決戦前①
「何の、用、だ――――――」
商店街の大通りからは少し離れたところにあるベンチ。そこに俺とウーヌスは移動してきた。
「いやいや、少し、伝えなければならないことがあってな」
どかっとベンチに大股で座り、倣岸不遜な態度で返すウーヌス。俺が見下ろし、睨むのにも怯える翳は無い。
「雪村衣鈴からの伝言だ」
「――――雪村からの伝言……? 雪村は今、話せる状況なのか……?」
「ああ。今は……バイラヴァといったか、あれを抑止してやっているのだよ」
抑止……やっぱり、こいつならバイラヴァを消すことすらも可能なのかもしれない。
「アレからの伝言は一言――――もう追ってくるな、と」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――エ?
「それは、どういう……」
意味、な、んだ?
「言葉通り、アレはお前に戦って欲しくないようだ」
戦って欲しく、な、い?
「アレには私の力を示してやった。私の“力”を、な――――――故に思考したのだろう、桐島喜助では敵う通りが無い、と」
敵わ、ない?
「逃走を許可してやる――――逃げたくば逃げるが良い」
逃げろ、と――――――ウーヌスが強いから?
……悔しいが、ああ、確かにそうだろうな、認めざるを得ない。
中津にも散々言われた。“咒鬼王”は伊達ではないのだと。格が違うのだと。
――――――――それでも。
「逃げたきゃ逃げろ、だ――――――ふざけんじゃねぇよ」
話にならない。取り合う価値なし。
「逃げたって何の解決にもならない。雪村は帰ってこない」
俺の日常は戻らない――――――
「おまえが強いからって、俺のほうが弱いからって、逃げて良い訳が無い――――――俺は、戦う」
戦う、おまえを――――――斃す。
「私を斃す――――――か。ふっ――――ふはははははははははははははははははははははッッッッッ!」
な、なんだ――――――!?
「な、なんだよ! 何がそんなにも可笑しかったんだよ!?」
哄笑しやがって――――――!
「ふっ――――いや、可笑しかった訳ではない。ただ再確認させられただけだ、お前の“歪み”とその“力”を」
“歪み”、“力”――――――?
「おい、それはどういう、意味、だ?」
一体、それ、は?
「気にすることは無い。蛮勇と、無謀と、無鉄砲と嗤いはせん。お前は今のお前のままでいろ、そして私と死合え――――――私を、愉しませろ」
無視するな、この野郎――――!
「そのお前だからこそ、あの“力”を持つのだろう――原理はわからぬが、な」
――――――“力”。
「そうだ、その“力”ってのは――――」
「では最後に一つ、贈り物だ。おそらく、アレがお前に来て欲しくない、もう一つの理由だろう。アレの脳を覗き見たところ、“ある一つの記憶”が過剰反応を示していた。理解は出来ぬが、お前にはわかるのだろう」
故にくれてやろうと、俺の頭部へ腕を伸ばしてくる。
「記憶の複製、転移――――そんなことまでできるのか、おまえは?」
「勿論だ。一応は“咒術師”の名を冠する者なのだからな」
「……ふん、そのまま頭蓋を握りつぶす、なんてことには及ぶなよ」
「案ずるな。ただ触れるだけだ。第一、お前は脳髄を破壊されようと再生する手段を持ち合わせているではないか」
「あ、そうだ、それについて何か知ってる――」
――――かと言おうとした瞬間だった。
泣き止まない少女。
崩れ落ちる少女。
何度も呼びかける少女。
否定し続ける、少女。
忘れてしまえば良い、と思いながらも、忘れ去ることなど出来ない、と慟哭し続ける少女。
雪村衣鈴の―――――過去。
「――――――ではな」
ウーヌスが遠ざかっていく足音。
でも今は、そんなのどうだっていい。
「――――――――あ」
記憶の奔流。脳に流れ込んだ。
それは一瞬の出来事だったと思う。
それは刹那的なものだったと思う。
でも、それで理解してしまった――――
「ああ、そうなのか――――」
“おまえも―――――、俺と同じだったのか、雪村”




