開戦
「さあ――――――死合おうか」
…………開口一番にそれかよ。
「ふん――――――殴られる覚悟はしてきたかよ?」
負けじと返す。
「殴られる――――――それ以上の“力”を見に来たのだがな、私は」
面白いものが見える筈だ、と続ける。
…………こいつはわからない、本当に。
「わけわからねえことを――――――って、まあいい、戦いの後はそんな減らず口、叩けねえようにしてやる」
そう言い放つと
――――――――“戦いの後、だと”
憮然とした呟き。
「これは驚きだ。お前は戦いに後があると思っているのか。私を生かしておくつもりなのか。殺す気は無いのか――――――つまらん事を言ってくれるな。いいか、私はお前の“力”を示して欲しいのだ。その真意、肝に免じろ、刻み付けろ、忘れるな」
「な、何言ってんだお前? 昨日、お前を斃せば、雪村を元に戻すと言ったじゃないか――――――」
「ああ、言ったな。しかしそれは嘘だ」
――――――な、に。
「お前の現実では真の言の葉しか、返ってこないと思っているのだろうな。しかし私はお前の非現実。昨日のあの言葉はな、お前を引き寄せる為の罠でしかなかったのだよ」
「わ、な…………」
――――――そう、か、よ。
ウーヌスの言う通りこいつは俺の非現実――――――油断、していた。
甘言に翻弄された、ということか。
――――――腹が立つ。
純粋にむかつくが、悔いても仕方が無い。気を引き締めて次に臨めば良いだけのこと。
それより俺が腹を立てているのは――――
「――――なんなんだ、お前は。なんだってそんなに――――――」
殺しを肯定できるんだ。
くそ、癇に障る。なんだってそんな簡単に死を認められるんだ。
「私はお前を殺すぞ。そこに仮借は無い。そこに悲哀は無い。故に――――お前も殺すつもりで戦え、それでこそ意味があるというものだ」
――――――こ、この――――!
「殺せ殺せって煩さいんだよっ! 俺は殺さない! お前がいくらむかつく相手だろうと、雪村を咒鬼にした奴であろうと! ああ、俺はお前が憎い――――――」
殺意を抱いているといって良いほどに。
でも――――――
「俺はお前を殺さない――――――殴る。殴ってやる。何度も何度も何度も」
殴って殴って殴って、自分が犯した罪を確認させてやる。
「ふん――――――その威勢、いつまで続くか見物だな」
すぐに潰えるだろうが、と。
「うるせえくそっ。こんなことしてたって無駄だ――――――始めるぞ」
拳をぐっと握り、力を込める。脚に力を――――即座に動けるように準備する。
「ああ、その前に一つ、景品を示しておこう――――ここだ」
そう言い放ち、手を広げた所に雪村が出現した。
「――――――雪、村」
思わず呟いてしまっていた。
「ああそうだ。これを――――――あのベンチに置いておこう」
数日前、俺と雪村が座ったベンチを指し示して言った。そしてその貌はわずかに歪んでいるように見えた。
「……虚言の代わりだ、一つ教えてやろう。雪村衣鈴に住み着くバイラヴァとやら――――――あれは今のお前の力では無理だが、お前の連れである中津文の手で破壊が可能だ」
「え――――――?」
中津の手でバイラヴァを破壊できる?
「そんなことが――――――」
可能な、のか。
「忘れたのか、彼女の魔劍の正体を?」
――――――武刃槌命之劍。
蘇る、その言葉。
それは確か、戟化限界超越の魔劍ではなかったのか。
「あ――――――」
繋がった。漸く繋がった。
「しかし一つ、策を講じていてな。雪村衣鈴を返してもらってからある一つの策を、な」
「策……?」
「バイラヴァの存在をそう簡単に消させぬ為に、私は常に咒力供給を行っているのだよ」
「……それで、一体何が?」
「察しの悪い奴だな。アレの存在を強めている――――――そしてそれ以上の過剰供給を行えばアレを殺すことも可能だということだ」
――――――エ?
「生殺与奪はこの手にある――――」
――――――、最悪だ。
悪い情報ばかり露呈しやがる。
「だけど――――――」
最初から戦うと決めた。彼女を救うと決めた。
「だったら――――――」
精々、愉しみが苦痛に変わる瞬間を待っていやがれ。
「今度こそ始めるぞ――――――」
覚悟なんて最初からしてる。
「――――――ああ、始めよう殺し合いを」
今ここに、戦の火蓋が切って落とされた。




