伏矢ノ紅②
「我が空宿すは火天の焔――――」
詠が――始まる。
「紅蓮の劫火、灼熱の烈火、極絶の烙火――――」
化外王権第一位の火天の詠が。
「火、炎、焱――――」
火、炎、焱――――燚を呼び込む真語。
「今ここに三なる業火を以て燚を創造する――――」
燚――――火天の焔。
「我が化外王権第一位である焔を顕現させん――――!」
火であり、炎であり、焱である焔。
「燚獄咒空――――火天に坐す熾燉の焔――――」
今ここに――――炎の異界が生じた。
******
炎ノ――異界――――?
熱サハ感ジナイ。焔ハ感ジナイ。
周リハ公園ノ風景ダ――――ジャングルジム、ブランコ、鉄棒、砂場。
ナノニ――――ナンダ、コノ違和感ハ。
今ニモ炎ガ奔ッテキソウナ気配ハ。
天ハ赤ク、縦ニ奔ル線ハ朱赤ク。
アレハ壁――――? イツノマニカ公園ノ端ニ地面ト直交スル線ガアル。
ソレハ四方全テニ存在シテイル――アア、異界ト感ジタノハコレガ原因カ。
オソラクハ公園ホボ全域ヲ炎ノ直方体デ囲ンデイルノダロウ――――雪村ノベンチノアタリヲ除イテ。
炎壁――――ナルホド、異界ト感ジサセタノハコレダナ。
コレラ全テハ――――
「ヲマエノサッキ唱エタヤツノ効果ッテワケカ」
「――ご名答、これは先程の詠唱によって出現したさせた炎の異界だ――――バイラヴァから聞いたであろう、五大属性は火、水、地、風、そして――――空なのだ、と」
――――空。確カソレハ――
「空間性を示すのだよ――――アカシャは。つまりはそういうことだ」
空間性――――異界。咒界。
「能力は至って単純。炎の行使の幅が広くなるだけだ」
「フゥン――――ンデ、具体的ニハドンナコトガ出来ルンダ」
「――――例えばこんなことが――」
紅炎出現――――約ニ十程ノ投擲槍ガウーヌスノ背後ノ炎壁カラヲレニ向カッテ放タレル――――
「――――遅イゾ」
――――ガ、右ニ跳躍回避。不可也。
ソノ迅サジャ、ヲレヲ捉エラレナイ。ソノ熱サジャ、ヲレヲ殺セナイ。
「やはり――――想像以上に強い、な」
愉しめそうだ、と口元ヲ歪マセル。
「今度は、倍速でいくとしよう――――」
ソノ言葉ヲ契機ニ、再ビ約二十程ノジャベリンガ放タレル――――
「マダ遅イ」
今度はソノジャベリンノ悉クヲ斬壊――――容易イモノダ。
サッキモ言ッタ通リ、ソノ程度ジャヲレハ殺セナイノンダヨ――――
「シカシマア――――」
ヲレノ存在理由ハ、アインスノ殺害――――最優先ハソレ。
「殺ラセテモラウゾ――――」
ヲマエガソノ程度ナラバ殺シテヲワリ。楽ナ標的ダッタ。コノ疼キ、早々ニ鎮メルトシヨウ。
「死ネ――――」
鞘ヲ放リ投ゲ、臨戦態勢ヲ執ル。
彼我ノ距離約二十メートル――楽勝ダ。
コノ距離ナラバ秒ハ不要――――刹那ハオロカ六徳デ肉薄可能。
「ハッ――」
地ヲ強ク蹴リ、ウーヌスヘ――――
「ナ、ニ――――」
――――停止。紅炎出現――コレハドコカデ見タコトガアルヨウナ――――
コノ磁力線ニ沿ッテ煌クヨウナコレハ――――マサカ。
「――――顎炎」
太陽ノコロナ中ニ突キ出シタモノニソックリダ。
「シカシ――――」
ソノプロミネンスヲ――――
「ヲレヲ喰イ殺スヨウニ、アギトヲ開クヨウニ――――操作スルトハ、ナ――――」
ナルホド、炎ノ行使ノ幅ガ広ガルトハ確カニ。
全長十五メートルホドノプロミネンス。前方疾駆ハ不可能――――
「――――トデモ思ッタノカ」
襲イ掛カルプロミネンスニ突撃――ソシテ炎ヘ刀ヲ奔ラセル。
間隙――――生ジタ炎ト炎ノ隙間ヲ疾リヌケル。
「ふむ――――しかしこれはどうかな」
ジャベリン投擲――――モウ飽キタゾソレニハ。
回避スルノハ面倒ダ――――真正面カラ飛ビ込ムトシヨウ。
楽ナ標的ダッタ――――
「無理だ――――」
灼ケル感覚。
「エ――――」
失墜――――ドン、ト胸ニ衝撃。
「ア――――」
マサカ――――ジャベリンニ貫カレタトイウノカ、ヲレハ。
「ゴ、ホ――――」
吐血――――胸ニ孔ガアイテイル。
「イヤ――――」
コノ感覚、胸ダケジャナイ。
頬、肩、腕、手、太腿、脚、足――――胸ヲ加エタ計八箇所ガ貫カレタノカ。
「ダガ――――」
破損箇所再生――――何故ヤラレタ? 耐エウルホドノ躯ニ強化シタハズダ。
何故――――?
