エピローグ 廻る日常
道路を歩く――――ゆっくりと。
道路を歩く――――ゆっくりと、ゆっくりと。
家からは三十分程の徒歩を経て、辿り着く目的地。
急ぐ必要は無い、慌てる必要は無い。
彼が言うには彼らはとても優しいから。
彼は…………優しいから。
彼は…………私に、教えてくれたから。
自分の気持ちに素直になること。
閉じこもらないこと。
過去を振り返りながらも――――現在を見て歩いていく、ことを。
悲しいことがあっても――――立ち止まらずに、歩き続けることを。
歩く、歩く…………目的地が見えてきた。
心の中は穏やか――――少し、怖いけど。
想起される世界は狭くて暗雲が漂ってるけど――――光が射してきた。
暗雲は消えてなくならないけど、光が、綻びから生じた隙間を縫って射してきた。
私独りの世界じゃ――――なくなってた。
だから――――
だからお母さん――――
“私、お母さんのこと――忘れません”
“私、桐島君達と――生きていきます”
“私は生きてるから、歩いて行きます”
胸に抱いた思いを、空に呟く。
歩く、歩く――――目的地に着く。
ドアの前、チャイムを鳴らす。
「――――――お、来たか」
彼の声。私を救ってくれた彼の声。
「会場は一階のリビング――――すぐそこだ」
がちゃりと扉を開け、手招きする。
おじゃまします、と言い、靴を脱ぎ、彼についていく。
「はい到着――――」
本当にすぐそこだった。十歩程度しか距離は無かった。
「雪村――――」
私を歓迎してくれる声。私を歓迎してくれる顔。
「――楽しもうぜ――――」
一緒に行こうと、言ってくれた。
「――はい、楽しみましょう――――」
私は、“空への思い”をもう一度彼に伝える為に、はっきりと返事をした――――




