一時の休息④
六時間目開始――――――の前に。
「オラ阪木、行くぞ」
「へっ? いっ、行くってどこへ――――」
「いいから来い」
有無を言わさずに阪木を引っ張る。
「お、おい。六時間目始まっちまうぞっ」
「気にすんな。どうせ授業中に遊ぶぐらいしかやることねえだろ」
「勝手に決め――――って、走るな、走るな――――走るな――――!!」
走るなと言われて走らない男がいると思ってんのか。走るよ、俺は。
走る、走る、走る――――――この辺りで良いな。
減速――――――停止っと。
体育倉庫裏に到着。さてと――――――
「ジュース奢ってくれ、阪木」
「なんでこんな滅茶苦茶に引っ張られた挙句にジュースなんか奢らなきゃいかないんだよ――――――!!」
「小泉さん、あなたと一緒に“曙に散る遊女”が詠みたくてたまらないです、バーイ阪木っと」
「って何書こうとしてんだよっっ!!」
「止めるな阪木っっ」
「いや止めるよっっ!!」
鬼気迫る表情で押さえつけてくる阪木。
ところで“曙に散る遊女”とは微エロの小説だったりする。阪木の愛読書。バイブルといっても良いだろう。
「たーっく、変なこと書こうとしやがって。誰だよ、小泉さんって」
「さあ、誰だろ?」
「おまえが言ったんだろうが――――――って別に良いや。突っ込み疲れた。寝る」
壁にもたれ、目を瞑る阪木。
「ぜひ、故人の顔を見てお別れをしてやってください、皆さん…………!!」
「俺は死んじまったのかよっ!! 皆さんって誰だよっ!! いつから葬式が開いてたんだよっ!!」
い~いツッコミだ。
「……はあ、のどかわいた。なんかジュース買ってくる。お前もなんかいる?」
「そんじゃあ、聖水オレンジを」
「そんなジュースねえよっっ!!」
「んじゃあ、コーラで」
あいよ、と頷き、自販機へ――――そして無事に帰ってくる。
「サンキュー、ほら100円」
100円硬貨を渡す。
「な……」
あん?
「な、な………………」
早く取れよ。
「ななななな……………………」
早く取れっつーの。
「桐島が……代金を払うなんて…………………………!!」
「いや普通に代金ぐらい払うからっ!! そんなに非常識じゃないからっ!!」
「いや、だってよぉ…………。桐島だぜっ。あの桐島が………………どうした、なにかあったのか?」
……失礼な奴。
「いやいや何もねえよ。……ただ、なんとなく、払っておこうかと思っただけだ」
そう、それだけ。ただそれだけ。そう思ったから、そう感じたから。
「……受けとらねえ」
――――――――あん?
「気持ち悪ぃぞ、今のおまえ」
……んだと。
「いつものことじゃねぇか、俺がおまえに金を貨す、なんてな。ああ、いつものこと。だったら、いつも通りにやろうぜ」
「……じゃあ、おまえは俺の永遠の金づるなんだな」
可哀想なやつめ。
「はあっ? んなわけあるかっ。貸した分の金はおまえが授業中に寝ているときに返してもらってんだよ。だから金は返すな。……ただ俺はいつも通りにやりてえだけ。それだけ。落ちつかねえんだよ。なんか居心地悪ぃ。いつも通りにやるって、おまえ、好きじゃなかったっけ?」
……ああ、大好きだ。
……いつも通り。そうか、いつも通りか。
それなら――――――
「あっーーーー!! こんなところでサボってる奴がいるぞーー!!
ちょうど二階廊下を歩いていた教師に聞こえるように大きく。
「へ――――――――――?」
唖然とする阪木。
「いつも通り――――――――だろっ」
そう言い放ち、教師に見つからないようにその場から逃走。
「桐島待っ――――――――――」
当然のように無視。
「またおまえかっ、阪木!!」
二階から一階の屋根、屋根から地面に着陸する体育教師先生。人間離れしてるよなあ………………
「俺は桐島にっ――――――――――」
「そんな言い訳があるかッッ!!」
「体育教師先生っ、人の話を聞い――――」
「誰が体育教師先生かッッ!!」
破旋――――右手の掌を阪木の顔に――
「――――――――――――」
「ひっ――――――――――――」
届くことはなかった。寸止めだったのか。まあそれでも、十分だったらしいが。
「ひっ、ひひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん――――――――――――!」
阪木、精一杯抵抗――――――――――
「やかましいわ人外ッッ!!!」
体育教師先生の恫喝により撃沈。……あわれ。そのまま阪木は気絶したまま連れて行かれた。
放っておこう、こういうのは日常茶飯事だし――――ありがとな、阪木。
体が少し軽くなったところで、これからどうしようか。 もう授業は六時間目だから今から教室に帰ってもなあ。
――――よし、決戦前に美味い飯でも食いに行くとするか。
……最近、まともに授業に出ていない気がするが、まあ、大丈夫だろ。
歩く、歩く、歩く……校門が見えてきた。
――――――え?
校門には“非日常”が。
「――――――――よう」
黒髪、黒瞳の“異形”が立っていた――




