中津文 対 バイラヴァ
「こ、れ――――?」
雪村先輩の右手の刻印に色が…………?
「何か、あった…………?」
そう言って彼らが消え去った方向へ目を向ける――何も無い方向へ。
「何だろう、この、感覚?」
彼らは突如、消滅した――――私の目にはそう、見えた。
「異界が、出来た…………?」
空間の中に空間が出来た……?
「――っと、そんなことよりも今のこと」
さっきまで、沈んだ黒色――
「――反応が無いって感じだったのに……」
今は赫灼と明滅、明滅、明滅――――
「――って、明滅っ?」
桐島先輩は言っていなかったか――――
「まさか――――」
バイラヴァの活動時は――――
「まさか、まさか――――」
「クッ、ハッッ――――!」
刻印が青く輝く、と。
「ハァッッ――――やっと出てこれた」
バ、バイラヴァ…………?
「ウーヌスの奴――――咒力供給とか何とか言って、我を閉じ込めやがって」
苛立っている……?
「徐々に弱くなったから良かったものを――――って、何だお前は――――?」
射抜くような鋭利な視線で私を視る。
「あなたを滅ぼしに来た者ですよ」
「――我を滅ぼす…………クッ、ハハハハハハハハハハハハハハ―――!」
哄笑――――腹の立つ声で。
「我を滅ぼす――――つまりは雪村衣鈴に送り込まれた鬼塊を壊す、と。――それ程の武器がおまえにはあると?」
「ええ――――ありますよ」
返事――――そして後ろに跳躍。
「天に悪しき神あり――――」
詠を始める――――
「名を天津甕星またの名を天香香背男と曰う――――――」
私はウーヌスノ睥睨を前に動けなかった。
「請う、先ず此の神を誅し、然る後に下りて葦原中國をはらわん――――」
雪村先輩や桐島先輩がピンチだったのに。
「是の時に齋主の神を齋主大人ともうす――――――!」
だから――――今度は、今度は。
「倭文神――――武刃槌命之劍――――!」
今度ぐらいは先輩達の役に立ってみせる――――――!
咒力を、ありったけの咒力を、全身全霊の咒力を――――篭める、篭める、篭める――――!!!
「これは…………」
バイラヴァの驚愕の声、貌。
「――面白い」
手を翳し、咒力の篭められていく気配。
「「――行くぞ――――!」」
疾る、疾る――彼我の距離約二十メートル。
「はッッ――――!」
振り下ろされた爪牙へ向けて一一閃――
肉薄――対峙――激突――!!!
「こん、の――――!」
火花を散らす劍と爪。
「死、ネ――――!」
「くっっ――――――」
腕が痺れる。手が痛む。肩に大きな違和感。
「つっっ――――――」
強い。この一撃は強い。ここ数日で最強といっていいほどに。
「つっっ――――――!」
でも、相手が強くても、どれだけ強くても――私は敗けられない――――――!!!
「は、あッッ――――!」
押し返せ、押し返せ――――――!!!
その為の武刃槌命之剣だ。
その為の中津文だ――――――――!!!
「や、ぁあああッッッッ――――!!」
「なッッ――――!?」
剣を振りぬいた。押し返した、押し返した。
「い、まだ――――――」
相手は私の剣戟に衝撃を受け、その爪牙は麻痺している筈だ。
今こそここに、終焉を――――――!!!
「はッッッ――――――!」
刀を両手で逆手に持ち――――右手の甲へ放て、その戟を――――!!!
「ア――――――?」
ギン、と何かが壊れた音がした。
「――――づッッ!」
目映い青い光――眼を開けていられない――――
「ヲ、まえ――――な、にヲ――――」
閃光の後には再び明滅する青い刻印。
驚愕――――そして恐懼の表情。
「na,naナナななナ、ニニに**にお***ををを■おまあ■■あsg■■hけ――――――や、m‘|{=eya、。・や&=~mero,meromeormeroy*hy++hyyawowayヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
おそらくは深淵の狂言――――そして、ぱたりと糸が切れたように倒れ落ちた。
刻印は黒く沈み――形すらも消滅した。
雪村先輩は――解放された、のか――?
「雪村先輩っ――――」
倒れ落ちた躯に駆け寄り、肩を揺さぶる。
「――――う、ん?」
ゆっくりと瞼が開く。
「…………どちら様、ですか?」
「ええと私は桐島先輩についてきた――」
「桐島君――――桐島君がここに来てるんですか?」
「あ、はい――――ウーヌスと戦っています」
「戦っている――――――」
呟いて、昏い表情に。
「今は待ちましょう――――今、私たちには何も出来ません」
ただ、待つことしか。無事を祈るしか。
「桐島君――――」
雪村先輩の呟き。
桐島先輩へのその響きには、やはり昏いものが感じられた。




