表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/28

桐島喜助 対 ウーヌス

「は、あ――――――!」

 先手必勝――――彼我の距離約十メートルを疾走する。

「ふん――――――」

 鼻を鳴らし、悠然と待ち構えるのはウーヌス。

「お、ら――――――!」

 射程範囲に肉薄――――――放て、その戟を。

 ウーヌスの鳩尾に拳を叩き込む――――

「遅い――――――」

 不届――――ウーヌスの右手によって掴まれた。

「はっ――――!」

 構うものか――――――次いでウーヌスの下顎骨にアッパーを放つ。

「遅いぞ――」

 頭を僅かに反らし、回避される。

「――――――」

 転じて左側頭部への裏拳、心臓への貫手、横薙ぎ――――

 攻撃に次ぐ攻撃、間断も仮借も存在しない閃撃。斃すつもりで放った連撃。

「――遅いぞ全く」

――――――が、その悉くをいとも容易く防ぐウーヌス。

「威勢だけか、小僧――――――」

 その嘲りを契機に

「――――――づっっ、――がっっ!!」

 掴まれていた右拳を握りつぶされ瞼を一瞬閉じたその刹那に、鳩尾に迅にして重い蹴突が無造作に叩き込まれた。

「ごっ、ふ――――――」

 地面を滑り、止まったところで血塊を吐き出し、呼吸を整えようとする。


――――――く、そ、何が咒術師だ。


 俺の攻撃の悉くを容易に処理――――時に掴み、時に回避し、時に防御した。

 右拳を握り潰した破壊力と格闘術とは似ても似つかは無い、素人丸出しの蹴突にも関わらず、その一撃は迅く、重い。

 更に、咒術においても二手三手上だというのだから――――全く、反則じみてる。


「――――――弱い」


 落胆の響き――――ウーヌスの声が届く。

「が、これだけでは面白くはない――機会をくれてやる。まずは、お前の相手は“私の隷”にしよう」

 そう言い放ち、奴は右腕を前方に伸ばした。

「出て来い、“セルウィー”――――――」

 一言、そう漏らし、奴の手の前方に黒い人型が現れた。

「これは“魔隷(セルウィー)”といってな、創造物――――機能する使役物の一種だ」

 人型――――身長は190センチほど。茶色いコートに黒色のズボン。

「破壊のエスを組み込み、これを造った」

 夜の闇に溶け込む黒い貌に血を連想させる赤い瞳。 

「これを前にその威勢――――――いつまで続くか、愉しみだ」

 その呟きを契機にセルウィーは俺を視る。


――――来る――――――!


「――――――おおっっ!」

 彼我の距離約十五メートルを一瞬で疾駆してから、放たれる石火の拳を無我夢中で頭を振ってなんとか回避する。

「こん、の――――――!」

 鳩尾への拳で反撃――――――

「――――――」

――――ならず。俺の拳は奴の手によって握り、止められていた。

「またそれか、よ――――――!」

 狙うは受け止めた手首の斬断――――手刀を奔らせる。

 放しやがれ――――――!

「――――――」

 だが、手首へ届いた感触は無かった。

「ずっっ――――――!」

 代わりに鋭い痛み。血の迸る感覚。失敗したと否応無く感じさせる悪寒。

 やられた――――――奴は俺の手刀へ手刀を奔らせ、斬断したのだ。

 信じられない――――視認からの反応、判断が恐怖してしまうほどにに迅い。

「――――――」

 無機質な目で俺を捉え、

「があっっ――――――!」

 鳩尾への膝突。

「ぐあっっ――――!!」

 どん、と腹部に強い衝撃。

 ふ、ゆう――――――?

 そんなことを思った後にどんと背中に衝撃。

 浮遊、衝撃――――――もしかして。

 ああ――――――俺は殴り飛ばされたのか、奴の拳によって。

 理解した――――今の状況。奴の強さ。

 拳突――――――たかが一つの拳。されど一つの拳。

 その拳、さっきの俺では防御はおろか視認すら不可能だったのだ。剛にして迅――――それが似合う。威力、速度――――――申し分無い。俺のものよりずっと上だ。


――――――そう、さっきの俺よりは。


「敗ける、か……!」

 何度も抱く不屈をここに。

「敗けてたまる、か……!」

 破損箇所再生――――そして肉体強化。

 まだまだこんなものじゃ無い、俺の力は、俺の限界は。

 中津が言っていたイメージを思い出す。

――――限界の境界線。

 そう、俺はそれを目指す。その境地を。

「はっ、あ――――――!」

 イメージ。強化のイメージ。戟化のイメージ。

 戦え――――さっきの力等、限界には程遠い。

 戦え――――その為の躯だ、その為の桐島喜助だ。

迅く、迅く、迅く――――石火、閃電。

剛く、剛く、剛く――――破砕、潰絶。

 そして次の瞬間――――。

――――――越、越、越――――戟化完了。

「――成った――――!」

 迅く、なったと。

 剛く、なったと。

 感じさせる――覚えさせる――戦える―――!!