「簡単なことだ――――お前の戟化では耐え切れぬほどの炎を撃ったまで」
――――――――アア、ナルホド。
「咒力と咒力の激突では咒力の小さき方が敗ける――――自明の理であろう」
ナルホド、ナルホド。
「まあ、油断させておいて隙を突いたのだから、このようなことが出来たのだろう」
ナルホド、ナルホド、ナルホド。
「すまなかった、小手調べはこれで終わりだ――故にお前も“力”を見せろ――――」
“力”、カ――――
「侮るな、本気を出せよ――――イラ。それが私の仕事であり、何より――――私の愉しみなのだから――」
本気ヲ出セ、カ――
「見クビッテイタ――――」
殺スコトガヲレノ使命。
「悪イ、謝ル――――」
殺スコトガヲレノ存在理由。
「ココカラハ本気――――」
殺スコトガヲレノ本質。 ソウ、ヲマエノ貌ヲ見テイルト――疼ク。
正直、疼ク、疼クンダ――――殺セ、ト。
疼ク、疼クンダ――――――――殺セ、殺セ、ト。
「ダガ、今ハコノヨウナ疼キハ不要――――」
ヲレハ――――ヲレノ為ニヲマエヲ殺スト誓ヲウ。
「殺シテヤルサ――アインス――――!!!」
ヲマエヲ絶対ニ殺スト約束シヨウ――――――――――!!!
「よく言った――――!」
顎炎出現――――今度ハ全方位カラカ。
「ダガ甘イ――――!」
十五メートルノ壁ガアルノナラ――ソレヲ跳び越エルマデ――――!
「読んでいた――――!」
着地ト同時ニ炎ノ奔ル感覚。
前方――――否。左方――――否。右方――――否。
ナラバ――
「後方カ――――!」
左ニ跳ブ――――――――――――!
「――――やるな、だが安心するにはまだ早いぞ」
「――――ヅッッ!?」
肩ガ灼キ貫カレル――――!?
「喰らったか――――」
右腕ノ中ヲ通ルヨウニ熱サ。
糞、今度ハ上方カラカ――――!!
左デハナク前ヘ――回避ト同時ニ肉薄ヲ。
「かわしながら攻めるか、ならば――――」
顎炎再臨――右方、左方、ソシテ後方。
シカシ――――前方ハ空イテイル。
「罠――――」
コレハ明ラカニ罠。ナニカガアル――
「ダガ――――」
誘イ込マレテイル、呼ビ込マレテイル――――ダガ、ソレガナンダ。
殺スト、殺シテヤルト、宣言シタ(タ)。
ナラバ――――
「ヲモシロイ――受ケテ立ツ――――!」
罠等破ス。謀略等破ス。陥穽等破ス。
「ソシテソノ先ニ――――」
ヲマエノ命ヲ破ス――――――!!!
「ハッ――――!」
戟化咒術発動――――!
模糊、逡巡、須臾、瞬息、弾指、刹那――――――――――――深ク。
六徳、虚空、清浄、阿頼耶、阿摩羅、涅槃寂静――――――――深ク深ク深ク――――!
刻ミ込マレタ時ノ中――――想像スルハ最強ノ一刀。
ヲレガ求メルノハ破砕ノ一刀。
ヲレガ求メルノハ潰絶ノ一刀。
ヲレガ求メルノハ殲亡ノ一刀。
王殺ノ一刀ヲ今ココニ――――!!!
剛ク、毅ク、武ク、赳ク、猛ク、烈ク、虎ク、雄ク、壮ク――ソシテ何ヨリモ、ツヨク――――――!!!
壊滅、潰滅、撃滅、討滅、亡滅、絶滅――――壊セ、毀セ、亡セ、殲セ、戮セ、殺セ――――――――――!!!
アア――――!!!
殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ――――――――!!!
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「来る――――」
イラの一撃――――最強にして最凶の一撃が。
「来る、来る、来る――――」
これで任務は達成。だがそれ以上に――
「来る、来る、来る――否、来い――!」
待望の一撃が。切望の一撃が。熱望の一撃が――今――――!
「クッ――――」
笑いを噛み殺すのが困難だ。
「クククッッ――――」
それも当然――私はこの為に来たのだ。この為に仕込んだのだ。
「――――ッッ、クッッ」
抑えねば――――更なる愉悦はその破壊にある。
「壊す――――」
後はあれを、あの刀を破す――――名残惜しいが――――
「壊さなければ――」
真の愉悦はやってこない――――
「だからこそ壊そう、壊そう、壊そう――――――」
その為にもイラよ――――
「感謝する――――イラよ――――!」
右手に咒力を篭める、篭める、篭める。
右手を前方に伸ばし、空を握り潰す感覚。
その瞬間――――一メートル先の疾駆してきたイラ一帯の空は爆ぜた。
爆轟――魂にまで響く爆撃は今、放たれたのだ――――




