第11位
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「ふぅっー……ふぅっー……ふぅっー……っ! よし着いた! これで湯が沸かせる」
集めた薪の上で火打石と金具を打ち合わせること20回ほど。ようやく火がついた。やはり火口になりそうなものが無かったのがマズかったか、薪にと集めた木の枝なんかも少し湿ってるし、諦めて外套の裏布をちぎって使った。若干切ない。けどやっぱり火が無いことにはどうしようもないからな。とりあえず桶に水をくんできてお湯を沸かそう。
村の生活用水を支える川辺、のちょっと上流で。僕は野営支度をおえて晩飯の支度を始めていた。適当な大きさの石を集めて竃を作り、薪を集めて火を起こす。灌木の間に外套を張って作った簡易天幕の保温性に不安はあるが、幸い乾期なので雨の心配はしなくていいだろうし、快適と言えないまでもそれなりに安心して夜を明かすことが出来ると思う。
しかしあれだな。しくじった。
上手くいかなかった。
『なんですかそれ! 馬鹿にしてるんですか! 私、貴方なんかのお世話になりません!』
とかなんとか。
馬鹿にしてるかと言えば……してるんだろうか。事情はわかるんだ。自分のいた場所は立派な孤児院だと、そう思いたいっていうか。そう思ってると言うか。変に卑屈になってるっていうか。いや、事実立派なところかもしれないけどその辺はわからないし。
……とりあえず今は彼女のことはそっとしておこう。明日以降は嫌でも顔を突き合わせっぱなしになるんだろうし。この辺りの水場はこの川辺だけだ。どこの宿にも泊まれず、誰かの家にお邪魔することも出来なければ確実にここには一度くるはずだし。ここより下流は生活排水とかの関係であんまり綺麗じゃないしな。
「ん、集まってきたな」
川から桶で水を汲んでもどってくると、竃のまわりにはいくつかの火球……いや、火球のように見えるナニカがふわふわと漂っていた。火精霊だ。残念ながら昨日は袖にされてしまったけど、今日はどうだろうか。蝋燭入りの角灯を竃の脇に置いておく。
ん……興味なさそう。今日も不発かな。まあ明日になってみないとわからないけど。
火精霊を見てるのはそれはそれで面白いけど、お腹がぎゅうぎゅうなりだしたのでとりあえず桶から鍋に水を汲み取り竃にのせる……うん、桶サイズだと中に水精霊がね。泳いでてね。実食のときに避けるのはそう難しくないんだけど、水精霊がゆだるのを見るのもなんか心臓に悪いっていうか、別にあいつらものともし無いんだけど……こらそこの風精霊、人の腹の音に反応して飛び回るな。腹の周りをくるくる回るな! つつくんじゃない! 音なら何でも良いのかお前ら、ってこらこらこらそこ火精霊と結託して火力を上げるな! 薪が足りなくなるだろ! くそっ、言葉が通じなくて止めようにも止められん……薪を持ってくるしかないのか。
森に実りが多いくていいなと思ってたけど、その分精霊も多いのか……っていうかこっちから見えてるのわかっててはしゃいでるんじゃないだろうな? このままじゃ晩飯の支度が出来ない。
「うぐぐ、ちょっと待ってろよ! 余計なことするなよ!」
言葉が通じないとわかっててもとっさにそんな言葉が出る。とりあえず追加の薪を入れるだけ入れて、その場を離れて薪を集めに行く。せっかく集めた荷物や集めた食べ物をおいていくのは若干不安だけど、まぁこの辺まできてわざわざ泥棒する奴もいないだろうし。依り代は流石に手放す気もないしね。
……でかくて重いんだよなこれ。なんか適当な道具に移れないか今度相談しよう。
「ま、これはこれで意図が伝わりやすくていいんだけどな。良し。ちょっと収穫手伝ってくれよ……『アステラ』」
宣言して軽く二度大鎌の柄で大地をとんとんと叩くと、応じて僕の影から飛び出した地精霊アステラがあっちこっちに跳ね回って、少しだけ土を盛り上がらせて印を作って行く。
今更だけど、僕が旅立ちの館で契約したのは農具である大鎌を依り代にした大型犬の姿の地精霊、名前はアステラ。なんでこの子を選んだかと言えば……まぁガロンガルが農村なのと、地精霊がなんだかんだで一番いざという時に馬力があると言うか。あと、妙に激しくなつかれてたからかなあ。
実際、こうやって僕の意図を綺麗に読み取って、周囲の枯れ枝や、葉の編みやすい植物のある場所、食べられる球根がある場所なんかをささっと印付けしてくれている。すごく有能だ。
「ん、ありがとう」
薪を集めて、葉っぱを根っこから切り取って。後は球根をいくつか掘り出す。どれも全部は採らないし、とったものの一部をアステラ用に取り分ける。
そういうのが、なんと言うか、明言しなくてもアステラとの契約の一部だ。多分。
「そういえば、さっき集まってた精霊達、どう思う?」
『Bow!』
「そっかー」
精霊にはあくまで力を貸してもらっているだけ。そうして僕が精霊に返せるのは、こういう形にならなさそうな気遣いとか、言葉で伝える人間らしい経験くらいで。
『Bow-wow! Woof-woooo...』
「ん……そっか、気をつける。多分あの子だとは思うんだけど……」
そうやって伝えたものが彼等の中で形になって、精霊としての成長になるらしい。だから当然、答えを期待して話し掛けてるわけじゃない。せいぜい本物の犬みたいに尻尾を振ってくれたら御の字ってところだ。そして、人間てものを伝えるためだからこそ、を逆に喋れないからといって向こうに迎合した交流手段を探したりもしないのだ。
『Hooooooooooooowl!!』
「うんうん。そうだよねー」
あの子は日が暮れるまでに顔出すのかなぁ。
……なんでここまで館で預かった精霊の情報出し惜しんだんでしょうね。自分でもよくわかりません。
ちなみにアステラが宿っているのは2ハンドルの農具らしい大鎌です。間違っても戦鎌ではありません。




