだらしてたのか。
もちろん一から十まで全てが演技だった訳じゃないだろうが、少なくとも肩の重荷は降りて元気百倍と。
「さ、風精霊の部屋はどうしようか」
「どうしようって……」
「あんな名前をつけておいて、他の子を連れて行くのかい?」
「それは……でもそんなこと言ったらそもそも他の精霊だって……」
「ついて行きたいと言うのは精霊の意思さ。受け入れるかどうか決めるのはお前さんだけどね」
「意味わかんないです」