――行くぞ――――――!!!

「はっ――――!」

 肉薄は刹那――――いける。

「おらっ――――!」

 拳は弾指――――相手の咄嗟の回避で、鳩尾への拳は逸れ、肋を砕いた音が届く。

「つぎ――――!」

 間髪入れずに下顎へのアッパー。

「――――――」

 結果、脳を揺らすことに成功し

「終わり、だ――――!」

 視線が定まらない間隙に、狙うは鳩尾。

 水月、心窩――――胸の正鵠――――!!!

 今までの一撃では最高にして最速と自負出来るほどの戟を放った。

 届いた――――殴り飛ばした感触は確かにこの拳に。

「やった、か――――――」

 さっきの俺のように浮遊し、落下。

 どんと地面と衝突した音――――そしてむくりと立ち上がる音。

「足りねえ、か……」

 頭部――――頭を狙わないと駄目か。

 バイラヴァの時のような意識を奪うほどの一撃――――今、それが求められている。


「弱い、な――――――」


 突如生じたウーヌスの呟き。

「弱い――――――?」

 今の俺は弱いと、お前の眼には映るのか。

「無論だ。この程度のセルウィーを一度制したことがそんなにも嬉しいのか。脆弱――――素のお前ではやはりそれが限界か」

…………なんだ、こいつ。

「では、アレに咒力供給を、戟化を行おう。今度は――――敗けるかもしれんぞ」

 にやり、と貌を歪める。

――――――腹が立つ。

 俺は準備が出来た――お前を斃すための。

 俺はお前を斃しにきたんだ――――セルウィーなんて眼中には無い。

 だから早く――――

「斃してやるさ――――――」

 セルウィーがこちらを視る。

「行くぞ――――!」

 ウーヌス――――!

 その目的を胸に、疾――――――れなかった。


――――――グチャリ。

 胸に大きな孔。

 孔には腕がささってる。

「ぁ…………」

 ひゅーひゅーと風が通り抜ける。

「ご…………」

 貫通しているからなのだろうか。 

「ほ…………」

 血塊が吐き出されても、口から血が止まらない。

「ぇ…………」

 孔からも。止まらない。

 そして何よりも――――――――痛い。

 胸の中心が。

――――痛い痛い。

 胸の正鵠が。

――――痛い痛い痛い。

 胸の核が。

――――痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――――――!!!

「あ、あああああああっっっ――――!」

 破損箇所、再、生――――――出血を急いで止める。

 衝撃、衝撃――――――何よりも衝撃だったのはこのこと。

――――――今の俺でも視認できないほどに迅かったということ。

 何よりもそれがショックだった。

「く、そ……」

 敵わない、俺は敵わない。

「くそ、くそ……」

 きっと力も。

「くそ、くそ、くそ……」

 それが意味するのは――――

「くそ、くそ、くそ――――――!」

 俺の敗北。絶対的な敗北。それを意味していた。

「やれ――――――」

 ウーヌスの愉悦に満ちた声。

「あ――――――」

 殺られる、殺られる、殺られる。

 さっきのはきっと再駆動を許可した声。

 ならば――――――

――――――ぐちゃり。

 咽を潰された。頭が胴と離れる。

「――――――」

 そのまま地面に失墜――――――させてくれないようだ。

 頭蓋を掴まれている――――まるで脳が握られてるような感覚。

 きりきりと頭 蓋が軋 むお、と。

「――――――」

 頭、脳、脳が脳が脳が潰れつぶれ、つぶ、れ、つぶれつぶれつぶれつぶれつぶれつぶれつぶれ――――。

 きっと次の瞬間には脳はつぶれ、――――――――――――


       ******


 ぐちゃり――――――脳の爆ぜた音。

 鮮血が飛び散る、紅が舞う――――さながら石榴の紅。

「――――――」

 セルウィー、何も語らず。

 そもそも破壊のエスだけを与えられただけの存在。

 そしてその破壊の対象は桐島喜助のみという制限が付いている。

 傀儡――――桐島喜助を駆逐する為だけのもので、それ以外の余分は存在しない。

 バイラヴァのように破壊のエス以外にも知識を与えられ、雪村衣鈴という人間を観察し、知識と照らし合わせ、嗤うという感情表現を学んだものでは無いのだ。

 故に語らず。  

「――――終焉」

 ウーヌス、ぽそりと呟く。

「いや――――――ここからが始まり」

 真の始まり。彼の欲する“力”はこれからなのだ。

「さあ――――」

 桐島喜助は復元される――――元の肉体を捨てて、新たな肉体が創造される。

「――――――始めようか」


 今こそ覚醒――――その“力”を見せろ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